昇段規定の話

昨日軽く触れた話題について。

しばらく前に「ワイドスクランブル」に生出演したときに、「藤井四段は最短でいつ昇段できるのか」ということを質問されました。
それでとっさに(フリートークに台本はない)「順位戦で昇級すると五段になります」と答えたのですが、放映が終わったあとで、日程的に「朝日杯で優勝したら昇段」のほうが先だったということに気がつきました。

失敗したなーと反省したのですが、その後さらに、順位戦はラス前で昇級が決まる可能性があるので、(たまたま)正解だったか。と再度思い直しました。
以前は順位戦昇級による昇段は、年度区切り(つまり4月1日)だったのですが現在は昇級決定日ということに改められています。

その後昇段規定を見直してみたのですが、藤井四段は
(1)もし2月の順位戦で昇級を決めるとその時点で五段昇段。で、その後もし朝日杯で優勝したら六段昇段。
(2)順位戦昇級か朝日杯優勝の、いずれか片方だけを満たした場合はその時点で五段。
(3)2月の順位戦を負け、朝日杯を優勝したらその時点で五段昇段。その後順位戦を昇級すると五段(のまま)。
(4)何もないと四段(のまま)。
ということになると思われます。

ちょっとややこしいですが、(1)と(3)は単なる手順前後で、しかもこの日程の前後は偶然です。
そもそも9回戦で昇級するか10回戦で昇級するかに本質的な違いはないので、ここで差が生じるというのは本来は妙な話なんですよね。
ただ、ともかく現行の規定では、このようになっています。
(※あくまで自分で調べた限りですので、万一間違いがあったらすみません)

 

なぜこのようなことが起きるのか、より本質的な理由を考えてみたところ、おそらく
「○段への昇段規定」
が原則である中に
「段がひとつ上がる規定」
を混在させてしまったからではないか。
というのが自分なりの結論なんですが、どうでしょうか。

ちなみにこのようなケースでより顕著な例は「竜王戦の連続昇級による昇段」で、たとえば今期だと、三枚堂四段が竜王戦で裏街道に回ってから昇級したことで、六段にジャンプアップというケースが生じました。

藤井四段の場合は(1)を満たしたうえでさらに竜王戦で4組に昇級すると、早ければ5月頃には七段に昇段することになります。(竜王戦連続昇級)
現時点でその可能性は低いわけですが、もうすでに何度も信じられないことを起こしているので、もしかしたらあるかもしれません。

昇段規定はある意味では業界の中のことと受け止められがちで(本来はそうではないのだけれど)、これまで世間からあまり大きな注目を集めてきたことは、なかったように思います。
ただ少なくとも、どちらの対局が先につくかによって結果が左右されないほうが、規定として合理的・合目的的だと思いますので、現行の規定は現行として、この点は今後改善されたほうが良いかなと整理してみて(改めて)思いました。

 

あと、規定の変更理由があとから分からないことがときどきあるのですが、たとえば↑に書いた「昇級決定日に即日昇段」という規定に変更された理由を、自分は思い出せません。
たぶんそのときには何か理由があったのだろうと思うのですが。

余談ですがもう10年ぐらい前のこと。
2月の順位戦で、競争相手だった僕が負けたことで戸辺君(現七段)のB2昇級が決まって、抜け番だった彼は別の対局をしている日付で六段昇段が決まった。というようなレアケースもありました。
たぶん、想定外だったはずで、その後もこういう例は他にないはずです。
規定を新たに作ると、不思議とこういうことが起きるんですよね。

そんなこんなで、規定はなかなか難しいところもあるんですが、おそらく世間から注目される機会でもあると思うので、問題提起しておきます。

17件のコメント

  1. 「ワイドスクランブル」での片上さんのコメントは、過不足なくまとまっていてとてもよかった。他の出演者ともいいコミュニケーションがとれていた。出演者からは片上さん、ひいては将棋棋士への敬意も感じられた。

    1. どうもありがとうございます。そう言っていただけてなによりです。

  2. ツイッターでのリプライにあった「タイトル2期➡︎八段じゃないのはなぜ」など昇段規定の謎/言葉足らずについては、何度も個人のホームページやブログで目にして来たと思っています。連盟の正会員である棋士の皆さんが、頓着しないでいるのが不思議です。

    1. 自分自身はいままで考えたことはなかった気がします。何らかの歴史的な経緯があるのかもしれません。

  3. 下世話な話になりますが。
    竜王戦や順位戦のクラスでは収入に差が出る、と聞いたことがあります。
    段位での差はどうなんでしょうか?
    あまり差が無いなら、プロの方々もそこまで執着が無いのかなと感じてしまいます。

    1. 昇降級に比べて差は小さいかもしれませんが、もちろん恩恵はありますし、段位は大切なものだと皆思ってますよ。

  4. Q級2組に強い若手が多いと思いますが、多すぎてなかなか上へ上がれません。
    各級の昇段人数(2か3)は少なすぎるのではないですか?5~10人ずつの入れ替えにした方が良いと思うのですが…

    1. そういうご意見もあるでしょうね。
      個人的な意見としては、極端に少ないとまでは思わないです。
      ただ定員の決まってないクラスは際限なく倍率が上がる可能性があるので「○人以上は○人昇級」の形にするのと、あとは当たりをスイス式にしたほうが良いように思っています。

  5. 増田康宏四段(20歳)が規定の成績を挙げ、2018年1月12日付で五段に昇段しました。と1月12日に発表がありましたが、協会HPには99勝の記録しかありません。
    なぜ昇段となったのか、その記録が公開されていないのはなぜなのか理解できず素直に受け入れられません。教えてもらえないでしょうか、よろしくお願いします。

    1. すみませんが、私からはお答えできません。
      ただ、この種のことはときどき起こっていて、制度を改善したほうが良いというのが個人的な考えです。
      以前そのようにブログに書いたことはあります。

    2. 増田康宏五段の昇段は、第26期銀河戦本戦Dブロック6回戦、青嶋未来五段に勝って五段に昇段したようです。対局日は、1月12日ですが、放映日が3月8日でしたので放映日を基準とした思います。

  6. リンク先の連盟の昇段規定に七段は「竜王ランキング戦連続昇級または通算3回優勝」五・六段は「竜王ランキング戦連続2回昇級または通算3回優勝」とありますが、
    「連続昇級」と「連続2回昇級」の解釈に違いがあるのでしょうか。

  7. 藤井七段の昇段根拠を調べていて、ここにたどり着きました。
    ほぼあり得ないレアなケースが実現し、1月の予言が当たりましたね。

    ところで、竜王戦の連続昇級による昇段は、なぜ前段時のものも含めてよいのでしょうか?
    (例・五段時に4組で昇級し、その年に勝星もしくは順位戦で六段に昇段し、次の年に3組で昇級した場合は七段昇段)

    1. なぜかは分からないのですが、前にも書いた通りで、前段時の昇級を含めるのは制度がおかしいと私は思っています。
      同じ意見の棋士が多いと思います。

  8. 藤井聡太7段昇段ニュースを探っててここに来ました。
    > 現時点でその可能性は低いわけですが、もうすでに何度も信じられないことを起こしているので、もしかしたらあるかもしれません。
    と予想されていたのはさすがです。

    現行の昇段規定は対局順序により段が変わりうるという問題はありますが、傍から見るとそこまで不合理だとは思えませんし、それをうまく行かせる棋士は華を持っているんだと思います。
    藤井7段は9連勝、棋戦優勝、決勝進出という表街道で昇段しており、非常に華があります。

    考え方を変えると、スターの卵が出た時に世間にPRできるような制度を前もって作っておいた先人の知恵がここに結実したともいえます。
    単に強いというだけよりは、一般にわかりやすい目に見えるPR点がある方が、ニュースのタイトルにしやすいですし。

    そういう意味で、(偶然かもしれませんが)将棋を世間にうまく宣伝できる制度でよかったとと思います。

本日(2018年1月31日)を以て、藤井聡太「四段」は最後になるかもしれない - 将棋ウェーブログ へ返信する コメントをキャンセル

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