カーリングとカロリーナ

昨日に続いてオリンピックの話題、カーリング女子の活躍はすごいですね。
ニュースでたまたま見ただけなんですが予選スウェーデン戦の最終投、5cm差の勝利は本当に白熱、手に汗握る試合でした。
僕は正直言ってルールもちゃんと知らないレベルなのに、それでも見ていて楽しめるのはスポーツの良さだと思います。
将棋の世界は恵まれてはいると思うけれど、この点はまだ弱い。やむを得ないことではあります。

カーリングは「氷上のチェス」と呼ばれることがあるそうですがそれなら日本国内では「将棋」と言ってほしいところですね。
とそれはさておき、たしかにいろいろと将棋系のゲームとは共通点があるようです。
加えて、最近「おやつ」が注目を集めているのも共通点だとか。面白いものですね。
この話題が自分の目を引いたことで、やっぱり「将棋メシ」とかおやつとかはファンにとって重要なんだなと、再認識できました。

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ところで、将棋の世界は恵まれていると昨日書きましたが、藤井君のような大天才が現れたことも、それと無関係とは思いません。
その世界が眩しければまぶしいほど、多くの参入者があるし逆に貧しければやっぱり頂点を目指そうとする人は自然と少なくなってしまいます。
参入者が多く(純粋な技術に関しての)競争が厳しいほど、頂点は高くなるのは当然です。
将棋界はおそらくあまり類を見ないほどプロになることが難しいと思いますが、そのおかげでプロの高いレベルが保たれ、いまの世界が成り立っていると言えるでしょう。

僕は天才という言葉を安易には使わないつもりですが、ひとつ間違いなく言えることは天才は恵まれた環境のほうが出現しやすいということです。
そして将棋界はしばしば信じられないような大天才が現れる世界で、そんな世界に身を置いていることは自分の数少ない誇りでもあります。
だからこれからも厳しい競争の中にあっても、棋士は恵まれていると感じられる世界を維持することが大切だと思いますね。

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いま弟子のカロリーナがうちに来ていて、来年度からのことを話したりしています。
山梨学院大学には都合4年半お世話になりました。いよいよ、もうすぐ卒業式です。
大学の支援がなければ彼女が一人日本で生きていくことは難しかったと思うので、本当に感謝しています。

無事正式にプロになることができて、これから女流棋士としてどれだけ活躍することができるか。
ある意味スポーツ選手と同じような苦労に、彼女ほど直面している将棋指しはいないでしょう。
女流棋界も十数年前からは考えられないほど恵まれた世界になりましたが、それでも祖国を遠く離れ一人で生きていくことは大変です。

僕は彼女の師匠という立場ではありますが、自分の弟子というだけでなく、将棋界として預かったような感覚も持っています。
将棋界の宝を、大事にしていかなくてはいけないという気持ちが強くあります。
今後第二、第三のカロリーナが現れるかどうかは、彼女自身の努力と活躍と、あとは将棋がどれだけ海外に普及するかにかかっていると思います。
夢は大きく、道のりは遠いです。

実は来月号の将棋世界で、カロリーナの対局を取り上げていただけることになりました。
どうかこれからもいっそう、応援していただければ幸いです。

オリンピックとか

このところさすがにテレビ(地上波)はオリンピック一色ですね。
今回は冬季五輪での日本勢メダル獲得数最多記録を更新したとか。
4年に一度しかない舞台というのがどんなものなのか、想像もつきませんが皆さん悔いのないように頑張ってほしいですね。

スケート金メダルの小平さん、病院が競技生活を支えてくれたという話は多くの報道番組で取り上げられていました。
こういうのを見ると、棋士はやっぱり恵まれているなあと思います。

スポーツの世界ではオリンピックでメダルを獲得するような才能と実力を持つ選手であっても、十分な練習環境に身を置くことができなかったり、試合に参戦するだけでひと苦労という方はよく見かけます。
小平さんのように収入面でのサポートや、練習のための設備投資を必要とするケース。
競技そのものがマイナーであるがゆえに収入が得られないこともあれば、メジャーな競技であるにも関わらずなかなか食べていけるだけの世界にはなっていないというケースもありますね。

思い浮かぶのはたとえばボクシングの世界とか、あとヨットの白石さんが以前羽生先生と対談されているのを読んで、その後著書を読んで感銘を受けたことがありました。
我々将棋の棋士は年間を通して棋戦に参加することができて、かつ勉強のために多額の投資を必要とする世界ではないので、(もちろん大変なこともありますけど)恵まれているなと思うわけです。
先人の努力と、スポンサーとファンに感謝ですね。

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先日の朝日杯の記事や動画をその後も拾ってチェックしたりしているんですが、藤井六段について「形の認識能力が高い」という羽生竜王の一言は話題になったようですし僕も印象に残りました。
「パッと見て局面の急所を見抜く力」でこれは言い換えれば「大局観」の一種とも言えそうですし「直感」が優れているという言い方もできそうです。

経験でしか得られないように見える能力を中学生が有していることには驚かされますが、もしかしたらあの年ですでに経験値も以前では考えられないほど高いのかもしれません。
彼自身はコンピュータ将棋に関しては「ソフトネイティブ」ではない、という言い方をしていたはず(つまりコンピュータ将棋で強くなったわけではない)ですが、いっぽうでデジタルネイティブ世代なのは間違いないはずなので。

糸谷君(八段)以降の、強くなる過程ですでに身近にネット将棋があった世代と、それ以前では修業時代の対局数にはかなり差があると思うんですよね。
僕の場合も奨励会初段~三段の頃は対局相手がいなくて練習将棋を指す機会は少なかったです。

はぐれメタルと戦うために長い旅をする必要がある世界と、家にいながらにしていつでも戦える世界ぐらいの違いはあるかもしれません。(分かりやすくなってないか・・)

 

朝日杯の日の「直感とは何か」のエントリ、なぜかフォントがおかしかったので先日直しました。
藤井六段の返答を改めて読み直してみるに、「絶対手」が普通の棋士より極端に多いという可能性もありそうです。
羽生竜王もよく感想戦で「他にないですよね」みたいな言い方をするので・・

王将戦、棋王戦

王将戦第4局は久保王将が勝って防衛に王手。
この表現、やはりこの棋戦だと特にしっくりきますね。

豊島八段が後手番のみならず、先手番までも相振りを持ってきたのはびっくりしました。
そしてその戦型を師匠の桐山先生(だけ)が的中させていたことにも驚かされます。
師匠は分かるものなんですかねえ。

こうなるともう、次も相振りになりそうな気しかしません。
どういう考えでの戦型選択だったのか、タイトル戦終了後に詳しく明かされることがあるのかどうか。
興味深いところです。

ここまでは相振りの選択がうまくいっている印象はないですが、外野の見る目と本人の体感は一致していないことも多いので、両者がどう感じているのかも興味深いですね。

ところで、同じタイトル戦で3局も相振りが指されたことって過去にありましたっけ?

 

先日の棋王戦第1局・とちぎ将棋まつりを妹弟子の山口女流1級がレポートしてくれています。
この季節は棋王戦・王将戦の番勝負が並行して行われるのが常で、今週末はこちらの第2局が金沢で指されます。
この後は王将5→棋王3→・・と交互に日程が組まれているみたいですね。

自分はどちらの棋戦も次の対戦相手が決まったところなので(来期の予選)、今年度末から来年度初めにかけて対局がつくことになりそうです。

 

今日も記事をひとつご紹介。
憧れの人への尊敬は勝負師にとって悪なのか……羽生善治を倒し王座を獲得した中村太地の葛藤

有名グルメサイト「ぐるなび」の取材に棋士が出るとは意表を突きます。
ものすごく力の入った内容になっていますので、長文ですがぜひ。

もっと社会とのつながりを将棋界が持てたらなって思うんですね。ニュースで野球や相撲の結果とかはよく流れますけど、そこで私たちの対局結果が流れる未来があったらいいなって思っています

将棋も、毎日の対局がニュースとして流れたらどうだろう。今でもネットで対局の結果を知ることができる。ただメディアが発信してくれれば、熱心な将棋ファンにとどまらず、さらなる普及に繋がるのでは――。

将棋が日本の伝統文化として認識されて、伝統文化なんだけど親しみやすい娯楽として日本だけでなく海外に伝わって、どんどん根付いてくれれば、本当に意義深いと思います。

後ろのほうから3つほど引用させていただきましたがどれも我が意を得たり、でこれからもこういう未来を目指して発信を続けていきたいと思います。

では今日はこのあたりで。

 

メディア情報とか

最近ニュースが多くて(しょっちゅう言ってる)、告知が後手に回ってしまいましたが2点。

現在日経新聞紙上にて12/22 杉本四段戦(王座戦)の観戦記が掲載中です。
一次予選の枠抜けの一局で、ゴキゲン中飛車でおなじみの近藤六段が書いてくれています。
ぜひお読みいただけると嬉しいです。

それと昨日はワイドスクランブルから電話取材を受けたのがすこしだけ取り上げられました。
言うまでもなく藤井五段(新六段)朝日杯優勝の話題で、当初はスタジオ出演の予定だったんですがオリンピックに尺を持って行かれたようです。
負けないぐらいの注目度です、とは言ったものの、まあさすがにそうなりますよね(笑)

ただそんな中でも報道番組はけっこう各局とも取り上げていただいていたようで、何人かの棋士・女流棋士が出演しているのを見かけました。
今回の朝日杯は新たな協賛社がついたりもしましたが、きっと大喜びしていただけたのではないかと思いますね。

ところで、将棋もオリンピックとはいかないまでも、ワールドカップやそれに近い規模の世界大会が開催できるぐらいに普及しないかなあ。
という夢を語るのもプロの役割だと思うので事あるごとにこうして活字にしておきます。

 

しばらく前に出た週刊新潮に「将棋と囲碁 子どもにやらせるならどっち?」という記事が掲載されていて、非常に興味深く読みました。
力の入った良い特集記事だったと思います。

どちらが良い、とかいうことはもちろんないと思うのですが個人的には子どもに将棋、お年寄りに囲碁という人々のイメージにはそれなりの理由があるなあというのが実感です。
昔、「子どもに将棋を教えておけばいずれは囲碁ファンになる」という冗談(?)を聞いたことがありますがこれはたぶん真実でしょう。
将棋勢は将棋と共にいろんなゲームを楽しみつつ最後は囲碁にたどり着くことが非常に多い印象です。

僕自身は囲碁は50歳になったら趣味にしようと思っています。
そして51で初段になって60で三段になるのが一応の目標です。

 

今週は比較的対局予定が少なく見えると思うのですがこれはNHK予選がまとめて消化されるためです。
(予定・結果には出ないようになっています)
自分の対局も今週なのですが日程は書かないでおきます。

他に年に一度の歯科検診や確定申告など、季節限定の用事を片付けるウイークにする予定です。

里見香奈さんのこと

昨日の三段リーグの結果を受けて、里見さんの退会が決まったことを各紙のニュースで知りました。
決まったときにニュースが出るものなのかは、ちょっと気になっていたのですがやはり注目されていたのですね。

三段リーグというのは、実力上位の本命と目されるような三段であっても一回のリーグで見れば上がれない可能性のほうが高いので、それを乗り越えて四段になるには当然に高い技術と精神力と運を必要とします。
女性四段の可能性について、僕もこれまで記者やファンなど多くの方から質問される機会があったのですが基本的には確率の問題だと思っていて、実際いつもそう答えています。
つまり男性三十数人のリーグの中に女性数人だけが参戦して、その数人が結果を出すのは相当に困難です。
もちろん本人に飛びぬけた才能や実力があれば別なのでしょうけど、現実にそうなる可能性は高くないという意味です。
可能性は高くないというだけで、可能性がないとも思いません。

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僕が里見さんを初めて見たのは第1回の村山聖杯将棋怪童戦で、まだ僕自身も棋士になる前のことでした。
その年、伊藤沙恵さん(現女流二段)も東京から参戦していて、女の子の活躍は珍しいので注目したことをよく覚えています。

その後棋士になって、島根に仕事に行ったとき、車で一緒になったことがありました。
僕はお母さんとたくさん話して、本人はとてもおとなしかった記憶があります。
隣の県の出身で、彼女を教えたアマチュアの方々の中にも知っている人がいたりするので、当時から注目はしていましたがその後の大活躍はもちろん想像はつきませんでした。

三段リーグに入ってからの、これまでの結果は本人にとって残念だったと思いますが、さまざまな障害や軋轢を顧みず、自分が挑戦したいことに挑戦したという点において悔いはないのではとも思います。
挑戦するという決断自体に高いハードルがあり、実際に挑戦してからも必要以上に注目を集めてしまうという意味で、他の棋士や奨励会員には知りえない葛藤を抱えていた数年間だったと想像しています。
今後はまた楽しく将棋を指せるようになることで、さらに棋力が伸びることもあるかもしれません。
注目の集まる最高峰の晴れ舞台と、陽の当たらないはずの場所。
楽しい将棋と、苦しい将棋。
その両方を同時に知っているプロはいないので、そこは彼女の大きな強みになるのだろうと思います。

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最近は情報の深化で、奨励会員の中にもファンに知られた存在がいたりもしますが基本的には奨励会は陽の当たらない場所ですし、またそうであるべきです。
存在そのものが苦しい場所で、そこで指す将棋は苦しいものと決まっています。
だからこのニュースに本人のコメントがなかったのは良かったのではないかなと、記事を読んで思いました。
語るべき言葉や指し手は今後タイトル戦や棋士との公式戦で示してくれると思うので。

女性四段がいつ誕生するかは自分には分かりませんが、可能性は低い一方でいつかは必ず起きるはずのことなので、ファンの方にはどうかその日まで応援していただけたらと思います。(もちろん里見さんや西山さんに限らず)