3月のライオン

アニメの第2シリーズが始まりましたね。
相変わらず重い。
主人公、暗い。
その世界を知っている自分から見てもそう思うぐらいに、メッセージ性の強い漫画です。
当然ながらキャラクターや物語はすべてフィクションではありつつも、作り物ではないこの世界の本当の部分を伝えたいという思いも、すごく強く伝わってきます。

今回のシリーズは文科省がコラボしているそうで、これには驚きました。
山口女流二段のインタビューが掲載されています。
ついこないだ一緒に仕事したばかりなので、話を聞ければ良かったなあ。

 

いじめの問題というのはなかなか語るに難しいものですが、僕自身も東大卒でありながら小学校は卒業していない(最後のほうは行ってないという意味)ので、いろいろと思うところはあります。
当時を振り返ってみて、小6の2学期から奨励会に通えることになったのは、具体的な人生の目標が定まったという意味でも、自分にとって大きな出来事でした。
将棋がなければ、(当たり前ですが)また違った人生だったことでしょうし、学校に行かないという決断が難しかったかもしれません。

いじめはもちろん良くないことだとは思いますが、簡単になくなるものでもないと思うので、どう対処するかはこれからもずっと大きな課題でしょう。
もし深刻な状況になってしまったときに、逃げ道の引き出し(選択肢)が多いことは、とても大切ですね。
それは子どもの社会に限ったことではなく、大人でも、同じだと思います。
「戦っても良い、逃げても良い」とは、とても良い言葉だなと思いました。

 

プロ棋士になれたことは、もちろんとても幸せなことでしたが、考えてみるとそれよりずっと前、「プロ棋士になる」という目標を持てたことが、まず幸運なことでした。
「しょうらいのゆめ」が職業であったり、大きなものであればもちろん良いでしょうし、そうでなければもっと身近な目標でも良いと思います。

素敵な未来を思い描くことで、人生は豊かになるし、ときには逃げ道にもなります。
それは僕がこれまでに実体験として学んできたことであり、いまでも役に立っている人生観でもあります。
これからも、大切にしていきたいと思っています。

負け

昨日の対局は、苦しい将棋を粘りに粘るも、結局最後までチャンスは来ず。
とても残念でしたが、精いっぱい頑張ったので、仕方ないかなという感じです。
夜中にはっきりしない局面になってから気力、体力を発揮され、ベテランの先生の底力を見せられた気がしました。

唯一もしかしたら、と思ったのが100手目あたり。
△5九角は手ごたえがあったのですが、次の▲6九玉が良い手で「ああ、やっぱりまだ悪いか」。

その後しばらく進んで108手目の△7六銀もなかなかの手で、ここで▲6八桂のような催促なら△1六馬!と切る手があって勝ちになります。
しかし次の▲7九香が気づきにくい受けで、「ああ、やっぱりダメか」。

その次の△1五歩は、▲2八竜と馬取りに来られたときに逃げ道を用意した渾身の一着。
「歩の突き捨て」はいろいろな場面で出てくる手筋ですが、中でもかなりレアな手だったのではと思います。
しかし進んで125手目から▲7三歩△同玉▲6八桂が作ったような決め手で、ここで負けがはっきりしました。

それでも、最後の詰みだってけっこう難しい。
チャンスは来ないなりに、最後の最後までギリギリでした。
右上隅の1一と、1五香、2三歩の配置がすべて作ったように詰みに働いたのは不運にも思えましたが、そこに至るまでに一生懸命粘った残骸なので、やむを得ません。

これで3勝3敗に。
後半戦は今期好成績の相手が続いていて、とりわけ厳しい戦いになると思いますが、なんとか勝ち越しを目指して頑張りたいと思います。

残り4戦で、6人の1敗者のうち3・4・5番手との対戦を残しているので、もしかしたら責任重大な立場になったのかもしれません。
良い将棋を指したいのはもちろんのこと、周りの棋士から見ても、納得してもらえるような内容の将棋をと思っています。

昨日は深夜に帰宅後、4時ぐらいまでクールダウンしてから就寝。
起きたら昼すぎでした。
激闘のあとにしては、よく眠れました。
今日はゆっくり休んで、明日からまた次の対局に向けて頑張ります。

本日対局

いつものように、予約投稿です。

今日はC1順位戦の一斉対局日。
名人戦棋譜速報でご覧ください。

対戦相手の泉八段とは、本局が初手合。
かつてあった西日暮里道場でのプロアマ混合の研究会で、十数年前に教わって以来の対戦だと思います。

棋士になって14年目になりますが、いまだ指したことのない先輩棋士もまだまだいます。
同じ相手と続けて当たることもあるのに、逆にまったく当たらないこともあって、抽選というのは不思議なものですね。

初手合の楽しみな気持ちと、ほど良い緊張感を持って、対局に臨みたいと思います。

ニコ生とか

たまたまtwitterで知りましたが、今日の午後、うちの一門の兄弟弟子3人で、競馬番組に出演するそうで。
相変わらずいろいろと多才ですね。
ほどほどに楽しんできてください。と心の中で応援。

数日後には永瀬六段・青嶋五段(ちなみにこの2人も兄弟弟子の間柄)でPUBGなるゲームをやるそうで。
こういうライトな番組、棋士の趣味を取り上げていただけるのも良いですね。
かつて棋士人狼とかそうでしたけど、自分の好きなジャンルだと、思わず全部見てしまいます。

先日も書きましたが叡王戦は明日で本戦進出者が出そろい、あさってがその本戦の抽選会。
第3期叡王戦 本戦 組み合わせ抽選会

書道部でお世話になっている佐々木恵陽先生に、全員分のお名前を書いていただくとのことで、対局翌日でちょうど良いので観ようと思っています。
昨年はエントリ全員160名分書いてもらうというなんともドワンゴさんらしい無茶な企画だったそうですが、今年は16名なので、まあ冷静ですね。

以上、ニコ生の話題でした。

 

竜王戦は羽生棋聖の快勝で、挑戦者2連勝の立ち上がりに。
本局は小さなミスをとがめたというよりも、好手・妙手連発で押し切ったという内容に見えました。
△7七桂打の重ね打ちはすごい手でしたし、その後の△4九竜も気づきにくい一着でした。
感想戦のコメントを見ても、あのあたりから形勢が傾いたようです。
また昨日も書いた通り、序盤から意外な手がいくつか出た将棋でもありました。

この将棋は年度後半の流行に大きな影響を与えそうですし、シリーズ全体から見ても相当に大きな一局だと思います。
本当に矢倉(矢倉囲い/矢倉戦法)は終わったのかどうか。
僕はそれはないと思っていますが、いまはたしかに押され気味ですね。

 

今日の東京は台風一過で快晴。
風はやけに強いですが、久々に暖かい一日です。
今回の台風でも身の周りでは大きな影響はなく、幸いなことでした。

そして早いもので10月も明日で終わり。
そろそろ年末を意識する頃になってきました。

年末、そして年度末に向けて、明日も良い将棋が指せますように。

雁木(竜王戦のちょっとした解説)

久々に図面入りでブログ書きます。
竜王戦は2日目に入りましたが、昨日の序盤の話。

この△5三銀がなかなかに意外な一手でした。
というのも最近は6三銀と「ツノ銀」に構える形が、圧倒的に多かったので。
羽生棋聖の将棋は「柔軟」と称されることが多いように思うのですが、その柔軟な発想の一端がこの手に表れているような気がします。

この形こそが正式に「雁木」と呼ばれているという向きもあり(名称の謎については今月の将棋世界に詳しいです)、別になんてことない手なのですが。
でも誰しもつい流行にとらわれてしまうものなので、自然な手が研究からこぼれ落ちてしまっているということはよくあります。

この手が実際に盤上に現れた理由として、この局面までずっと△6三銀と上がっていなかった、という点が挙げられます。
そりゃそうだ、と言われそうな説明ですが、そこに「保留できる手は後回しに」という思想が表れていると思うのですね。

△6三銀と上がると、△5三銀とは上がれません。逆もまた然り。
どちらにするかの意思表示を保留して、選択肢を多く保つ、というのは現代将棋の極めて重要なコンセプトです。

この△5三銀のすこし前の局面がこちら。

この局面、後手は
・玉の位置(居玉か、普通に左に行くか、あるいは右玉にするか)
・角の使い方(△4五歩と攻めを見せるか、4二→6四と転換するか、このままか)
の2つを、目いっぱい保留しています。

代わりに、4三銀の形や、7三桂の形を早めに選択しています。
どこを決め打ちして、どこを保留するかに、いまの思想が出ていると思います。
その結果として、表れたのが最初の図の△5三銀という一手です。(というのが僕の解釈です)

ちょっと難しい話になったかもしれませんが、このエントリは今後観戦記や専門誌の解説を読むときにも、たぶん役に立つのではないかなと思って、書いてみました。
より深い興味のある方にも、ご参考になればと思います。

 

その後の羽生棋聖の仕掛けにはびっくりしました。
桂がちょっと早いと感じるタイミングで跳ねていくのはこれまた現代将棋の特徴ですが、いくらなんでも早すぎるのではないかと。
対して渡辺竜王の▲6七銀もまた意外な一手ですね。
形勢は難しそうです。

プロの将棋は相手に十分な陣形に組ませないようにお互いに気を遣うので、結果としてこういうギリギリの開戦になってしまう、ということなのでしょう。

このあとの戦いも、大盤解説やweb中継・放映でぜひお楽しみください。