年度末

今年度も残すところあと2週間を切りました。
この10日ほどの将棋界での主な出来事。
・A級順位戦のプレーオフで藤井竜王が勝ち、名人挑戦者に。
・王将戦第6局で藤井王将が勝ち、王将防衛。
・NHK杯決勝で藤井竜王が勝ち、初優勝。
・棋王戦第4局で藤井竜王が勝ち、棋王奪取。
1局ごとに見ると内容的に意外な出来事ではないんですが、さすがにこれだけ並ぶとびっくりです。

一人だけでいろいろありすぎて他のニュースがすぐ忘れられそうな昨今ですが、1週間ほど前には三段リーグで大きなドラマがありました。


柵木君は一門の長兄である増田さんの門下で、森師匠に初めて孫弟子の棋士が誕生し、自分も初めて叔父さんになりました。
また森本君は元怪童でもあります。怪童戦出身の棋士は初めてではないですが、久々だと思います。

そして1位通過の小山君は戸辺門下。自分から見て後輩の棋士の弟子が棋士になるのは、たぶん初めてのことだと思います。
とはいえ僕ももうすぐデビュー20年になるわけで、棋士を育てるというのは本当に大変なことなのだなと改めて思わされます。
編入試験時期やリーグ順位の関係で、棋士番号順で小山四段が2人続くのと、一度に(4月1日付)4人の新四段が誕生する、この2つは今後もう起きないのではないかと思います。

加えて、今期はフリークラス出身者が初めてC1に昇級するという出来事もありました。
将棋界は基本的に人数が厳しく制限されている世界ですが、こういった事例がもし増えれば、現役棋士の人数が上振れる可能性もあります。

あと同世代の甲斐智美さんの引退発表には本当に驚きました。
まもなく始まるタイトル戦をどんな心境で指し、どんな戦いになるのか想像もつきませんが、注目しています。
自分は自分で身を引けるほどには完全燃焼していないので、もうすこし現役を続けるつもりですが、あまりにも衝撃的で、考えさせられる出来事でした。

対局のほうは、来週もう1局あって、それで今年度は終了となります。

負け

一昨日の対局は、後手番で矢倉模様の将棋になり、令和っぽい急戦を仕掛けました。
しかし急所で判断ミスがあり、駒損を重ねて夕休前の敗戦となりました。

後で振り返ってみると、角取りに歩を突かれた場面では、角を取られないように逃げる手もありました。
直後にその角を飛車取りに打たれた場面では、やはり飛車を逃げる手も有力でした。
実戦は飛車を取らせてしまい、その飛車で王手された手が痛烈で、敗勢になりました。

と、言葉にしてみると、ずいぶんとお粗末な内容だったことが自分でもよく分かる一局でした。
当たり前の手を見送ってしまったのは、形勢を悲観していたことが原因だと思います。
悲観するのは、自分に自信がないからで、もっとフラットな目で局面を眺める必要があります。
気をつけてはいるのですが、なかなか治りません。

今期は5ー5の指し分けで終了。最終戦の負けで順位を4枚下げ、来期は2ケタ順位に逆戻りです。
正直言ってこの内容ではよく5勝もできたなという感じもあり、実際途中まではかなり苦しい展開だったので、来期は開幕時からもっと良い内容の将棋が指せるようにしたいです。

次の対局は棋王戦で、年度内最後の一局になる見込みです。
すこし間が空くので、その間はNHK予選の執筆(将棋講座付録)に充てたいと思います。

放牧

対局のない時期に、ぶらりとリフレッシュに出かけることを指す業界用語。

ということで、先日ひとりで四国に行ってきました。
鳴門で渦潮を見て、脇町で小野五平名人のお墓参りをして、こんぴらさんに登って祈りを捧げ、師の生まれ育った街を歩き、、、という感じでひたすら電車を東から西へと乗り継いで、最後に松山で支部の方々にお会いして帰りました。

ひとつ痛恨だったのは、吉田家住宅が臨時休業だったこと。曜日は確認していたので、まさかの事態でした。
最近は将棋の対局場になった場所へ見に行ったり泊まったりすることが多いのですが、ここは次に訪れる機会があるかどうか・・

ともあれ、聖地巡礼の旅に終わりは(たぶん)ないので、また時間を見つけてあちこち出かけてみようと思います。

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以前支部の機関誌に書いたこともある話なんですが、松山将棋センターの児島さんとはかつて支部対抗戦で対戦したご縁もあって(西日本大会決勝・広島将棋同好会支部vs松山坊っちゃん支部)、プロになって再会して以来、良くして頂いています。
こちらは棋士・女流棋士・学生名人を輩出するなど、名門として知られていますが、当然ながらその陰ではその何倍・何百倍の人数の初心者・級位者を教えて来られたわけで、長年の積み重ねを尊敬していますし、深く感謝しています。

広島とはもともとお隣なので交流も多かったところ、ここ数年はコロナの影響も大きかったと思いますが、また子供たちがお互いに海を渡って大会に参加し合ったり、将棋ひろばと対抗戦なんかも行われるといいなと願っています。

近況など

前のエントリにも書いた通り、この1週間ほどは(来期)NHK予選の季節につき、公式戦の中継はやや少なめ、自分の対局もそれを除くと次は来月の順位戦という状況です。

NHK予選では、今年もテキスト(「将棋講座」)の付録を担当させていただくことになりました。
これから全棋譜に順番に目を通して、おそらく順位戦が終わってから、執筆に取り掛かることになると思います。
発売は1回戦が佳境という頃になるのではと思います。改めて告知しますので、ぜひお読みいただければ幸いです。
なおテレビ放映のほうは今日が準々決勝の最後の1局、来月に入って準決勝・決勝へと進んでいくところですね。

ということでいま載せられる将棋はないのですが、すこし前に研修会指導で指した二枚落ちの将棋がなかなか面白かったので、ちょっとご紹介。

飛車が成れそうで成れないので上手ペースのはずの局面ですが、ここで▲5五銀!が強手。
研修会でなければすぐに△同金と取って、▲7五歩△6五角▲7七桂までは進みそうですが、ここは上手もしっかり時間を使って△4六歩と切り返しました。
対して▲6四銀△4七歩成▲5三銀成が読みの入った手順でした。

二枚落ちという手合を考えるとどう見ても上手ペースですが、△3八とは▲5八金で後続がなく、△5八歩▲同金△同と▲同玉△3八角成は▲4四歩△7八金▲4八金に△2九馬が詰めろにならず(一歩千金!)、上手が勝てません。
研修会指導では、けっこうこういうギリギリの終盤戦になりがちな印象があります。

普段の指導対局とは違って、研修会指導の上手は定跡通り指すことはまずないので、30手ぐらい進むとだいたい見慣れない形になります。
必然的に読みの力が鍛えられる、という面はあるように思います。あとは、上手も一生懸命負かそうとするので(棋士よりも奨励会員のほうがより顕著)、その気迫を肌で感じられるというのは大きいのかなと。

普段表に出ることはない、鬼モードの駒落ち戦。
実はけっこう面白いコンテンツなのかなと思って、昔から機会があるごとにできるだけ棋譜を残しています。
通常の多面指しでは、こうやって読みを入れてややこしい手を指すことはないので、くれぐれも安心してください。(?)