反則

昨日の順位戦で反則手があったようで、かなり話題になっているのを翌朝になって知ってびっくりしたのですがこれ、そんなに報道されるようなことなんですかね。
何百局もやってればこういうこともあるし、合法手かどうかという違いだけで内容的にはトン死みたいなもの、と考えるとある意味日常の出来事の延長でもあるので、もちろん棋士は自分の指し手に責任を持たないといけないとはいえ、大ごとになったのにはちょっと気の毒に思いました。

ネットのニュースってPVが稼げてナンボというか、むしろそれがすべてでニュースやトピックの重要度とかは二の次、という側面もあるので、それが将棋という近年の優良コンテンツと結びついてこんなことになってしまったのかなと。
たとえば昨日であればまず、A級順位戦で佐藤会長がタイトルホルダーの久保王将を破った、というトピックがあって、B1も大熱戦ぞろいで渡辺棋王は6連勝、そして他ではこんな珍しいこともあった。
という順序で報じられる将棋界になれば良いなと思います。

僕も子供の頃、年に何回か放送されるプロ野球の「珍プレー」番組は好きでした。
ただそれは、日頃からスポーツニュースを見たり、時にはリアルタイムで試合も観たり、というのがあってこそだったように思うのですよね。
何年かに一度、期せずして注目を集めてしまうのが「反則」ではあるのですがファンの方々の多くが、こういう話もいいけどそれより日々の熱戦の話を知りたい、と思って下さるようになれば徐々に変わっていくのかもしれません。

 

ところで、将棋の世界はあらゆるボードゲームの中でも、反則に対して厳しいという点では屈指ではないかと思っていて、それは自分で負けを認めるという精神文化と繋がっているというのが自分の中での仮説です。
いわゆるイリーガルムーブ、非合法手は他のゲームでは、やり直しであることのほうが多いと思います。

たとえば自分の趣味であるバックギャモンは、イリーガルムーブを即負けにしてしまうと、ゲームが成り立たないとは言わないまでも、かなり厳しい印象になるでしょう。
結果として初心者のプレイヤーを遠ざけてしまうことにもなりかねません。
オセロでひっくり返すべきところを返さなかったら即負け、と言われたら僕は最後まで打ち切れないこともかなり多くなりそうです。

将棋も子供や初心者の方に教えるときは、反則には寛容にしておいたほうが良いと思っています。
自分に対して厳しいのは、プロだけで良いと思うからです。ただ、このあたりは違う考えの方もいるかもしれません。

自分自身は子供の頃はよく二歩を打っていて、奨励会に入ってからも一回ありました。
他に自分の駒を取るというなかなかない反則もやらかしています。
幸いなことにその後20年ぐらいは反則はしていないのですが、この先引退まで無事で行けるかどうか。
無遅刻・無欠勤とともに地味ながら大切な努力目標ですね。

新人王とか

またひとつ、最年少記録が更新されましたね。
対局が終わった昼下がり、大きなニュースにもなっていました。

将棋の内容がちょっとあっけなかったというか、早い進行だったのには驚きました。
研究が不発だったということなのでしょう。
藤井七段にとっても相手にあれだけ早く指されたことはあまり経験がないのではと思いますが、どんな展開にも動じないことが改めて明らかになりました。

角換わりの最先端の将棋は、プロ的には駆け引きが面白いのですが、見ていて何が起きているか分かりにくいところがあって、本局もいつどこで差がついたのか理解するのはなかなか難しいと思います。
それでいて、必ずどこかで華のある手が出るのが藤井将棋のすごいところで、本局も随所に、控室の予想とは違う好手が出ていたようでした。

 

同日、同じ関西での対局ということで羽生竜王のA級順位戦が4Fで行われていたのがちょっとした話題でした。
特に変わった様子もなく、将棋もいつも通り難解に指し回して、難解に勝っておられました。

羽生さんが語る平成の将棋とこれから
こちらNHKニュースのインタビュー記事なんですがまさにいつも通りの羽生竜王です。
いつも通りでありながら、それでいて常に変化を求めている、また変化を受け入れる準備があるところが、すごいところだと思います。
変な言い方になるんですが最近ようやく、羽生先生のすごさがすこし分かってきた気がします。
わりと若い頃から何事にも鈍いほうなので・・・

昨日の将棋は角換わり腰掛け銀の見慣れた出だしでありながらすぐに見たことない局面になって、ギアを落とすタイミング(たとえば39手目▲2九飛とか)と入れるタイミング(たとえば57手目▲3四飛とか)が印象深い一局でした。
と書くとこれまたいつもの羽生竜王なんですが、具体的にはやっぱり毎局違うんですよね。いやはや。

今日もA級順位戦が1局と、B1もあります。
毎日豪華です。

自分は中学校の指導日。
心機一転、次の対局に向けて頑張ります。

負け

良い将棋を指せていたのですが、惜しいところで勝ちを逃してしまいました。
これだけ形勢の良い時間が長くて最後はひっくり返されてしまうのだから、やっぱりトップ棋士の終盤力はすごいものがあります。

最後の最後、△4八銀の王手に▲同飛と取っていれば詰まず、勝ちだったようです。
ただその△4八銀や直後の△5四歩、その前の△5一銀など、スゴ技を次々に出されて、逃げ切るには時間が足りませんでした。
感想戦コメントも来ているので、詳しくはそちらもご覧ください。

今期の棋王戦は振り駒で全て先手を引く(7連勝だから1/128です)というなかなかない幸運にも恵まれ、内容的にも自分としては非常に良い将棋が続いていたので、期するものはありました。
たしかタイトルの挑戦権を争う本戦・決勝トーナメントで2勝を挙げたのは、新四段の年の竜王戦以来。
ベスト8まで勝ち残ったのも、その数年後の竜王戦で羽生先生と対戦したとき以来で、やはり2度目だったと思います。

過去の自分を越えられなくて非常に残念ですが、この年になっても、一生懸命やっていればまたそういうチャンスは来るのだということが分かりました。
良い内容の将棋を続けていることが大切と思うので、これからも一局一局頑張ります。

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終わって観戦記者・中継記者の方と軽く食事して帰りました。
王座戦第4局は大熱戦で、連盟を出るときが90手目△2二玉の場面。モバイル中継をひと目見て、中継室の片上七段は▲3五桂を予想。
みろく庵に着いたらやはり中村王座がそう指していて、なんだ俺もやれるじゃんと思うとなんだかちょっとだけ、敗戦の痛みが和らぎました。

それから店を出るすこし前まで延々と終盤戦が続き、さすがにすごいものだなと思いました。
今期王座戦は全局名局賞、との声もあるようで、たしかに。
最終局は本当に大きな一番になりました。

この夏以降棋聖戦・王位戦・王座戦とこれで3棋戦連続のフルセットは、これもまた戦国時代の象徴なのでしょう。
番勝負のファイナルというのは、これから先も長く戦いは続くにしても、棋士人生を左右しかねないぐらいの大きな一番ではあると思います。
それが違うカードでこれだけ続くというのは、当人にしてみれば大変だと思いますが、やっぱり将棋界には風が吹いているのだなと感じさせられますね。

ギネスとか

昨日は天童で「二千局盤来」のイベントが行われました。
無事参加者も集まり、見事にギネス達成となったそうです。

一斉に将棋2362局、ギネス記録に認定 山形・天童(朝日新聞)
またひとつ、明るいニュースです。おめでとうございます。

将棋の街・天童では毎年たくさんの催しがあり、今年はこの後「将棋の日」の一大イベントが予定されています。
個人的にも何度も訪れており、いずれまたおうかがいできれば良いなと思っています。

この土日はJT杯が新潟で、女流王将戦が都城で行われていました。
JT杯は栃木からの帰りに中継で観ました。飛車を取られても難しい、というのは振り飛車らしい大局観で、参考になりました。
王位を取られてしまった菅井七段ですが、これからも面白い振り飛車を見せてくれそうな気がします。

その他、オセロの世界でも天才少年現る、というニュースをツイッターで知って、興味を惹きました。
世界大会の最年少優勝記録を塗り替えたそうで、「オセロ界の藤井七段」と呼ばれているそうです。
藤井君よりさらに5歳ぐらい若いようで、どの世界にもすごい少年がいるものですね。

今日は練習将棋の日、明日は対局です。
ちょっと短めですが、最近すこし忙しくなってきているので、このあたりで。