学校

しばらく前の話題ですが、こんなニュースがありました。
国会(参議院予算委員会委嘱審査 文教科学委員会)での将棋に関する質疑報告
将棋世界にも記事が出ており、過去に例のないことだそうです。

僕が棋士になった翌2005年、米長先生が会長になり、いろいろな方針を打ち出されましたがその中で一番の旗印は「子どもへの将棋普及」そして「学校教育への導入」だったことを思い出します。
あの頃から数多くの棋士が東京・大阪を中心に学校へ派遣されるようになりました。これが現在の将棋ブームへとつながったことは間違いないでしょう。
米長先生ご自身も「一番の功績は子どもへの普及を進めたこと」と自負しておられた、という話も聞いたことがあります。

また当時の将棋界で最も不足していたリソースはおそらく指導者だと思いますが、おかげさまでその後、指導員の資格を取って下さる方は急増しています。
2002年生まれの大スターが、指導員数ナンバー1の愛知県から生まれたことは、もちろん偶然の幸運もあるでしょうがこれらの施策とまったくの無関係でもないと思います。

時期的なこともあって、僕も新人のときから学校などで定期的に教える機会を持ち、最近もまた、1か所だけですが再開しています。
前世紀の将棋界は必ずしもそうではなかったと聞いているので、若いうちにそういう経験をたくさんさせていただけて良かったと思っています。

また米長会長がもう一つ打ち出したのがインターネット関連の事業で、こちらもいろいろと関わらせてもらえました。
以前にも軽く書きましたが(モバイル中継のこととか)いまの将棋連盟の体制を見ていて特に心配に感じるのは、こういった骨太の方針が分かりにくいという点なので、まもなく2期目に入る頃には、しっかりとしたメッセージが出てくることを期待したいです。

海外選手

昨日書きそびれたのですが、一昨日はリコー杯の一次予選一斉対局も行われていました。
今年の海外選手はモンゴルの方とのことで、たまたまリアルタイムで中継を観ていたら、強くて驚きました。過去の海外選手の中でも屈指でしょう。


迫力ある終盤の追い込みを、日本有数のチェスプレイヤーである青嶋五段も称えています。たしかに僕もこの手順には感心しました。
Turmunkh Munkhzulさん
チェスと将棋の二刀流でプロを目指すとのことで、楽しみな逸材です。

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弟子のカロリーナは最近成績が悪く、この日も中継されることもなく、ひっそりと敗退していました。
この世界でプロになるということは、特定の肩書で注目されることはなくなる、ということでもあります。自分自身、それはよく知っていることです。
たとえばもし今後「史上初の女性棋士」が誕生したとして、そのときにはおそらくは大変な話題を呼び、そこから数年が経ってもし成績が振るわなければ、やはり同じことが起きるわけです。

そういった現実は大変なことでもあるし、また、この世界を外に知らしめるという点では損をしている可能性もあるわけですが、良くも悪くも、そうであるがゆえに混じり気のない世界を保っているとも言えます。

気力を保ち棋力を向上させ続けることは容易なことではないですが、弟子にも頑張ってほしいと思いますし、また、自分自身も引き続き頑張っていきたいと思います。
プロになるということは、そのための努力を続ける権利と義務を得るということでもあります。

叡王戦

既報の通りのストレート決着でした。
第2局の横歩取り以降は流れが傾いてしまい、そのまま行ってしまった感じに見えました。
結果的にちょっと盛り上がりに欠ける感じになったのは残念でしたが、前にも書いたように時として星が偏ってしまうのも、混じり気のない勝負の世界ならではのことで、仕方ないでしょうか。
後半の2局は、叡王のほうにチャンスらしいチャンスはなかった気がします。

ここ最近は若手棋士が初タイトルを取っては失う流れが続いているようで、タイトルを取ることの産みの苦しみと、いざ取れるときのちょっとしたあっけなさ、そして防衛の難しさ、いろんなものを感じながら観戦しています。
永瀬叡王ももっと早くタイトルに手が届いていてもおかしくなかったと思う一方で、取れなかったとしてもそれはそれであり得ることなので、やっぱり勝負の結果というのは大切で尊いものだなとつくづく思います。

今回の叡王戦は角換わり腰掛け銀が一局もなく、下火だった矢倉や横歩取りが勝負の流れを作ったという点でも意義深い番勝負だったように思います。
平成末期からトップ棋士は角換わり一辺倒だったところに、一石を投じる結果になったと言えそうです。

逆転

昨日は夕方、首都大の授業担当日。
ちょうど中村太地先生の将棋が佳境だったので、ごく簡単に現況を説明しました。
その時点ではかなりはっきりリードしていたと思うのですが、あれが逆転するとは、やはり将棋は怖いなと思いました。
菅井七段の攻防織り交ぜた粘りは見事でした。

また行く道中ではやはり大差に見えた三枚堂ー早咲戦も、よもやの大逆転。後で知ってこれも驚きました。
早咲さんは僕がプロになるよりずっと以前からトップアマですが、当時からいまに至るまで、有力な若手棋士を何人も破っています。しかも、昨日のような逆転勝ちがけっこう多い印象で、精神力がすごいのでしょうね。
余人にはない何かを持っている人だなと、感じさせられる内容の一局でした。

 

逆転人生「凡人、天才に勝つ 遅咲き棋士の大勝負」
NHKの人気番組に、今泉四段が登場します。
たしかに「逆転人生」というタイトルにこれほどふさわしい方も珍しいでしょう。

僕が奨励会に入った26年前、今泉さんは関西奨励会の先輩で、同郷のよしみなどもあってとてもお世話になりました。
その後は三段リーグでも対戦することになります。
そんなご縁があり、僕も熱心な取材を受けました。

将棋も人生も、何が起こるか分からないし、時に信じられないような大逆転があります。
だからどんな状況でも、またどんなことでも簡単にはあきらめてはいけないし、また、だからこそハラハラするし、面白いのだろうと思います。

王手の千日手

昨日も触れた名人戦第3局は、投了局面がいわゆる「王手の千日手」で後手玉がギリギリ詰みを逃れており、先手玉は必至。という結末でした。
これは珍しいと言えば珍しいことですが、そこまででもないかなという感じでもあり、たとえば第1局の「1日目の千日手」のほうがずっと珍しいので、特に気にも留めませんでした。

ところが昨日(つまり名人戦の翌日)、王将戦の北浜ー藤井戦で再び同じケースが出現したのにはびっくり。
2日続けてとなるとかなり珍しいことですし、しかも「8手1組」で2種類の合駒が出てくるという複雑な手順でした。
将棋プレミアムの生放送でご覧になっていた方はさぞハラハラされたことでしょう。
図面はあえて貼らないでおきますので、まだの方はモバイル中継で見てみてください。

後から振り返ってみると、あの周辺の局面ではおそらく藤井七段の側にいくつかの勝ち筋があったと思います。
その中で本譜の手順が実際に現れて、しかも最後は合駒で打った飛車が詰みに働くという組み立てには、やはり類稀なるスター性と詰将棋能力を感じました。

以前同じ王将戦で師弟戦が行われたときには、「千日手」という単語がたくさん報道されてお茶の間にまで届いた、という出来事がありましたが今回はそこまではいかないでしょうか。
(ちょっと伝えるのが難しそうですしね)
今後「持将棋」とか「打ち歩詰め」とかが、藤井七段の対局を通じて大きく話題になる日も来るのでしょうか。

令和に代わって今日でようやく10日ですが、初日には300手を超える大激闘があったりと、すでにいろんなことがあって、月並みですが、将棋はすごいですね。