居玉

しばらく盤面の話題に触れていなかったので、最近の注目局など。

火曜日は羽生ー谷川のゴールデンカードが久々にありました。(王位リーグ)
アベマかニコ生で観ていたらしい知人から軽く興奮した様子のメールが来たり、やっぱり反響の高さはすごいものだと思いました。
将棋は谷川先生のほうが良さそうなのかなと思ったところ(▲5九銀と受けたあたり)からあっという間に羽生先生が寄せ切ってしまって、さすがと感嘆。

一昨日、水曜日は森下ー増田の師弟戦(棋王戦)が期待に違わぬ矢倉vs雁木の戦いで、将棋の内容も面白かったです。
矢倉は全然終わってないけれど、雁木はやはり有力な作戦という印象を強くしました。
増田五段はまだ20歳ぐらいだったはずですが、早くも2度目の師弟戦というのはすごいですね。

同日、大阪では井上九段が藤井六段の連勝をストップ。(王将戦)
これで来年度の連勝賞の行方は分からなくなりましたか。
井上先生は藤井君に勝った最年長棋士の記録を更新、と報道で知ってなるほどいろいろ調べるものだなと思いました。
20年とすこし前、羽生七冠から初めて勝利を収めたのも井上六段でした。
あのときは子どもながらにちょっと失礼なのではないかな~と思うような報道も散見されたものですが、今回はたぶんそういうことはなくて安心しました。

こちらの将棋も形は違えど矢倉の急戦形で、森下ー増田戦と共通しているのはお互いの玉の位置が6九・4一の状態で戦いが始まったことです。
羽生ー谷川戦は角換わりでしたがやはり羽生竜王の玉は6八のままで開戦しました。
玉をあまり囲わないままに戦いが起こり、その後中盤の戦いの中で(以前に比べて)玉がたくさん動くのが最近の将棋のトレンドになっているように思います。
そのぶん感覚よりも読みが重視されるようになってきたのも最近のプロ将棋の大きな変化と感じています。
アマチュアの方がそのまま真似することはまったくオススメできませんので、真似すると良い部分と参考程度にしておいたほうが良い部分を切り分けながら解説していく技術も必要になっているように思います。

表題は昨日の中継を見ていて気づいたことで、山本ー三枚堂と杉本ー大橋戦(どちらも竜王戦)の2局が相居玉のままの大乱戦、1日に2局こういう将棋があるのはさすがに珍しいと思います。
他にも昨日は佐藤ー船江(棋聖戦)で佐藤九段が居玉のまま相手の攻めを受け止めて快勝、火曜日は田中ー久保田アマ(竜王戦)で田中五段がやはり居玉のまますごい攻撃陣を築いて快勝していました。

こうなるともう、格言にもいろいろと注釈が必要でしょうか。
「居玉は避けよ、ただし名人に定跡なし」みたいな。

今日は今年度最後の大一番、棋王戦第5局。
この1年のトレンドを象徴するかのような相居飛車の力戦形。
挑戦者のここまでの指し回しは、僕にはなかなか理解できそうにない感じなのですが、これはこれでいい勝負なのでしょう。
真似するのはなかなか難しくとも、観戦するぶんには本当に興味深く面白い時代になりました。

 

昨夜はやけに鮮明な夢を見ました。
僕にとってはかなり珍しいことです。

ある先輩棋士に詰将棋を出題されて、夢の中の自分はそれを解いていました。
よりによって、なぜかタイトル戦の前夜祭会場での出来事でした。

それを夢の中のことだと自覚しているもう一人の自分は、実はその詰将棋を知っていました。
それは最近解いた詰将棋サロンの問題で、つまり手数はさほど長くないのですが一手、盲点になる手があったことを覚えていたのです。
ところがその一手がどうしても思い出せません。
苦労して解いたはずなのに、明らかに同じところでつまづいています。
人間の頭は不思議です。

やがてもう一人の自分が、夢から覚めてちゃんと解こうと思い立ちました。
ところがその瞬間、今度はどんな問題だったのか、どうしても思い出せなくなってしまいました。
さっきまであんなに鮮明だったのに、きれいさっぱり忘れてしまっています。

そこで目が覚めました。

将棋の夢を見ることはごくたまにありますが、こういうパターンは初めてです。
結局どんな詰将棋だったんだろう・・・?

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お知らせ2点。

「棋聖戦」ヒューリック株式会社の特別協賛が決定
本戦進行中のこの時期に棋戦名が変わるというのは斬新ですが、ありがたいことです。

今期から竜王戦にも協賛社がついています。
この流れも将棋界への注目のおかげでしょう。

ヒューリック社は佐藤康光現会長が棋士会長の時代から、棋士会にご支援いただいていたと記憶しています。
この1年ほど、外から見ている感じではとにかく会長の獅子奮迅ぶりが目立ちます。

いっぽうでトップが動くだけでなく持ち場ごとにそれぞれの役割を果たされることで、チームとしてのパフォーマンスもさらに上がるのではないかと思います。
特に渉外の分野はいまおそらく、将棋界史上最大級のチャンスを迎えていると思うので、類を見ないぐらいの成果を期待したいところです。

恒例の一門祝賀会、今年は5月4日に決まりました。
森師匠のブログに案内が出ています。
主役の棋士だけが連名でお土産の扇子を作るのが恒例なのですが、今年は6人なのでうまく収まるのかな?と余計なことを心配しています。

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部屋の目の前の桜は早くも散り始め、緑色が見えるようになってきました。
今年はただでさえ早い上に、この桜は周りと比べても早いほうのようで名残惜しい、でもそういうものですよね。

今日は奥さんが平日休みを取ったので、都心を散歩しに出かけてきます。

 

大一番

昨日は文字通り「棋士人生を懸けた」大一番が中継されていました。

棋士生命が1局で10年以上変わる将棋というのは、これまで誰も経験したことがないような大勝負で、他にもしあるとしたら三段リーグの昇段を懸けた将棋以外には考えられません。
タイトルを取るかどうかとか、昇級(あるいは残留)できるかどうかよりも、ずっと大きな勝負に思えますし、そもそもこの事態が空前絶後になってもおかしくないレベルです。

正直なところ、現行のフリークラス制度が作られた際にこういう局面が想定されていたとは自分には思えないのですが、これもルールなので仕方ありません。
さすがにボラタリティが高すぎるし、対局日程に左右されるというのも問題があるというのが率直な感想です。
ただこの制度を変えるのは難しいでしょうし、そもそも変えるということ自体のマイナスが大きいと思うので、今後万一また同じことが起きたとしても、それはそれでやむを得ないでしょう。

将棋はモバイル中継で頻繁に観ていました。
中盤は勢いよく攻め込んで中尾五段が良さそうに見えましたが、82手目の△3一玉が意表の一手でした。
直後の▲3三歩は自然な手ですがそこで△2一銀がまた粘り強い受けで、これで難しくなった気がします。
結果論ですが▲3三歩に代えて▲4四歩△5三金▲4三金が有力だったように思いました。

一夜明けてから、中継ブログや報道でインタビューを読みました。
棋士人生はもちろんそれぞれで、自分もいろいろなことを考えさせられました。

 

あと昨日は女流名人の就位式があったのですね。
奨励会退会の心境を初告白(スポーツ報知)の記事もまた、いろいろと考えさせられるものでした。

繰り返しになりますが棋士人生は本当に人それぞれです。
その中で「何かを与えられる人になりたい」という気持ちはとてもよく理解できます。

これまでの彼女はある意味で、女流棋界の中にあってそうでないような、特別な存在であったと思います。
これからは改めて第一人者として、後輩たちの目標として、女流棋士のレベルアップに貢献してくれるのではないかと思っています。

 

30代も後半に差し掛かってきたいま、自分も今後の棋士人生について考えることが多くなってきました。
ただそのほとんどは自ら語るようなことでもないと思うので、とにかく一生懸命将棋に向き合っていきたいと、言うべきことはそれだけです。

では今日はこのあたりで。

座談会

昨日は中村王座・糸谷八段というスター棋士2人と、学業について話をする機会がありました。
東大受験のときのこととか、単独で聞かれることはいままでにもありましたが他の棋士とゆっくり話したのは初めてのことで、2人の話は非常に興味深かったです。

最近はおかげさまでいろいろな角度から将棋を取り上げていただけるようになっていますので、今後こういう機会も増えていくと良いなと思います。
2人は僕にとっても特別な存在の後輩で、これからも将棋界のために活躍してほしいと願っています。

そんなわけで、久々に対局以外で連盟に行きました。
最近は行くたびに久しぶりなのですが、こうやって外の方から声をかけていただけるのはありがたいことですね。

 

その後、都心に出た足で夜は久々にお会いする方の送別会。
先週末はかなり久しぶりに、将棋ファンの方と飲む機会があって、続くときは続くものだなあとなんだかしみじみ。

この1年ほどで、人づきあいもすっかり様変わりしました。
仕事がなくなったので棋士や将棋ファンと会う機会が極端に減り、家で過ごす時間が多くなりました。
来年度、いまのままで行くか、すこし生活スタイルに変化をつけていくか、考えているところです。

弟子にも日々の生活が一番大事だと口を酸っぱくして言っているので、自分がしっかりしないといけません。
棋士の生活を取り戻すべく、もう1年かけてじっくりと体を作っていくようにと思っています。

 

宣伝をひとつ。
タイトル戦の宿で有名な銀波荘に宿泊して、人気棋士と対局できるそうですよ。
近畿日本ツーリスト

世間が将棋に目を向けてくれることで、こういうことが起きるのだなという好例ですね。
間もなく発売開始のようです。

しばらく前には、常磐ホテル(ここもタイトル戦の宿として有名)で佐藤名人とのタイトル戦体験、という企画をやったことがありました。
今後もこういった体験型の企画は注目を集めそうな気がします。

囲碁界の話題とか

昨日、こんな記事を見つけました。
Theme プロ練習に新囲碁AI 個人で開発、日本棋院導入(毎日新聞)

山口祐君は東大の後輩で、ponanzaの山本一成君と同学年。
彼が囲碁ソフトを作っているというのは誰かに聞いて知ってたんですが、そんなことになってたとは。

自分は入れ違いになったこの世代は、主将を務めた高橋淳君を筆頭に特に強い人が多く、当時の学生王座戦でも何度も優勝してました。
いまこうやって記事で名前を目にするのはなんだか感慨深いものがありますね。

記事で目を引いたのは「棋士やファンが使いやすいソフトの開発が進めば」という一言で、将棋はひたすら強さ(しかも人間の目にはよくわからないレベルでの)を競う方向に進化しすぎてしまったので、ちょっと置き去りになってしまった印象があります。
将棋ソフトをうまく使いこなすのはいまだに難しく、もうすこしやさしい作りになってくれないかな、というのはもうだいぶ前からの願いなので(たとえばバックギャモンソフトのように)、今後は将棋も囲碁も、良い方向に進んでくれたらなと思っています。

囲碁のことは分からないのですが幽玄の間にソフトがいるというのは、将棋でいえば24、ギャモンでいえばGGにソフトがいるような感覚なんですかね。
プロ棋士が普通に対戦しているというのは自分の感性では(連盟的にも棋士個人としても)考えにくく、お隣の世界ではありますがやっぱり違う世界なんだなあと改めて思いました。

 

詰将棋解答選手権、藤井君が4連覇ですか。
この4年は藤井二段、藤井三段、藤井四段、藤井六段が優勝だそうで、次はどうなるんですかね。
上位に入っている人たちは、自分から見ればみんな本当にすごいわけですが、そんな中でも圧倒的に勝つというのはやっぱり何かが違うのでしょうね。いやはや。

そういえば藤井六段はこないだ新設された瀬戸市民栄誉賞を受賞されてましたが、この類の表彰も、もしかしたら最年少でしょうか。
次の目標は当面の連勝記録になりそうですが、さて、誰がどうやって止めますかね。

 

昨日は公式戦の対局がない日で、モバイル中継は好局振り返りの日だったんですがその将棋が先日の順位戦で、自分が千葉さんに七段昇段を献上した対局でした。
いろいろと興味深く読みました。
特に最後の一文には心打たれるものがありました。

棋士というのはスポーツの世界と違って選手寿命が長く、人生のいろいろな重荷を背負いながら頑張っていくのが醍醐味だと思うので、大変ですけどちょっとでも上に行けるように頑張っていきたいと思います。

そう、それですよね。

頑張っていかなくては。