引っ越し

これから、人生でちょうど10回目となる引っ越しです。
2000年に東京に出てきてから、今回で7か所め、7区め。

生涯を通じて23区すべてに住むという、およそ現実的でも生産的でもないプロジェクトも、地味に進行中です。
いまのペースならある程度長生きすれば十分可能なのですが、実際にはまあ、半分行くかどうかでしょうかね。

この2か月間は一日も休まずにブログを更新できたので、明日もできれば書きたいと思っていますが、さすがに難しいかもしれません。
将棋に関する投稿も、なるべく早めに再開したいと思っています。

この数か月は、のんびり過ごしつつも、棋士としての生活リズムを取り戻すためにゆる~く努力してきました。
総会が終わり、引っ越しの片づけが終われば、もう自分に対する言い訳はできなくなるので、その先はいよいよエンジン全開でいきたいと思っています。

総会

昨日は公益社団法人・日本将棋連盟の定時総会。
役員解任という事態を受けて、すこしでも空白期間を短くするために、例年より10日ほど前倒しで開催されました。
決算書類の準備等、事務局はさぞ大変だったことと思います。
この数か月の様子は、正直なところあまり知りませんので、無事に送られてきたのを見たときは、ホッとしました。

新役員が正式に決まりましたので、自分にとってもこれで一段落です。
日本将棋連盟新役員のお知らせ

円陣は珍しいですね、と書こうとしたら「エンジン」と変換されました。
新役員の皆様には、さっそくエンジン全開でと期待しています。

これからは一棋士・一会員の立場で(とわざわざ書くまでもなく当たり前のことですが)将棋界のために尽力していきたいと思います。
これまで何度も書いてきましたが棋士はプロとしてそして将棋連盟の一員として高い意識を持つことが何より大切で(もちろん高い技術も大切)、全員が棋士の本分に則って対局と普及に務めれば、より良い世界になるものと自分自身は考えています。

 

帰り道、会場を出たところで長年の仕事仲間であるファニー君にバッタリ。
(150人ぐらい集うので、誰がどこにいるかはよくわからない)
実は、自分も電王戦の棋譜を棋士が振り返るのは面白いかなと思っていたので、「楽しみにしてるよ」と声をかけてきました。

僕が現場で対局を見たのは、担当理事だった2年間10局のうち、豊島ーYSS戦を除く9局と、船江ーツツカナ戦の計10局だったかと思います。
青春はちょっと大げさじゃないの、だいたいそんな歳じゃないでしょと思ったけどそれは言わないでおきました。
まあでも1局1局にいろいろと記憶に残る指し手・結果や出来事や背景があって、気持ちはわかります。

将棋に対する切り口というのは数多くあると思いますが、その中で「▲〇〇〇」という指し手は悪手で「▲〇〇〇」が正しかった、というだけのことなら、コンピュータに聞けばいいという日がもうすぐそこまで来ています。
(これは勝ち負けや強弱とはまた別の話なので、いまはまだそうではないと僕は思っている)
(ついでにもう一つ書くと、そもそもそれだけでは解説や記事としては物足りない)

大事なのはその先、あるいはその手前の背景で、それをいかに読者・視聴者に分かってもらうか。
あるいは、楽しんでもらうか。
そのための努力が、棋士により求められているように思います。

ということで、冒頭の話にもつながりますが、棋士の本分を大切にして、これからも対局・普及に全力で務めます。

 

応用

昨日は日曜日でしたが、日本将棋連盟モバイルでは加古川青流戦の中継が行われていました。
近年は対局が増えて部屋の都合がつかないようなこともありますし、今週のように土日とも公式戦の対局があるのは、いろいろな意味で好都合と言えます。

結果は稲葉聡アマ(陽八段のお兄さん)の勝ち。
優勝するぐらいだから当然ですが、いつも勝ち方が強いです。
世界で一番将棋の強い兄弟は、普通に考えれば畠山兄弟だと思いますが、稲葉兄弟も相当ですね。

先日の電王戦第2局で、ちょっとした話題になっていた局面を取り上げてみます。
(※公式サイトのキャプチャーです。←リンクをクリックすると棋譜が開きます)

△5一銀が角換わりでは見たことがない、斬新な一手でした。
(コンピュータ将棋ではある手、という話もウェブ上では目にしましたが、本当なんでしょうか?)
先崎さんの観戦記には

銀矢倉の形で受けの基本だ。それが見えにくい、というか意表なのは、序盤において金銀を引く手は悪手――おおげさにいえば論外という人間の先入観があるからである。

と書かれています。なるほど、たしかにその通りと思いました。

実はこの手を見たときに、連想した局面がありました。
同じことを思った人がどこかにいるだろうと思っているのですが、実際のところはわかりません。

それがこちら。
(※2010年、王位戦第3局←リンクをクリックすると棋譜が開きます)

この手は当時、なるほどこんなうまい指し方がと、斬新に感じた記憶があります。
「余分な歩を突かない」「最短ルートで囲いに金銀をくっつける」という意味で、かなり共通するものを感じたのですが、どうでしょうか。

実はいまから数年前に自分も横山六段との対局で、似た局面でこの銀引きを指されて、完敗したことがあります。
部分的にかなり有力な指し方なので、電王戦の△5一銀も、初めて見た手ながら直観的に有力だと思いました。

この手を人間が指したのであれば、この例のように全く別の形からの応用(連想、ぐらいのほうが正しいかもしれない)ということになりそうですが、コンピュータの場合は、たぶん膨大な読みの中からこの手を拾い上げただけで、応用だとかいうことはないのでしょう。
そこが面白いものだなあと思いました。

電王戦の番組は、最後の記者発表以降だけTSで観ました。
11時間半ぐらいのところから名シーン振り返りのようなコーナーがあって、つい最近のことなのに、いろんなことをとても懐かしく思い出しました。
今後は想い出にひたるのではなくて、コンピュータに教わったいろいろなことを、盤上ですこしでも応用していきたいと思います。

今日は例年よりすこし前倒しになった定時総会。

名人戦ほか

結果は佐藤名人の勝ちで、これで防衛に王手。
後手番の勝ちが続きましたがここで先手番ブレイク(?)
お互いの土俵の横歩取りで快勝という結果は、言うまでもなく大きそうです。
2日目は優勢になった名人が、終始手堅い、手厚い、盤石の指し回しだったように見えました。

感想戦によれば、初日の△4三金右(48手目)で△5四銀なら難しかった、とのことですがこれはかなり難易度の高い手と思えます。
代えて△4三銀なら自然なのですが、この△5四銀は▲4四角も、▲2一角も受けていない手で、しかも次に△5五銀と取れてもそこで▲8三歩成~▲6五角という筋が残るような状況なので。
そういう結論であればやはり、作戦的にはちょっと後手が大変な将棋だったかという印象を受けました。

最近コンピュータ将棋に関して「バランスを取るのがうまい」という表現を聞くことがあって、こういう局面がそれに該当するかもしれません。
第一感の手、とか指しやすい・指しにくいなどの感覚がないので、膨大な読みの量によっていろんな水面下の変化をケアして、その結果としてうまくバランスを保つ。という技術は、人間には負荷がかかりすぎて大変。
というような意味合いです。

そういえば電王戦第2局の記者会見の様子とか、その前のNHK杯などの録画は先週のうちに見終えて、感想とかも書きたいのですが時間がなく、ほったらかしになっています。
このまま時機を逸してしまいそうです^^;

叡王戦のタイトル戦昇格はビッグニュースで、本当に良かったと思います。

あと今週は囲碁のほうでもトップ棋士とAIの対戦があり、アルファ碁の3連勝に終わったそうで。
将棋と囲碁、似て非なるゲーム、似て非なる業界で、ソフトとの取り組みも全く違った展開になってどちらが良かった、とかは簡単には言えないと思います。
ただ将棋の場合は電王戦というイベントを通じてかなり多くのプロ、かなりの多くの将棋ファンがある程度の期間、ある程度強い関心を持って見守ったと思うので、その点はとても良かったと思います。

先日公開された先崎九段の観戦記も読みました。
棋士らしい、そして先崎さんらしい、深みのある内容だと思いました。

しばらく前に「将棋観戦記コレクション」という本も紹介しました。
将棋はいろんな楽しみ方があり、しかしその中で将棋「文化」と、観戦記とは、切っても切り離せない関係だと思うので、観戦記を読む(それはちょっとコアな、ということになるかもしれない)将棋ファンが、もっと増えてくれたらと願っています。

なんだかとりとめなくなったまま、今日はこのあたりで。

名人戦

名人戦はかなり激しい進行になりました。
封じ手の局面は、僕の感覚では角桂交換で駒得の先手が、すでに優勢に見えます。
しかし現代将棋では、角の価値が下がり気味で、歩切れは重視する傾向にあり、このあたりをどう見るか。
これで形勢のバランスが取れているとしたら、すごいことという気がします。
両対局者はどう感じているのでしょうか?

前例を外れたのがこの局面。
この局面は昨日も書いた「間を空けて登場する将棋」になるのかどうか?
ここに至るまでに先後双方に変化する手がいくつかあるので、流行形になるというよりは、押さえておくべき変化のひとつ、という感じになるのではという気がします。

実戦例を調べてみたところ3局で、昨年6・7・10月にそれぞれ1局ずつでした。
前例で△8二飛がなかった理由としては、△2四飛のほうが、次の▲4五桂に対応している(△3四銀と逃げることができるので)ということだと思っていました。
△8二飛が意外な新手なのは、本譜のように駒損になる手順が見えているのに、あえてそれを受け入れようとする点にあります。

ちなみに、こうやって理由づけをしながら局面を把握していかないと、人間は(僕は、と言うべきか)定跡を覚えられません。
なので、こうやって新しい考え方の手が出てきて、それが正しいと考えられる場合には前の考え方を、捨ててかかる必要があります。
このときが一番、記憶がぶつかって混線しやすく、その局面を正しく認識しておくという観点から、危険な状態と言えます。
前例そのものを記憶していて、判断がついていない、あるいは間違って認識している、という状態になりやすいからです。

過去の実戦例を無限に記憶していられて、かつ、いらなくなった棋譜は捨てて、必要になったらまた引き出せて、という作業が脳の中で自由にできたら、どんなに便利かと思います。
実際はまったく「自由に」はできず、ものすごく不自由で、ものすごく負荷をかけながら、やっています。
トッププロの情報整理力はすごいと、いつも思っています。

たとえばこの△8二飛の局面が、対局前の2人の脳内にはどういう形で認識されていて、対局後にどういう形でアップデートされるのか。という点に僕は興味があります。
ただ、それは(たぶん)解明されることのない疑問でもあります。
我々にできることは、この局面は実際のところどうなの?(どちらが優勢なのか)ということを、突き詰めて考えることだけだからです。

今日は土曜日なので、いつも以上にじっくりご覧になれる方が多いかと思います。
主催紙の新聞紙面やウェブに加えて、現地や将棋会館の解説会、日本将棋連盟モバイルや名人戦棋譜速報の中継、各種映像メディア、たくさんありますのでぜひお楽しみください。