竜王戦 奇跡がまたひとつ

この2日間は竜王戦が多く中継されていました。

1組の2局は木村王位と羽生九段が勝ち上がり。やはり上位陣は強い。
1組決勝は羽生九段と佐藤和七段の顔合わせになりました。和俊さんは順位戦で自分と同じC級1組の所属です。
そもそもCクラスの棋士が1組に在籍した例は数えるほどしかないはずなので、決勝を戦うのはおそらく初めてのことと思います。地味ながらけっこうとんでもない記録です。

注目の千田ー藤井戦は、千田君に誤算があったようで思わぬ早い終局でした。
3組決勝で杉本八段と藤井七段の師弟対決が実現したらすごい、という話は表ができた時点から巷ではありましたが、本当にそうなるとは驚きます。奇跡的、という表現を使うしかないと思います。

藤井七段は竜王ランキング戦でいまだ無敗(それもすごい、というかやばい、というかおかしい)。今期も危なげない将棋ばかりです。
いっぽうの杉本八段は決勝までの3局はどれも苦しい場面がありました。中でも準決勝の菅井八段戦は終盤はっきり負けだったと思います。

いろいろなハードルを乗り越えての、奇跡の邂逅と言えます。
決勝戦はまた大変な盛り上がりになりそうです。

負け

昨日は朝から、絶望的な気持ちになっていました。
将棋のことではありません。始まる前からの話です。
昨夜もちょっと書きましたが、後で連ツイします。

最近はネットに接する時間が明らかに増えすぎていて、それ以外にテレビのニュースを見る時間も増えています。
平時ならば気をつけるところなんですが、さすがに仕方ないかなと思います。
東京、やばいと思います。皆さん、行動を変えましょう。習慣を変えましょう。

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対局は集中力を欠いたまま始まりました。戦型は後手番で、四間飛車。
駒組みの途中で一度トイレに行って、戻ってきたら相手が指したところでした。

そのとき僕は美濃囲いを建設中でした。だからすぐ次の手を指そうとして、本当に指が出かかって、そこで直前の相手の手が▲2五歩だったことに初めて気づいて、慌てて△3三角と指しました。危ないところでした。

それでいて、午後からは会心の指し回しでした。
急戦を相手に、お手本としか言いようがないさばきで優勢を築きました。
アマチュアの方の参考になる将棋が指せました。

そして大差でのゴール目前で、突然転倒しました。
遠く離れたところから相手がフラフラになりながらも追いかけてきて、僕も起き上がってその後は必死で並走したんですが、結局あと一歩及ばず、負けました。
つらく、悲しい一日でした。

もう30年以上将棋をやってきているわけで、このレベルのミス、ポカ、逆転負けは何度も経験しています。
人の行動は、簡単には変わらないんだなと身をもって思いました。
でも、変えなくてはいけません。次こそはこういうことのないようにします。

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将棋会館の中は、相当な厳戒態勢でした。
誰もがお互いに距離を取り、口数も少なく、食事中も誰も話さず、みんなで気をつけようという意識が共有されていたように見えました。
自分自身は1時間に1回程度は、うがいと、手指の消毒をしながら、対局しました。

何事もなかったと思いますし、これまでも今後も、そうであればと願うばかりです。
次の対局は来週で同じく木曜日、その次はまた翌週です。

新年度に思うこと

今日から令和2年度の幕開けです。
これほど重苦しい気持ちの新年度は過去に記憶になく、自分の体感としては震災や911のとき以上です。
とにかくいまはじっと耐えて、家の中でできるストレス発散に努めて、あとはすこしでも将棋という、誰にも迷惑をかけることのない平和な世界に潜りたいと思います。

女流王位戦の日程変更(TOKYO Web)
第1局が中止、とtwitterで誰かが書いているのを見て、なんて質の悪いエイプリルフールと思いきや、そういうことではありませんでした。
過去のタイトル戦でも不測の事態による日程変更や、2日制→1日制への変更等はあったと思います。ただ、感染症が理由というケースはおそらく初めてのことでしょう。
東京圏⇔関西圏の大きな移動を避ける方針は時宜にかなっていると思います。

これを見て思ったことが2つ。ひとつは藤井聡太君のこと。
彼はいま、名古屋と大阪もしくは東京を往復する日々です。
どうか何事もないように、あと電車内や街で見かけても声をかけたりとかは、くれぐれも控えてほしいと願います。
将棋界全体としても、不急(不要はありえないけど、日程的に余裕のあるケースは考えられるので)の東西交流の対局を一時延期する等の措置はどこかで必要な気がします。
ただ藤井君(と師匠の杉本さん)だけは東海道を反復横跳びする以外に対局を継続するすべがありません。

最近の藤井七段の対局風景を見ていると、以前ほど大勢の報道陣に囲まれる姿は目にしておらず、ある程度はおなじみの方々が中心と思われます。
ただ最近は芸能界やテレビ関係の方々にも感染が確認されています。
この先も快挙が期待されますし、そうなればまた盛り上がって将棋界にとってはありがたいことと思いますが、大きく報道していただきつつも取り囲まれるようなことのないよう、あとはマイクを除菌するなど、最大限の配慮をお願いしたいです。

なぜ、こんなことを思うかというと安倍さんや小池さんを見ていて日々そう感じるからです。
自分より何十も年長なのに大変な体力と精神力、つくづく感服しますが周りも本人も、少しでも安全に努めてもらいたいです。

もうひとつ、4月1日というのは異動や新入(学・社)などがある日です。
当然ながら多くの人が長距離を移動する可能性が高いです。
今、大切なことはそれぞれの人が交流する人の範囲を、社会的にも物理的にも、できるだけ小さくすることです。なので移動したばかりの人は、特に注意が必要です。
当面は誰もが限られた人の輪の中だけで生活を成り立たせることが重要です。

自分も明日は対局なので、家を出ることになります。
さすがに家を出るというだけで恐怖を感じることはないですが、将棋を指すために電車に乗って出かける、という行為には疑問も感じます。
ただ対局は棋士にとっては生きることの次に大切なことなので、もちろん一生懸命指します。
幸い、今日も平熱です。最近は毎日の検温を欠かさないようにしています。
自分の安心のためにも、周りの人を守るためにも、老若男女問わず、やってほしいと思います。

最近はとにかく医療・救急や薬局で頑張って下さっている方々に、ひっそりと心の中で感謝する日々です。
世の中の人々すべてが医療関係者の一次発信に耳を傾け、最大限の努力をしてこの危機を乗り越える、そんな令和2年度になることを心から願っています。

今年度総括

今日は3月31日、年度最終日。
平成最後の年度にして令和最初の年度も、今日でおしまいです。
今日のモバイル中継は重厚なラインナップで5局。長い一日になりそうです。

自分自身の今年度公式戦は、NHK予選を除いて13-13でちょうど指し分け。
そこにNHK予選の3連勝が加わり、3つの勝ち越しで終えることができました。
昨年末から調子が上向き、好成績とまではいかないものの、出だしが悪かったことを思えばなんとか帳尻を合わせることができたという感じでしょうか。

今年に入って開幕した棋王戦、王将戦、NHK杯はいずれも勝ち残れましたので、年度が変わっても引き続き頑張っていきたいと思います。
最近は対局できるだけで幸せというか、勝ち負けをそこまで気にせずに盤上に集中できているので、今後もそういう精神状態を持続できるようにと思っています。
これはいままでの棋士人生では感じられなかったことで、自分自身の深い部分で変化が起きているのだと、良い方向に解釈しています。

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コロナの影響で、年明け早々から社会は一変しました。
よもやこんなことが起こるとは、思いませんでした。

この先どうなるかはまだ分かりませんが、これまでとは違う世界が待っている、ということだけはたしかです。誰もが意識を変え、行動を変えていかないといけません。
いま、世間で大変だとニュースになっているのは飲食店や、音楽業界などです。しかし当然ながら将棋界にも、影響は避けられません。

たとえば道場や教室はいま臨時にお休みしている状態ですが、これを同じ状態で元通りに再開することは、もうできないでしょう。いつ終息するかも分からない状況で、そういう思考停止は、避けるべきです。
各種イベントもなかなか難しくなりそうです。しかし必ず何か策はあるはずなので、探っていかないといけません。

これまで、大勢の人が集まるのは、ほぼ無条件に良いことでした。
「〇万人動員」とか、いろんな業界でよくニュースになっていました。
近年の将棋界ではたとえば「一会場同時対局」のギネス記録がありました。とても価値のあるニュースで、将棋界の一員として誇らしい気持ちになったものです。
しかし、ついこないだまで素晴らしいことだったのが、そうでなくなるケースがあります。価値観の変化を受け入れて、これまでとは違う価値を提供していかないといけません。

我々の対局もどうなるか。将棋は和室や棋具まで含めての文化で、これ自体を変えるべきではないですが、一方で感染防止にも最善を尽くすべきです。
なるべく対局者同士の距離を取る、食事の空間を共有しないなどの基本を、できる限り徹底すべきでしょう。

あとは自分も含めて一人ひとりが、日々の生活でも十分気をつけて、安心して対局に向かえるようにすべきです。
そして万一のときは、休む勇気を持つことです。
棋士は多少熱があったり、具合が悪くても将棋は指せます。体に染みついているからです。案外集中できて良いところに手が行ったりもします。良い手は考えてひねり出すものではなく、指先が覚えているものです。
しかし、いまは具合が悪ければ、絶対に休まなければいけません。

書いたことはあくまで一例で、むしろ書いていない部分での変化のほうが大きいかもしれません。
現状の自分にも、社会にも、不安も不満もあれど、自分自身が変わり続けることでこれからも棋士として生き続けたい、という気持ちを新たにした令和初年度でした。