新タイトルホルダー

日本を離れていた1週間ほどの間に、2人のタイトルホルダーが新たに誕生していました。
2人とも自分から見るとだいたい一回り下ぐらいの世代で、藤井君が注目されつつも、将棋界全体で見るとしばらくはこの世代を中心に動いていきそうな感じがします。

先週木曜日のマイナビ第4局、大熱戦の末に西山さんが勝って新女王に。
序盤の△5二飛は珍しい手ですが、自分も似たようなことを考えたことがあったので、やっぱり自分が思いつくような手は他の人も考えるのだなあと思いました。
中終盤は形勢が何度か揺れていたと思います。
最後まで見ごたえのある将棋でした。

土曜日は叡王戦で同じく第4局、こちらは高見君がストレート勝ちで新タイトルホルダーに。
本局もまた、終盤での逆転でした。彼らしい内容だったように思います。
この風変わりな矢倉の序盤は、僕にはちょっとよくわからない。
これが新時代を築く若者の、近未来の将棋なのかどうか。今後に注目です。

「矢倉は終わった」のが増田君で、その矢倉でタイトルを取ったのが高見君。
ですが、本局を矢倉と表現するのであれば、雁木も矢倉と表現しても良いような気も、しなくもない。
矢倉模様の序盤のバリエーションは案外昔から広いですしね。
「がっぷり四つ」と表現されたような、お互い金矢倉に囲う形は減っていますが、いずれまた復活することもあるのではないかと個人的には思っています。

 

西山新女王は慶応在学中、高見新叡王は立教卒ということで、いずれも六大学出身です。
自分より後輩のタイトル獲得者は他にも中村王座や、以前だと糸谷八段(竜王)・広瀬八段(王位)など大卒の棋士が多いですね。
今後もそういう傾向が続くかは分かりませんが、学業と本業を両立している棋士がこれだけいるのは、素晴らしいことです。

この1週間は他にも名人戦第5局や竜王戦の組決勝など、大きな対局が多くあり、毎日目を通していました。
海外でもニュースや中継を観ることができるのは、本当にありがたいです。
明日・あさってあたりは最近の面白かった記事などを取り上げようかなと思っています。

では今日はこのあたりで。

帰国

昨日の夕方、無事帰りました。

行きは成田と羽田を間違えてしまうという、ありがちなポカがあったり。
着いた日の夜、時差ボケのためか、一睡もできなかったり。
10年ぐらい前に使ったT/Cが換金できなくて苦労したり。
と、ちょっとした(?)トラブルが続きましたが、おかげさまで体調を崩すようなこともなく、楽しく過ごしておりました。

ただギャモンのほうは、はっきり言って全然ダメでした。
大会前半はわりと調子が良い自覚があって、今回はいけるかなと思ったのですが集中力が続きませんでしたね。
後半、特にメイン2日目以降は出目も悪かったし、プレーも悪かった気がします。

久々の海外遠征、1週間は過ぎてみればあっという間でした。
またチャンスを見つけて参加したいと思っています。

昨夜は普通に眠ることができて、今朝も普通の時間に目が覚めたので、時差ボケはたいしたことがなさそうです。
行ったときより帰りのほうがラクなのは、時間を進むか戻るかの違いなのでしょうね。
今日は特に予定もないのでのんびりすごして、ブログも含めて明日から通常運転に戻る予定です。

4/19 阿部健七段戦

この将棋はとても久々に、自分なりに満足できる将棋が指せました。
勝ち負けももちろんですが内容面でも、まず自分の力を出し切れるように、また具体的に盤面に現れる指し手だけでなく精神的な部分も含めて、納得のいく将棋が指せるようにしたいです。

先手番で駆け引きの末に三間飛車vs急戦に。
阿部七段は独創的な序盤で知られる一人で、この将棋も斬新な仕掛けを見せられましたがうまく対応することができました。

図は中盤の場面、後手の狙いは△5五歩の香取り。
しかしここで▲6五香と中段に打ったのが会心の一手になりました。
ちょっと一手だけでは意味が分からないと思いますが、この局面を前から想定していたことと、この後の展開もきちんと読めていたことに価値があります。

▲6五香以下△7四銀▲5四香△5三歩▲7一竜△5四歩▲6二香成と進んで次の図。
途中△5四歩で△6五銀とは取れません。(7八の竜が抜ける)

香を一枚渡しましたがその間に
(1)竜の位置関係が改善・7四銀が負担に
(2)持駒の香が成香に昇格・攻めの見通しが立つ
(3)歩切れを解消
とたくさんの仕事をして、図でははっきり振り飛車が優勢です。

ここで△4四馬という手が利くと大変ですがそれには▲5二成香△7一馬▲4一成香△8二馬(詰めろ!)に▲4二金△3三玉▲3六桂がぴったりの先着で勝ちになります。
実戦はやむを得ない△4二金寄に▲6三角(△同銀は▲7八竜)と攻めて、以下もさんざん粘られましたがなんとか勝ち切ることができました。

振り返ってみると納得のいく将棋というのは10局に1局もないので、もっとそういう将棋を増やしていかないといけないですね。
今期も一局一局頑張っていきますので引き続きよろしくお願い致します。

4/11 勝又六段戦

久々の勝局です。
この将棋も後手番になり、前局に続いて角交換振り飛車に。
ただ本局はこちらから目指したというよりは、駆け引きがあってそうなったという感じです。

振り飛車をよく指すようになって1年経ちましたがさばきの感覚が身についてきているのかどうか。
もちろんプロだから何でも指せるのは当然ですがプロとして通用するレベルなのかどうかが大事です。
結果から見る限りでは、ギリギリのところでしょうか。

図は馬作りの代償に飛車を飛び出した局面。
まあまあなのかなと思っていたのですが、ここで▲3八飛!とぶつける好手を完全に見落としていました。

ただ改めてこの局面を振り返ってみると、その手を見落としていなくても、ちょっとこれでさばけると判断するのは無理がありそうです。
つまりもともとの大局観に問題がありすぎました。

この将棋も完敗かと気落ちしていたのですが、そこから逆転するのですから勝負というのは分からないものです。
「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という名言を思い出しました。

竜王戦はここ数年ずっと特に不本意な将棋が続いていて、この将棋を順当に負けていれば再び降級の危機だったので、残留は喜ぶべき結果にはほど遠いですがホッとしています。
まずは再度の昇級を目指して、今期は巻き返していきたいです。

ところで、本局のしばらくあとに静岡で解説会のお仕事をいただいた際に、自戦から次の一手の問題をお願いしますと言われたので、本局の終盤の場面を取り上げました。
(↓後手番)

▲7一銀で後手玉はかなり受けにくい状況。
ただしまだ詰めろにはなっていないので、うまく先手玉に迫るか攻防の手がほしいところです。
正解は数日後にコメント欄に書きます。

実戦できちんと読み切ることができて、反省点の多い一局ではありましたが着地は良かったです。

3/22 千葉七段戦

千葉さんとは2月の順位戦で負かされたばかりだったので、続けて負けるわけにはいかないとかなり気合が入りました。

作戦に悩んだ末に、角交換振り飛車を採用。
中盤が一直線の流れになってしまい、すこし苦しいながらもけっこう大変な気もしていたのですが、そこからうまく指されてしまいました。

図は金と桂2枚の交換、ただしこちらは飛車が遊んでいる。玉形の評価はなんとも言えないところ。
という状況で、まず控えの▲8六桂が好タイミング。

これに△8四金打とかでは戦力不足になってしまうので△7三金と受けたのですが、そこで▲7五歩が角筋を通しながらの攻めで好感触。
こちらは△6五歩で、▲7四歩に△6四金のスペースを用意しつつの反撃。
対して▲5八歩!の請求書が「一歩千金」の妙手で、これで負けがはっきりしました。
(※太字が実戦の指し手)

▲5八歩を△同銀不成から清算してしまうと、▲7四歩~▲7三銀の打ち込みが厳しいし、かといって他に適当な手もありません。
実戦は△6六馬と玉砕したものの、以下は順当にやられました。

この将棋は作戦的なことを除けば自分の中でミスや不本意な手はなかったので、あまり悔いはないのですがそうは言っても負けが込んでいるので、なんとかしなくてはと思いました。
2月・3月でNHK予選の白星を(結局決勝で負けたので)無価値と考えるとノーチャンスと逆転負けを繰り返しての5連敗で、惨憺たる年度末になってしまいました。