新人王戦 先後同型について

注目の新人王戦は、藤井七段の勝ち。
振り駒だけは連敗が続いていますが、将棋は相変わらず強い。
昨日の将棋は、中盤以降押され気味と見ていたのですが。

画像は日本将棋連盟モバイルより、55手目までの局面。
ここで△4六歩と打つと珍しい先後同型になるなあと、しばらく前の局面を見ていて思っていたのですが実戦は△4七歩。
ちなみにそこで▲6三歩不成(??)とやると、やはり先後同型です。
まあ後者は単なる思考実験ですが、最近の角換わりはこういう見慣れない先後同型も増えています。
ここまでは同型を含みにしつつの小競り合いで、ここからは濃厚なねじり合いが続きました。

 

将棋というのは、先に攻めれば有利になるかというとそんなに単純なものではなく、先に攻める=先に駒を渡す、とか先に攻める=利きの足りないところに手を出していく必要、などの理由によりむしろ攻めてきてもらったほうが良いという局面はたくさんあります。
だからこそたとえば同型角換わりと呼ばれる分野は古くから定跡化され多くのプロに指されてきました。
(木村定跡・升田定跡など)
ただ最近は過去のメジャーな形は一定の見解が示されたこともあって廃れつつあり、変わって実戦例データの少ない同型が増えてきています。

角換わりに限らず相居飛車共通で、先後が似たような駒組みのまま進むという将棋は以前に比べてかなり増えている印象で、もうしばらくするとそのうちのいくつかには、一定の結論が出るようになるかもしれません。
あるいは、全然結論が出ないかもしれません。
ただ戦型や先後を問わず、後手が同じように追随したらどうなるか?とか端歩を省略して先手が追随する形になった場合はどうか?とかを意識する場面が明らかに増えていて、これがいまのトレンドだと思います。

 

JT杯は豊島棋聖の勝ち。
この将棋も松尾八段が良さそうと見ていたのですが、気がついたら体が入れ替わっていたという内容でした。
つまり勝者の2人が強かったです。
叡王戦と合わせて、中継局は後手番が全勝という珍しい一日でした。

今日は朝日杯のプロアマ一斉対局。
東京はすでに台風一過ですが大阪は心配。嵐の中の対局になるのでしょうか。
解説会は中止、対局は予定通りと案内が出ていました。
個人的にはトーナメント表の関係で西田ー渡辺戦に注目しています。

それと今日は連盟HPのまいにち詰将棋に自作が掲載されました。
わりとお気に入りの軽快作なので、ぜひ解いてみてください。

王座戦

昨日の挑決は斎藤七段の逆転勝ち。
中村王座との五番勝負は空前のイケメン対決になりました。
ファンの方々にとっては大変な秋になりそうです。

挑決の将棋、中盤で△5四銀と打ち直した手がけっこうな衝撃を与えているようでしたが、個人的には見たことのある手だったので指し手そのものへの驚きはなかったです。
ただあからさまにソフト由来の手(しかもこれで優勢という類の手ではない)がこの大一番で、しかも持ち時間の長い将棋で指されたことには驚きました。
実戦的な勝ちやすさがある感じすらしなかったのですが、そこからしばらく進むと後手ペースになっていたのはさすがでした。

その後は中継その他で触れられている通り終盤での逆転。
93手目棋譜コメントに書かれている詰み筋はかなり奇跡的で、「作ったような」とはこのようなことを言うのだと思います。
渡辺棋王としては不運だったという感じもしますし、そのすこし前の▲6一角~▲4三角成という攻めが良い勝負手だったのだと思います。
あれがなければかなりはっきりした一手差、という感じだったのがあそこで分からなくなった感じがしたので。

今朝の渡辺さんの「勝ち急ぐというのは普段から勝ち慣れてないから」という一言は重いですね。なんだか身に沁みました。

 

また王位戦の結果は分かりませんが、王座戦に関してはどちらが勝っても「8人で8タイトル」の状況は続くことになりました。
トーナメント表を見返していてふと気づきましたが斎藤七段は現タイトルホルダー3人と、藤井聡太七段を破っての挑戦なのですね。
次の竜王戦もベスト4に現タイトルホルダーは1人だけですし、本当に拮抗した状況ということなんでしょう。

今日は新人王戦に注目が集まっていると思いますが、個人的には同世代の松尾八段が初出場ということで、JT杯にも注目しています。
日本シリーズに出ることは当然ながら誇るべき実績で、40近くなっての初出場はかなり異例のことなのではと思います。
気が早いですが来期のメンバーはまたガラリと替わる可能性があります。
それだけ、強い人が多く面白い将棋界だということだと思いますね。

 

大型台風接近とのこと、皆様どうかお気をつけください。

文部科学大臣杯

通称文科杯、昨日はこちらの会場で指導対局でした。

全国大会の場(正確には東日本大会ですが多くの都道府県から代表選手が集まるという意味では同じ)で楽しみなのは各地の指導者の方々にお会いできることで、たとえば青森のNさんは「この大会は皆勤賞です」と言っておられたり。
他に埼玉や、福島の方々にわざわざ声をかけていただき、感謝です。

福島は春に喜多方に行ったのが2回目で、来月は県庁所在地の福島市にお招きいただいています。
夏休み将棋フェスタ(福島民友社)

仕事で訪れた土地の方々と、その後別の場所でもお会いできるというのは、なんだかとても嬉しいものです。
教え子さんたちのそれぞれのご活躍を祈念しています。

それにしても、中学校のほうは関東圏の代表校そして上位進出校を見ると、名だたる進学校が多く、やはり学力と棋力の相関はそれなりにあるということなんでしょうね。
今日は中学校の指導日、自分の身近なところでも、将棋部の子たちは将棋だけでなく、進学の成績も良い。という結果が春に出てくれたらいいなと思っています。

※追記:主催紙リンク
埼玉・戸塚東小、東京・麻布中など計8チームが決勝大会進出(産経新聞)
西日本大会では広島勢が大活躍だったようですね。

A級順位戦、糸谷君はいつも通りの内容で快勝、まさに怪物上陸。
地位が上がろうと、相手が羽生竜王だろうと変わらず面白い将棋を見せてくれるのはすごいの一言、このあとも楽しみです。

C2はまだ全部に目を通せていないので、中学校から帰ってから観る予定。
部活での指導なのでいつもは夕方の短い時間なんですが、今日は夏休みの特訓で朝からみっちり、こちらも気合入れて行かなくては。

今日は王座戦の挑決が大勝負です。

王位戦、順位戦

王位戦第2局は豊島棋聖の快勝で1-1のタイスコアに。
やはり穴熊は堅かったですか。

あとで感想戦コメントを読むと、本局は見ていて感じたことがある程度正しかったみたいでした。

最近はある程度強い方だとソフトの評価値を横目に観戦(もしくはあとで検討)する方が多いのだと思いますが、自分自身はソフトの意見よりも、対局者の意見を大切に考えています。
ソフトになろうとははじめから思っていない自分にとって、トップ棋士に近い読みができていたかどうか、は大きな指標になるので。

上記の順は△5五歩に▲6五銀で攻めが続く、とのことでしたが△同桂▲同歩に△7三銀と埋めておいて、これはそれなりに大変な気もしたのですが。

自分の感覚が古くさくなってしまっているのか、それとも古いなりに通用するのか。
こういうところが大切です。

 

順位戦はC1の延期分が昨日で全局終了し、これで来週から平常運転に戻ります。
臨機応変な対応で、すべての対局が滞りなく進んで良かったです。

ただ心配なのは関西の空調。
まだ直ってないようで、今日のC2は6局なのでギリギリ大丈夫そうですが、来週のC1は7局あるようなので、大丈夫なのかどうか・・?
無事に直ってほしいです。あと、台風もちょっと心配ですね。

A級も進行にばらつきが出ていますが今日、1回戦の最終局が行われるようでこの後は通常通りの進行になると思われます。

また今日はそのほかC2の残り半分も。
夏は比較的対局が多く、今日は特に中継多数で楽しみな一日です。

 

自宅仕事など

先週の大阪対局あたりからずっと自分にしては忙しく、珍しいぐらい家にいなくて、昨日・今日は久々に家から出る用事のない2日間。
棋士にとってはこちらのほうが日常です。

ただ昨日は、できるだけのんびりしようと思っていたのですがいろいろと仕事がたまっていて、こなしていたらいつの間にか夜でした。
自分の場合、家にいてもちょっとした用事とはっきりした仕事、あるいは勉強と趣味の境目は常に微妙なわけですが、最近はなにがしか出張の予定とか、原稿を抱えていることが多いこともあり、仕事している感が以前よりは強いです。
ただ時間的に自由なので、そこが棋士の良いところですね。

実はいま、とある入門書の監修を引き受けているところで、仕事もだいぶ終盤に差し掛かってきました。
もうしばらくしたら告知できると思います。
さっきようやくその仕事が一段落したので、今日の午後はのんびりとたまった棋譜でも並べて過ごそうかなと思っています。

 

また今月は指導のお仕事を多くいただいていますが明日も小中学生の大会(文部科学大臣杯の東日本大会)での指導対局、あさっては近所の中学校での指導日、と続きます。
指導対局にも面数や下手の棋力・学年(年齢)などでさまざまなバリエーションがあるので、その都度今日はどんな感じで指そうかなと考えるのはなかなか楽しいことでもあります。

最近よく思うのはこちらが楽しんでこそ、相手にも楽しさが伝わるという側面もあると思うので、まずはこちらが楽しく指して相手にも楽しく指してもらえるように、その上でできれば強くなってもらえるようにという順番で心がけています。
そのためには何気ないことかもしれませんが日々の暮らしが充実していること、あとその仕事に向けてきちんと心と体の準備をしておくこと、が大切なのかなと思っています。

よく弟子にも言っていますが棋士はほとんどの時間が自由なので日々の過ごし方が大切です。

 

王位戦は角道を止めた向飛車に進みましたがこれはなかなかに意外な戦型。
そして2日目に入ってからもすでに意外な手がいくつか出ていて、善悪は分かりませんが奥深さを感じさせます。

こういう展開は人間同士だと最後はなんだかんだで居飛穴が勝つ、というのがこれまでの雑な定説なので、個人的にはそれを覆す結果を期待したいですが、どうなるでしょうか。