JT杯と、詰将棋の話など

昨日のJT杯決勝は、山崎八段が勝って優勝。おめでとうございます。

棋譜はあとで見たのですが、なんとも彼らしい内容の将棋でした。
公開対局でご覧になっていた方は、大熱戦にさぞハラハラドキドキ、大満足されたのではないでしょうか。

子ども大会参加者も大幅増、報道によれば3600人ほどだったとのこと。
たぶん2年前のギネス記録も更新されたのではと思います。
素晴らしいことで、未来はいっそう明るいですね。

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昨日もご紹介した「中学生棋士」にもたびたび出てくる、詰将棋の話。
冒頭で「詰将棋の問題を作ることは、プロ棋士である私にとっては唯一といってもいい趣味である」と書いてあったりして、これは同じプロ棋士の自分でもちょっとびっくりしました。

僕の場合、趣味というと他のゲーム全般で、詰将棋はあくまでトレーニングですね。
(正直言ってそれほど得意ではないし、解くだけで作るほうはできない)
前にも書いた通り、最近は「短編名作選」を毎日の日課にしていて、見開き2ページずつなんですがこれが終わらないと一日が始まりません。
ブログの更新が遅れているとだいたい寝坊か、詰将棋が詰まないかのどちらかです(笑)

17手までなので極端に難しいのはない、はずなんですが実際はそうでもなくて四苦八苦。
詰将棋作家というのは本当にすごい方々だなあと思います。
いまのペースでいけば年内にはなんとか終わる計算なのですが、どうなるか。

ところで、僕は未来の人類は仕事に追われることもなく、いかに楽しく余暇を過ごすかがみんなの課題になって、そこでどれだけただ楽しいだけでなく知的な活動をできるかが重要になるのではないかと予想しています。
将棋はきっとその一助になると思っていますし、他のゲームももちろんそうなんですが、詰将棋はその中でもし順位をつけたら、かなり上位にランクインするのかもしれません。

トレーニングとして取り組むと、詰まないと本当にしんどいというか、イライラするんですが(笑)、そこが面白い、あるいは工夫のしどころでもあるわけで、趣味として取り組めばこれほど楽しいものもないのでしょうね。

指す将の方には詰将棋やらなきゃなー、でもしんどいしなー。と思っている方はけっこう多いはずなので、そういう人は、もうすこし気楽に取り組むと良いのではないかと思っています。

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AbemaTIMESのこの記事を読んで、昔のことを思い出したので最後にすこしだけ。

15年ぐらい前のこと、中原ー米長戦の記録を取ったら、感想戦がなかったということがありました。
負けた米長先生が先に帰られたあと、棋譜をコピーして戻ってきたら、残った中原先生に「ちょっとそこに座って」と言われて、短い時間でしたがその場所で僕が米長先生の側を持って、感想戦をしました。

記録はたくさん取ったんですが、あのときはさすがに緊張しましたね。
懐かしい思い出です。

私は泣いたことがない

昨日の旅のお供は「中学生棋士」(谷川浩司)
藤井四段を中心に、ご本人を含む5名の、中学生でプロ棋士になったスターたちの物語です。

藤井君の幼少期の話がいろんな媒体で語られるようになって久しいですが、必ず出てくるエピソードが、詰将棋能力のすごさと、あとはよく泣く子だったという話。
谷川先生にとっても、初めての指導対局での出会いは、印象深いものだったそうです。

こういう本を読むときはやっぱり、自分と重ね合わせながら読む部分が多くて、当然ながら自分も他の棋士(トップに限ったことではないと思う)との共通点は多いのですが、明らかに違うなと思うのが、僕はあまり泣かない子だったなあということ。
身の周りを思い出してみても、兄弟子の山崎君もわりとよく泣く子だったし、弟弟子の糸谷君はそれ以上でした。
たしかに、奨励会の対局で負けて泣いている子は他にもいました。
自分が棋士としての才能に欠けていると感じることはそれほどない(逆に才能があったと思うこともない)のですが、この点だけは、他の棋士と明らかに違うようです。

 

そんなわけで、棋士のこのテの新書を読むと、いつも脳内に中森明菜が流れます。
まあ、「ない」は大げさなんですけど、はっきりと自分の記憶にあるのは数えるほどしかないので。

子どものころ、実は私も将棋に負けて泣いたことは数知れない。泣くほどに負けず嫌いであることは、将棋のプロになろうとする子どもにとっては才能の一つでもある。プロ棋士も、負けても悔しくなくなるようであれば、引退を考える時期だ。

たしかにその通りだなと思いつつも、勝っても負けてもわりと淡々とブログで振り返ったりもできる方ですし、いろいろと考えさせられてしまいます。

もっとも泣く子が必ず強くなるかというとそんなわけもなくて、大切なのはバランスなんでしょうね。

嬉しさや悔しさを感じることで、将棋が強くなるためにはどうしたらいいかと真剣に考えるようになる。そう考え始めれば、強くなるための行動を子どもは自発的に始める。楽しい、嬉しい、悔しいという三つの感情が、バランスよく子どもの感情に配分されると、その子の将棋は長続きする。

藤井君に関する書籍は夏頃から目立つようになってきていて、だいたい目を通しているのでまた機を見て紹介したいと思います。

藤井四段が高校進学を「最善の一手」にするには
奨励会同期入会の、後藤元気君の記事。
3ページ目の最後に自分の名前が出ていたので、ご紹介しておきます。

自分によっては昔話のような感じでもあるのですが、こうやってときどき、名前を出してもらえるのはありがたいことだと思っています。
これからもたまには、周囲を驚きザワつかせるような活躍をしたいものです。

日帰り出張

昨日はせっかくモバイル中継していただいたのに、残念な内容でした。
このところいろいろあって、準備不足や精神状態の悪さが出てしまいました。

先月半ばまで連勝していましたが調子が良いとは感じていなくて、将棋の内容も徐々に悪くなっているので危機を感じていました。
昨日の内容ではっきりと自覚できたので、状態の悪さを意識した上で、もう一度上昇気流に乗れるように頑張ります。

常に波があるのは人間なら当然のことなので、良い波を大きく、悪い波を小さくできるようにと思います。
しばらく週1で対局が続くので、何はともあれ日々の勉強を怠らないように気をつけます。

夜のパーティーでは久々に谷川先生にお会いしました。
すこしだけ言葉を交わす機会に恵まれ、大したお話はしていない気もしますが、なんだかとても勇気づけられました。
これがきっかけで、良い波に乗れる気がします。

今日はこれから日帰りで宇都宮へ。
毎年恒例の高文連の段位認定大会です。

8時には新幹線に乗らないといけないので、簡単ですが今日はこのあたりで。

将棋の日、JT杯

予約投稿です。

今日の対局、モバイル中継もあるようです。
良い将棋が指せるよう、頑張ります。

今日11月17日は「将棋の日」。
ご存じの方も多いと思いますが、8代将軍徳川吉宗が、御城将棋の日をこの日に定めたことに由来しています。

将棋連盟ではこの日の近くでイベント(今年は札幌で行われました)と、東西の将棋会館で表彰・感謝の式典を行うことを習わしにしています。
後者は普及活動にご尽力いただいている方々に、感謝の意を表す大切な一日になっています。

また今夜はJT杯東京大会のレセプションもあり、こちらには対局後にお邪魔しようと思っています。
近年は金曜日にレセプションで、中一日あって決勝大会というのが恒例になっているようですね。

先月の学校訪問のときにも書きましたが空前の将棋ブームの昨今、子ども大会の参加者もおそらく過去最高、すごい数になるのではないかと期待しています。
好天にも恵まれますように。

プロ公式戦(日本シリーズ)の決勝は山崎八段ー豊島八段というカード。
こちらもぜひ多くの方々にご覧いただきたいと願っています。

公開対局に関して、今月の将棋世界に出ていた竜王戦第1局の記事(大川記者)の文章が非常に感銘を受けるものだったので、引用させていただいて今日の結びにします。

ファンの方々のあまりにシリアスな眼差しに、私は舞台上の対局に目を向けるのをすっかり忘れていた。携帯電話の電源はもちろん切られており、スマホに目をやるものはいない。ただただ、渡辺と羽生が読みに没頭する姿を凝視している。「多動力」などという言葉が流行し、同時に複数の物事を処理することが求められる時代だ。空き時間ができればスマホを眺める人は多く、それが悪いわけではない。だからこそ、この時が止まったような悠久の空間で、対局者も観客も一つの物事に集中することは大きな意義があるのだと強く感じた。

明日対局

昨日も書いた通り、昨夜はある企業の将棋部へ。
職団戦前の特訓ということで、ここ数年は恒例になっています。

ただ皆さんお忙しいのか、昨日はいつもより参加者少なめでした。
日本社会全体でもいまは人手不足が顕著、就職戦線も空前の売り手市場だそうですし、無理もないことかもしれません。

社会人になるとなかなか自由に将棋を指す時間を確保するというのも難しくなると思います。
そんな中でずっと将棋を続けておられるアマ強豪の方の存在は、我々プロにとっても良い刺激になっています。

これからも無理のない範囲で、あとは何か具体的で身近な目標をモチベーションにして、情熱を保ち続けていただければと願っています。

帰途、そして帰宅後はB2順位戦を観戦。
中村王座と畠山七段の連勝がストップ。
鈴木九段の居飛穴退治、田村七段のケンカ殺法、いずれも見事な斬れ味でした。

他にも阿部ー戸辺戦とか、明らかに両者ペースというか、棋風通りの戦い方をしている棋士が多い一日だったように思いました。
個性は大切ですね。

最後に残った藤井ー北浜戦は、序盤から終盤まで、見どころたっぷりのすごい将棋でした。

今後これが「新藤井システム」になるのかどうか、いずれまた似た将棋は見られるのではないかと期待しています。

 

日付変わって今日はB1の全5局と、A級が1局。
そのA級の深浦ー豊島戦は、来週また王将リーグの挑戦を懸けた一番でも対戦します。

こういうことは案外珍しくなくて、たとえば竜王戦7番勝負真っ最中の渡辺ー羽生戦も近くA級順位戦で対戦がありますし、今期銀河戦決勝の羽生ー久保戦もやはりA級と連戦でした。
2つのタイトル戦を並行して戦った例とかもたくさんあります。

トップ棋士ならではですが、こういうのってどういう気分なんですかね?
番勝負を戦うのに似ているのか、あるいは違う戦略があるのか、まったく気にせず普段通り指すのか。
自分にはなかなかわからないことなので、以前から気になっています。

明日の自分の対局は、棋聖戦の一次予選で真田八段と。

真田さんとは過去5戦、すべて先手番を引いていて、初手合いこそ勝てたもののそこから矢倉、矢倉、また矢倉、そして相掛かり、すべてねじり合いの末に負け。
力の違いを見せられていますが、今度こそはなんとかしたいところです。

勝つと午後にもう一局あるバージョンで、2連勝すると枠抜けになります。
頑張ります。