叡王戦など

昨日は将棋連盟の総会でしたが、その夜には来期叡王戦の組み合わせ発表会が行われていました。
そこで「叡王戦がアベマでも放映される」旨の発表があったようで、まったく知らなかったのでびっくりしました。
すこし前に協業が発表されたものの、その後将棋界で具体的な話は聞いていなかったのでその第一弾という感じなんでしょうか。

叡王戦はクラウドファンディングとか、最近も新たな取り組みがあったりして注目はしているところですが、将棋連盟サイドから何の発表もないのは、ちょっと心配になるところです。
あまり知られていないかあるいは関心を持たれていないかもしれませんが、「日本将棋連盟」もまた、すべての棋戦において主催者なので。
一棋士としては、やはり良い将棋を観ていただけるように頑張ることが一番ですね。

将棋会館の移転に関することも、各紙で報じられており、今後将棋連盟からもリリースがあることと思います。
千駄ヶ谷にある現在の会館は、手狭になってしまって久しく、問題を先延ばしにしてしまううちに老朽化が進んできているので、議論の俎上に出たことはまず良かったと思います。
今後さまざまな困難が予想される中で、なんとか良い形で実現することを期待しています。

名局再び

昨日の王位戦挑戦者決定戦は、木村九段が勝って挑戦権を獲得。
羽生九段のタイトル100期挑戦は持ち越し。
リアルタイムで観てなかったのが残念でしたが、またしてもすごい名局が誕生したようです。
毎局のようにこんな死闘を繰り広げながら勝ち上がるというのは、本当に大変なことですね。

昨日の将棋は飛車を切って自陣に金を埋めた(71手目)あたりが、なんとなく昨年の竜王戦第1局と雰囲気が似ている感じがしました。
横歩取りの将棋は特に形勢判断が難しく、大局観が大事になる印象で、ああいった手順で形勢のバランスが取れていたというのはさすがの一言です。

その後も終わりそうでなかなか終わらないという戦いが延々と続きました。
「難易度の高い局面や状況が多い」「手段を尽くせば簡単には終わらない」のがやはりトップの戦いなのですね。
玉そばの金2枚を次々にタダで取られて難しいとか、なかなかない状況だと思います。

豊島王位ー木村九段戦はトップ棋士同士の中ではまだ比較的対戦が少ないほうだと思うので、どんな戦いになるか非常に楽しみです。

今日は総会につき、中継のない一日。

新記録、会見

一昨日の興奮がまだ冷めやらない感じですが、あの王位リーグプレーオフを経て今日は中一日で挑戦者決定戦なのですね。
大変な日程でしかもあの激闘を思うと、本当に棋力だけでなく気力・体力が充実されていてすごいなと心底感じます。
また羽生ー木村戦はつい先日、竜王戦の本戦進出を懸けた大きな一番で対戦があったばかりでもあります。

昨日のブログを書いたあとで、改めて会見の様子を読みました。
羽生九段の記者会見(王位戦中継Blog)
その他、もちろん各紙・各局で大きく報じられています。

非常に難易度の高い局面や状況を迎えることが多くなりました。間違いやすい局面に出会うことが多くなっているということは、ここ1年くらいの大きな流れとしてはあるのかな、と思います。

これは最近よく言っておられる印象で、僕自身もたしかにそう感じます。
何度聞いても(書いても)、現代将棋の本質を突いた一言ですね。

今回のインタビューで印象に残ったのは、まずこの2つです。

手段を尽くせば簡単には終わらないという側面もある

将棋そのものを解明しようとは思っていなくて、限りなく不可能なことと思っています

これは将棋の難易度が上がってきた、という実感ともたぶん関連しているのだと思います。

僕の勝手なイメージですが羽生先生やいわゆる羽生世代のトップ棋士の方々は、将棋を解明しようという気概を持ってやっている、という側面が強くて、その点を前面に押し出しているように感じることもありました。
それから20年あまりが経って、こういう言葉が語られたというところに年月の重みと将棋の底知れぬ奥深さを感じます。

そういえばいまの若手棋士からは自分の世代と比べても、答えを突き詰めたいという気概のようなものはあまり感じなくて、より現実的というか、分からないなりに最善を尽くすことが大切、という風潮を感じています。

そして「分からないなりに最善を尽くす」ことは、もちろんとても難しいことです。
だからこそ、こんな一言が出てきたのだと思います。

ここ最近のほうがやるべきことが多い

こんなに短くて迫力のある言葉は、いつものことながら、さすがですね。

What a day!

昨日は本当にすごい一日でした。
昼間は練習将棋を指していたのですが、夕方帰ってきてからは、中継にくぎ付けになりました。
終わりそうでなかなか終わらない戦いが延々と続いて中断するタイミングもなく、食卓にまでタブレットとスマホを持ち込んでしまいました。

棋聖戦第1局は、渡辺挑戦者の有利な時間が長かったように見えましたが、終盤の逆転。最後の詰むや詰まざるやはまさに手に汗握りました。
駒を捨てていってギリギリ詰まない、という流れはだいたい負けとしたものですが感想戦コメントによればその先に(先手に)勝ち筋があったようで、最後は指運としか言いようがないでしょうね。
タイトル戦の渡辺さんはああいう流れで勝ちを引き寄せる場面を何度も目にしているだけに、豊島棋聖の充実ぶりを感じました。

羽生九段は最多勝の新記録達成、NHKをはじめニュース速報もたくさん入り、その後の報道量もすごかったですね。
そして将棋の内容が素晴らしかったと思います。
どうしても、すごいものを目にすると語彙が貧困になってしまいますが本当にすごかった。すごい記録です。すごい。

最後に残った木村ー菅井戦はまさに死闘でした。
こちらは延々と形勢のよくわからない長い戦いが続いているように見えましたが、基本的にはずっと後手が押している流れだったようです。
100手以上も延々と苦しい局面を粘り続けて最後にチャンスをモノにする、まさに百折不撓の逆転劇でした。

将棋はすこし不利なほうが良い粘りをすると、簡単には決着がつかず見ていてハラハラするような展開が続きます。
振り返ってみて、やはり3局ともそういう将棋だったのだと思いますね。
昨日の将棋のうち1局は来春の名局賞に選ばれる可能性が高そうですが、どうなるでしょうか。

熱い戦い

昨日は王座戦が大熱戦でした。
熱戦、とよく使いますがこの熟語を分解すると「熱い→戦い」という修飾関係になっています。
昨日の将棋などはまさにそれにふさわしい一局だったのではないかと思います。

終盤は歩の目の前に▲5三桂不成とか、香の目の前に△9四銀打とか、あまり見られないような妙手風の手が連発して、さすが才気煥発な若者同士の将棋、という内容でした。
将棋を観るのが面白いのは特にこういう場面で、こういう一手一手を通じて勝負の「熱」が伝わりやすいのが将棋の良いところかなと思います。

トーナメントで次に待ち受けるのは羽生九段で、佐々木大地君にとっては公式戦初手合になるのですね。
羽生先生と対戦したい気持ちは誰もが同じ、ほとんどの若手棋士が持っていると思います。藤井君に勝って次は羽生先生、という状況の高揚感はすごそうです。

いっぽうタイトル初挑戦が期待される藤井七段ですが、最年少記録更新はやや厳しくなってきたかもしれません。
彼に触発されて周囲のレベルがさらに上がってきていることが、実は一番大きな要因なのではないかと最近見ていて感じます。

今日から三冠vs二冠の棋聖戦5番勝負が開幕、第1局の舞台は淡路島。
戦型は矢倉系極限早繰り銀、これは平成新手白書にも書いた戦型ですが正直言ってここで矢倉系の出だしを投入してくるとは意表を突かれました。
でも考えてみると、周囲にそう思わせるところが、渡辺さんらしくもありますね。
早い▲6六銀と後から▲4八銀、2つの銀の使い方がおそらく工夫したところで、この2枚の銀の動きがこの後の序盤戦における注目ポイントだと思います。

そのほか王位リーグのプレーオフ2局など5棋戦6局、好カード目白押しで今日は豪華な一日です。