対局

今日はヒューリック杯棋聖戦の対局です。
新人の山本四段と指すのは練習将棋も含めて初めてなので、楽しみにしています。
戦型はたぶん相手の三間飛車になると予想しています。

春になると対局が少なくなるのは例年のことではありますが、今年は特に深刻で、3月の初めに順位戦を終えてから、1か月半ほど対局がなく、そこで負け、今日は再び1か月ぶりの対局になります。
ただこの後、久々にNHK本戦の対局も控えていて(日程は書かないでおきます)、そちらに向けても準備しているのでそれなりに気合は乗っているつもりです。

実戦不足がどうか、なんですが練習将棋は多少指しているのと、最近はなるべく正座の練習をするように心がけているので、それが良い結果につながってくれればと思っています。
心を込めて、良い将棋を指せるよう頑張ります。

昨日の中継

昨日は6棋戦8局、トップ棋士や若手強豪が集い、女流タイトル戦や新四段同士の一戦もあり非常に豪華な一日でした。

まず目を引いたのが羽生九段の四間飛車。
久々の登板にファンも沸いたようで、やはり振り飛車の人気はすごいものだと再認識。そして終盤での大逆転勝ちは振り飛車ファンをさぞ喜ばせたことと思います。
ただ、一局を通してみればやっぱりこれまでの四間飛車は大変なのかなという印象も受けました。

加古川青流戦の開幕戦は、こないだの三段リーグで上がった2人による好カード。キビキビとした好局、という言葉がぴったり当てはまりそうな内容でした。
いまの将棋はある程度深いところまでの研究がぶつかり合うと、ああやって玉が泳ぎ出すような複雑な終盤戦になることがよくあります。
そうでなければ結論が出てしまい実戦に現れない、ということもあるのかもしれません。
黒田君はデビュー戦を飾れず残念、逆に出口君は、前評判通りの実力を見せてくれたと言えそうです。

竜王戦の木村ー渡辺戦は中盤も終盤も難解で、さすがトップ棋士同士の一戦という内容でした。
この将棋を含め、昨日は最近の中でも特に訳の分からない戦いが多い一日だったように思います。やはり、「令和の時代はカオスになる」のでしょうか。

マイナビ第3局は里見さんが一番返し、後半戦へ。
これでタイトルの行方は五分という気がしますね。

このところまたニュースが多く、どういう順番で書こうかなという感じなんですが明日が対局なので終わってから考えることにして、今日はいったんこれで。

学校

しばらく前の話題ですが、こんなニュースがありました。
国会(参議院予算委員会委嘱審査 文教科学委員会)での将棋に関する質疑報告
将棋世界にも記事が出ており、過去に例のないことだそうです。

僕が棋士になった翌2005年、米長先生が会長になり、いろいろな方針を打ち出されましたがその中で一番の旗印は「子どもへの将棋普及」そして「学校教育への導入」だったことを思い出します。
あの頃から数多くの棋士が東京・大阪を中心に学校へ派遣されるようになりました。これが現在の将棋ブームへとつながったことは間違いないでしょう。
米長先生ご自身も「一番の功績は子どもへの普及を進めたこと」と自負しておられた、という話も聞いたことがあります。

また当時の将棋界で最も不足していたリソースはおそらく指導者だと思いますが、おかげさまでその後、指導員の資格を取って下さる方は急増しています。
2002年生まれの大スターが、指導員数ナンバー1の愛知県から生まれたことは、もちろん偶然の幸運もあるでしょうがこれらの施策とまったくの無関係でもないと思います。

時期的なこともあって、僕も新人のときから学校などで定期的に教える機会を持ち、最近もまた、1か所だけですが再開しています。
前世紀の将棋界は必ずしもそうではなかったと聞いているので、若いうちにそういう経験をたくさんさせていただけて良かったと思っています。

また米長会長がもう一つ打ち出したのがインターネット関連の事業で、こちらもいろいろと関わらせてもらえました。
以前にも軽く書きましたが(モバイル中継のこととか)いまの将棋連盟の体制を見ていて特に心配に感じるのは、こういった骨太の方針が分かりにくいという点なので、まもなく2期目に入る頃には、しっかりとしたメッセージが出てくることを期待したいです。

海外選手

昨日書きそびれたのですが、一昨日はリコー杯の一次予選一斉対局も行われていました。
今年の海外選手はモンゴルの方とのことで、たまたまリアルタイムで中継を観ていたら、強くて驚きました。過去の海外選手の中でも屈指でしょう。


迫力ある終盤の追い込みを、日本有数のチェスプレイヤーである青嶋五段も称えています。たしかに僕もこの手順には感心しました。
Turmunkh Munkhzulさん
チェスと将棋の二刀流でプロを目指すとのことで、楽しみな逸材です。

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弟子のカロリーナは最近成績が悪く、この日も中継されることもなく、ひっそりと敗退していました。
この世界でプロになるということは、特定の肩書で注目されることはなくなる、ということでもあります。自分自身、それはよく知っていることです。
たとえばもし今後「史上初の女性棋士」が誕生したとして、そのときにはおそらくは大変な話題を呼び、そこから数年が経ってもし成績が振るわなければ、やはり同じことが起きるわけです。

そういった現実は大変なことでもあるし、また、この世界を外に知らしめるという点では損をしている可能性もあるわけですが、良くも悪くも、そうであるがゆえに混じり気のない世界を保っているとも言えます。

気力を保ち棋力を向上させ続けることは容易なことではないですが、弟子にも頑張ってほしいと思いますし、また、自分自身も引き続き頑張っていきたいと思います。
プロになるということは、そのための努力を続ける権利と義務を得るということでもあります。

叡王戦

既報の通りのストレート決着でした。
第2局の横歩取り以降は流れが傾いてしまい、そのまま行ってしまった感じに見えました。
結果的にちょっと盛り上がりに欠ける感じになったのは残念でしたが、前にも書いたように時として星が偏ってしまうのも、混じり気のない勝負の世界ならではのことで、仕方ないでしょうか。
後半の2局は、叡王のほうにチャンスらしいチャンスはなかった気がします。

ここ最近は若手棋士が初タイトルを取っては失う流れが続いているようで、タイトルを取ることの産みの苦しみと、いざ取れるときのちょっとしたあっけなさ、そして防衛の難しさ、いろんなものを感じながら観戦しています。
永瀬叡王ももっと早くタイトルに手が届いていてもおかしくなかったと思う一方で、取れなかったとしてもそれはそれであり得ることなので、やっぱり勝負の結果というのは大切で尊いものだなとつくづく思います。

今回の叡王戦は角換わり腰掛け銀が一局もなく、下火だった矢倉や横歩取りが勝負の流れを作ったという点でも意義深い番勝負だったように思います。
平成末期からトップ棋士は角換わり一辺倒だったところに、一石を投じる結果になったと言えそうです。