往復ビンタ

【将棋】
(1)同じ局面の先後両方を持って立て続けに勝つ(もしくは負ける)こと。
(2)同じ相手に立て続けに勝つ(もしくは負ける)こと。

昨日のNHK杯(羽生ー屋敷戦)を見ていたら、かなりのスピードで仕掛けの局面まで進んで、その勢いのまま、最近目にしたばかりの局面になってました。

▲7四歩の防ぎで△7四桂と打った局面。
後手桂得だが玉が危険な状態なのをどう見るか。

角換わり腰掛け銀の新型非同型、▲4五桂ポンの仕掛けから20手弱進んだ局面。
先週末の王将リーグ、▲広瀬ー△羽生戦ではここから▲5六歩△5三玉▲5五歩と進み、結果は先手勝ち。
昨日の感想戦でも、▲5六歩とじっと取っておく手は有力だったと話されていました。

自分の感覚では、この局面は桂得の後手が指せそうに思えるので、昨日の将棋は内容はともかく、展開としては自然な感じでした。
NHK杯の将棋のことを広瀬竜王が知っていたのかどうか、分かりませんが知っていた可能性も十分にあると思います。
往復ビンタ、は羽生先生の得意戦法のイメージでしたが強者はみんな同じことを狙っているものなのだなと思いました。

あと広瀬竜王はよく「序盤は互角で良いという研究」だと話していると思うのですが、この将棋に関してはそういう感じではなく、準備の差だけである程度一気に持っていくつもりだったのではないかなと想像できます。
当然ながら羽生九段といえども負けることはあるので、それ自体に驚きはないのですが内容的にこの2局が続けて生じたことは意外で、ダメージも少なからずありそうな気がします。

今日は振替休日で3連休の最終日、ですが公式戦の中継は王将リーグなど計3局。
短い期間にトップ棋士同士の対戦が続く王将リーグですが、進行中も当然ながら定跡のアップデートは続いていて、それが実際の対局で反映されていると知る一場面でした。

文化の日、職団戦

今日は秋の職団戦ですね。出場される皆様は頑張ってください。
と言っても明らかに出遅れてますが(笑)、陰ながら健闘をお祈りしています。

今年は立川で開催とのこと、例年10月でしたが今年はおそらく会場の都合でこの時期になったのでしょう。
オリンピックの影響などで会場探しも一苦労だと思います。
ただ、たまたまかもしれませんがちょうど「文化の日」に大きな将棋大会が開催されるということは、とても良かったのではないでしょうか。

こんなイベントが行われるのですね。最近知りました。
日本将棋連盟会長 佐藤康光九段による 「特別段位認定&即日免状発行会」のおしらせ
これは過去になかったことではないかと思います。

職団戦はJT杯の子ども大会などと並び、将棋界でもっとも将棋ファンが集まるイベントの一つなので、これに限らず大会以外にもいろいろなことをやっていくべき、とは以前から思っていました。
たとえばモバイル中継のPRをしたりというのもその一環で、今回も女流棋士会がブースを出すみたいですね。
他にも物販とかに限らず、棋士や将棋連盟がどんな活動やファンサービスをしているのか、知っていただく機会にしていければ良いと思います。

将棋文化振興自治体「全国将棋サミット2019」開催のご案内
今回は名古屋で開催とのこと。
愛知県はいま、一番将棋が盛り上がっているところで、開催いただけるのは良かったと思います。

バックギャモンから生まれた「リコー将棋AI棋譜記録システム」
=棋界・記録係の人手不足解消に貢献=
その後、どうなっているのか気になっていたので続報が読めたことは喜ばしいことです。
>プロ棋士たちがルールを逸脱して駒を動かすことはまず考えられないが、自動化する以上はあらゆる想定を組み込んでおかねばならない。
という一文は苦笑しつつもなるほどでした。
先日は女流王座戦第1局のブログ(「AI棋譜記録システム」)でも紹介されている様子が掲載されていました。
「完全自動化」の実現がとても楽しみです。

では今日はこのへんで。

アンチコンピュータ戦略とか

昨日の女流王将戦最終局は、西山さんが勝って初の二冠に。
今年度に入ってから女王防衛→女流王将奪取と里見さんに勝った実績は大きいですね。そもそも里見さんがタイトル戦で同じ相手に連敗したのも初めてでしょうか。
西山さんは才能を感じる将棋を指すので、見ていてうらやましく感じることもあります。
これで里見さんの全冠制覇は大きく遠のきましたが、ライバルの出現はモチベーションにつながり喜ばしいことかもしれませんね。想像でしかないですが。

//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

王将リーグの広瀬ー羽生戦は広瀬竜王の勝ち。
藤井七段との最終戦に期待が高まる展開になってきました。

本局は午後中ずーっと長手数の詰む、詰まないの読みを必要とする、とても難解な将棋でした。
実は最近の角換わり腰掛け銀の将棋を見ていると、こういう展開がとても多いです。たとえば一昨日のB1屋敷ー千田戦などもそうでした。

表題の件はもう5年以上前のことになるのですが、コンピュータは序盤が苦手なのでそこで大量リードを奪うしかないと「錯覚」されていた時期がありました。
実際は茫洋とした局面のほうが人間との判断力の差が生じやすい、と知られるのは数年後のことです。

当時の自分が気づいたこととして、長手数の詰む、詰まないの読み「の先」の正解を見つけることが、唯一のアンチコンピュータ戦略である、ということがありました。
コンピュータは「詰むか詰まないか」を読み切る能力は極めて高いものの、詰みを読み切ることが「いま、必要かどうか」を判断する能力は高くないので、そこに人間の長所が発揮できる部分があるからです。
もっとも現在のコンピュータの精度ではそれも難しくなったとは言えます。

おそらく当時のソフトで昨日の将棋とかを調べると、難しすぎて正しい判断ができず、結果として最善手を返せない可能性も高いのではないかと思います。
最近のトップの将棋はお互いにある程度調べて(準備して)対局に臨むので、それがコンピュータである程度大きな評価値が出るような展開を避けることにつながり、結果として数年前の時点で考えられたアンチコンピュータ戦略のような展開によく進んでいる、という仮説を持っています。
これが正しいかどうかは、はっきりとは分からないのですが、その一面として序盤が短く終盤が長い将棋が増えている。というのはあるのではないかと。

人間とコンピュータが戦う時代は過去のものになったわけですが、その当時とは違った形でコンピュータに対峙する最適戦略自体は必要とされていて、その戦略はある程度予想された範囲に収まっている。
というのがこの1年ぐらい感じていることです。

おそらくこの流れは今後もしばらく続くと思うのですが、さらにその先どうなっていくのかは、いま、関心を持って自分なりに考えているところです。

世代論

自分の対局があった関係でスルーしていたのですが、月曜日の新人王戦は高野四段が競り勝ち、星取りとしては逆転での初優勝。
年下で段位やクラスでは上を行くエリートを撃破しての優勝は見事でした。
これは将棋界的には少ないケースで、もちろん師匠の木村王位ほどではないにせよ、大変な実績だと思います。

本人もインタビューで答えていた通り、この世代はタイトル獲得者・優勝経験者が多数いて、その中では高野四段は遅れてきた大器と言えそうです。


ちなみにこのメンバーには高見・斎藤・八代・三枚堂・池永・高野・香川が該当、ひとつ上が永瀬・菅井、ひとつ下が阿部光・佐々木勇など粒ぞろいです。
(段位等略)
このツイートをしてから、ちょっと気になって調べてみたところ、自分の世代がいかに谷間世代かということが分かりました。

まず同学年の棋士は4人いて、優勝経験者はゼロ。
一学年上は4人中1人で、ひとつ下は3人中1人。
二学年上は6人中1人で、ふたつ下はなんと棋士自体がゼロ。
棋戦優勝がいかに大変かということが分かります。

ただ、棋士になれた人数という観点ではそこまで少ないわけでもなく、自分の場合奨励会同期で見るとむしろかなり多いほうです。
しぶとく頑張ってる世代ではあるかな、と思います。

あと、優勝者の数はすなわち棋戦の数、特に若手棋戦の数に大きく左右されます。
自分の世代の場合、若手時代に過去の若手棋戦が終了あるいは縮小してしまい、現在の若手棋戦のまだ誕生していない時代に当たってしまいました。
昨日書いた「七段昇段が重なっている現象」も、棋戦数の少ない自分たちの世代がたまたま続けて上がったのと、棋戦数・昇段規定が増えたいまの若手の中で勝率の高い棋士がそこまで到達したのが、時期が重なった結果ではないかと思われます。

斜陽産業、という言葉が一瞬流行りかけた頃から十数年経ち、いまは将棋界にとって(自分の知る限りでは)一番良い時代なので、いわゆる「黄金世代」のようなものが誕生しつつあるのも、ある程度は環境による必然かなと思います。
世代間のつばぜり合いというのは、特にプロ生活が長く続く将棋界では面白いポイントの一つだと思うので、これからも注目して観ていただけたらと思います。

昨日、同世代の副会長が世代論について書いていて興味深かったので、また違った観点からすこし書いてみました。
藤井七段に同世代がいない、というのはたしかに言われてみるとなるほど興味深い視点で、渡辺三冠に年の近いタイトルホルダーが広瀬竜王や佐藤(前)名人まで離れてしまっているような現象が、彼にも起きる可能性はあります。
あとC2に十代の棋士がいない状況が今後いつまで続くかも、地味ながら注目すべきポイントなのかもしれません。

それではまた

観戦の一日

昨日はゆっくりと将棋観戦の一日。
負けが込んでいても、将棋自体は面白いと思えているのは自分にとっての救いです。

リコー杯は西山女王の先勝。軽い逆転勝ちと思います。
近年の女流タイトル戦は挑戦者が星を先行すれば盛り上がる、という状況が続いています。
西山さんはいま現在で里見さん相手に逆転勝ちを収めたり、あるいは3タテしたりという可能性のある唯一の女性だと思うので、これで盛り上がるというよりはすこしリードした感じもします。
今日が移動日で明日が女流王将戦の最終局、というのはすごいスケジュールで、その明日はかなりの大勝負ですね。

竜王戦、佐藤和俊さんが1組昇級で七段昇段。これは大変な快挙です。
実は近年、六段→七段の昇段が大流行(?)していて、昨年と今年で数えてみると自分を含めて実に15人目でした。
さすがに過去に例のない数字ではないかと思います。

特に同世代が多く、昇段順に(敬称略)千葉・宮田・西尾・横山・村中・佐藤和、あと数勝なのが村田智・佐々木慎、自分はこの全員と三段リーグでの対戦があります。
棋士になって15年が経つのですが、よもやこんなことが起きるとはちょっとびっくりです。

B2順位戦は丸山九段が唯一の全勝を守り、1敗も軒並み星を伸ばす展開に。
最後に残った2局の飯塚ー藤井戦・中田ー飯島戦はいずれも詰む、詰まないの超難解な攻防で、詰ましきったお二人が見事でした。
秒読みの最終盤は観戦していて一番面白い場面ですが、対局者自身が正確に指すのは技術と精神力が必要で、本当に大変なことです。

今日はB1の順位戦など。