東西の違い(続)

すこし前のこと、こんな記事がありました。
対局の席次、上座の譲り争いで神経戦 合理的な藤井七段
(朝日新聞デジタル)
杉本昌隆八段の「棋道愛楽」というコーナーで、いつも楽しませていただいています。

この記事に出てくる

向かって左側が「上座に座るべき」棋士なのです。

という記述、実はこれは関西将棋会館での対局の話で、東京では逆に、右側に上座の棋士が配置されています。
名人戦棋譜速報などでは、対局室入り口のボードの写真がアップされていることがよくあるので、よく見ていると、分かると思います。

ということをこないだつぶやいたら、とある親しい記者の方が、知りませんでしたとおっしゃっていたので、もう一度書いておきたくなりました。
たしか前にも書いたことがあったような、と思って調べてみたら、昨年の春のことでした。
席次の話と、東西の違い
どっちかに統一しても良いと思うのですが、たぶん、今後も統一されないと思います。

上の記事で杉本さんも書かれていますが、最近は特に若い棋士だと、以前ほど「上座を譲る」習慣(手筋?)は見なくなってきた気がします。
個人的には、よほどの格や関係でない限りは、そのほうが望ましいかなと思います。

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これとは別に、どっちかに統一してほしいなあ、と思っている東西の違いもあって、特に大きなものが「秒読み」です。
プロの対局では、「1分未満切り捨て」という独特のルールがあり、「残り10分からは秒読みをしてもらうことができる」ということになっています。

で、これを関東では「30秒、残り5分です」という感じで記録係が伝えます。
30秒のあと40秒、50秒、55秒と進んで、そこで着手すれば、残り時間は減りません。(この場合だと、残り5分のまま)
これが関西では「残り5分です、30秒」となります。順番が逆なのですね。
別にどっちでもええやないかという話なんですが、ではなぜ東西できちんと使い分けられているのか、長年の謎です。

僕はかつて大学進学で東京に出てきて奨励会も関西から関東に移籍したわけですが、それ以前にも何度か記録を取る機会はありました。
東京に出てきて、秒読みの仕方が違うというのは不可解だったのですが、まあエスカレーターみたいなものかと思っているうちにすぐ慣れました。

ただ、これは秒読みというけっこうシリアスな場面での話なので、できれば統一したほうが良い気がするんですが、どうなんですかね。
僕の予想としては、これも今後も変わらない気がします。

あと、数年前に順位戦でB2以下がチェスクロック仕様に変わり、前期から王座戦もそうなりました。
今後は「1分未満切り捨て」が主流ではなくなっていく可能性もあります。
もしそうなれば、それこそどっちでもいい話になりますね。

他にも東西の違いはいろいろとあるので、また機会があれば書きたいと思います。

王座戦とか

1日空きましたが一昨日の王座戦準決勝は豊島名人の完勝でした。
羽生九段のタイトル100期挑戦はまたもお預け。
やはりタイトルに挑戦するというのは大変なことですね。

藤井聡太七段がタイトル挑戦の最年少記録を更新するか、というのは多くのファンの関心事だと思いますが、特に期待が高かったと思われる(今期は本戦からの出場なので)この王座戦に関して言えば、

藤井七段に勝った佐々木五段に勝った羽生九段に勝った豊島名人が挑戦者決定戦に進出

という結果になっていて、なんというか、やっぱりタイトル戦に出るまでの道のりはとても遠いということが分かります。
次の竜王戦はどうなるでしょうか。

豊島名人は王座戦と竜王戦でどちらも挑戦の可能性を残しており、他に王座戦では永瀬叡王、竜王戦では渡辺三冠も残っているので年度終了時にはタイトルがいまよりさらに集中している可能性もあります。
どういう結果になるかはもちろん分かりませんが、昨年夏の状況を思い出してみると、今の状況はかなり意外な感じはします。

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モバイル中継、昨日は配信自体がなかったみたいですね。
(先週の土曜もそうだった?)
以前は、「毎日、将棋を観ることができる」というのを一つのコンセプトにしていたので、公式戦のない日も注目局の振り返りなどを入れていたのですが、最近はやらなくなったのかもしれません。

このところ気になるお知らせもいくつかあったりして、サービスの後退に見える部分は残念なのですが、そこにきちんとした思想というか、方針があってのことならば良いなと思うばかりです。
場当たり的な対応に終始しているようでは、経営とは言えないので。

このブログを読んで下さっている方はよくご存じと思いますが、僕は立ち上げ~中興期の運営に長く携わった身として、いまもモバイル中継への思い入れは強くあります。
かつての「熱」がなくなっていくのは仕方ないとしても、長く着実に続けていくことで、むしろこれからいっそう将棋界の柱を担う存在になってほしいと願っています。

なお、今日明日は日祝ですが、公式戦の対局があり、中継もあります。
ぜひご覧ください。

挨拶と握手

昨日たまたまtwitterで見かけたんですが、対局後に対戦相手と握手を交わすシーンが、放映されたんでしょうか?
未確認なのですが、今日はその情報を見て思い出した話を。

将棋には3つの挨拶があります、と我々プロはよく学校などで教えています。
「おねがいします」「まけました」「ありがとうございました」です。
このうち「まけました」は将棋に特有のもので、「自分で負けを認める」競技は他にはないとよく言われます。
幼少期の将棋の経験が、その後の成長に役立つと言われるゆえんでもあります。

いっぽう「ありがとうございました」は多くの競技にあります。
ボードゲームではきちんと声に出すことも多いと思いますし、スポーツなどでも、試合終了後に「礼」をするのが一般的でしょう。
これは相手への敬意を示す、という精神文化の顕れだと思います。

「ありがとうございました」を英語にすると、当然ながら「thank you」です。
将棋がこの先もっとグローバルな競技になったら、終了時の挨拶は「ありがとうございました」ではなく「thank you」になるかもしれません。

では「おねがいします」はどうかと考えると、やはり一礼したり、なんらかの声を掛け合うことがボードゲームでは多いように思いますが、これに当たる外国語はたぶん存在しません。
僕が趣味としているバックギャモンでは、代わりに「good match」(良い試合を)と声を掛け合うのが一般的です。
これはこれで良いと思いますが、「お願いします」という独特の言い回しは、日本的でとても良いもので、これからも残したい、あるいは広めていきたい精神文化であると思っています。

代わりに、日本には存在しない習慣もあって、これが冒頭の「握手」です。
欧米など日本以外の多くの国では、ゲームの終了時に相手と握手を交わすことが一般的で、開始時にも交わすことがよくあります。
また敗れた側が「thank you」と言いながら握手を求めることが、試合終了の合図になったりもします。
僕はバックギャモンでしか知りませんが、おそらくチェスとか、他のゲームも同じではないかと思います。
これはこれで良い習慣だと思うので、多くの将棋勢にも、知ってもらいたいなと以前から思っていました。

将来、将棋がshogiになったら、駒を片付けたあとにshake handsで対局を終えることが、一般的になるかもしれません。
それはそれで、面白い未来ではないでしょうか。

B1とC2 妙手の多い一日

昨日はC2の後半戦があり、これでA級を除いて全クラスすべての2回戦が終了。
日を同じくしてB1は他クラスに先駆けて早くも3回戦。
先月もまったく同じようなことがありましたね。

3局進むとだんだんと星が割れてくるので、リーグ戦の展開も見えてきます。
若きタイトルホルダー・永瀬叡王の3連敗は意外ですが、将棋の内容はどれも大熱戦で、さすがにこのクラスは大変だということでしょう。
昨日の最終盤、▲2九歩は今朝見て感動しました。
1分将棋の中、斎藤王座が冷静に対処して逆転にはつながらなかったですが、こういうソフトが評価できない渾身の一手は、書き留めておく価値があります。

1日20局もあると、すべてをリアルタイムで観るのは大変だし効率も悪くなるので、その他もB1を中心に観戦。
谷川先生の▲9五角は見事な一手でした。
終盤がすべて一本の線でつながっているような、ああいう将棋が「光速流」と呼ばれファンを魅了してきた所以なのだと思います。

阿久津ー屋敷戦の最終手、▲7二銀も次の一手のような妙手。
伝説の▲5二銀ともちょっと雰囲気が似ています。
一度はああいう手をやってみたいものですね。

C2では最後に残った石田ー黒沢戦、▲7二飛はゴツい決め手でした。
この将棋は序盤から大乱戦でセオリーの通用しない将棋とはいえ、居玉で美濃囲いを攻め倒すとは恐れ入りましたね。

というわけでいろいろあって、妙手の多い一日だったと言えそうです。
これからC2の残りの将棋にも目を通したいと思います。

竜王戦、B2ほか

昨日は今年度初めての、連盟からのお仕事で東京メトロの支部にお邪魔してきました。
僕は子どもの頃から路線図とか時刻表が好きだったので、いまになってこういう機会がいただけるとは、何だか感慨深いものがありました。
車掌さんや運転手さんなどのお仕事の話が聞けて、楽しかったです。
どうもありがとうございました。

指導のほうは、かなり久々だったこともあってちょっと感覚が鈍っている気がしました。
やっぱり何事も日頃の慣れと訓練なのでしょうね。
最近は指導に出かけるときは楽しんでいただけるよう、いくつか素材を準備していくのですが、まずは手が見えないといけないのは当然なので、改善したいと思いました。
また機会がありましたらよろしくお願いします。

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昨日はB2順位戦でしたが、飲んで帰ってきたので軽く棋譜一覧で眺める程度にしました。
最後に残った中川ー中村戦はすごい将棋でしたね。
終わったら寝よう、と思ったもののその気配がなく、途中であきらめましたがそれから1時間ぐらいやってたみたいです。いやはや。

今朝起きてから、その将棋も含めてすべて目を通しました。
他では振り飛車党同士の相居飛車、鈴木ー佐々木戦が面白かったです。
全体的に戦型がかなりバラけていた印象で、多士済々のクラスならではかもしれません。力戦も多かったですね。

それと名局の呼び声高い竜王戦本戦の久保ー藤井戦。
これは帰京後に見たのですがリアルタイムで観るべきでしたね。見逃したのは仕方ないとはいえ痛恨です。
佐藤ー木村戦も面白い将棋でした。
今期の竜王戦本戦は特に熱戦、好局続きの印象で、この後も期待が高まりますね。

では今日はこのへんで。