新年度に思うこと

今日から令和2年度の幕開けです。
これほど重苦しい気持ちの新年度は過去に記憶になく、自分の体感としては震災や911のとき以上です。
とにかくいまはじっと耐えて、家の中でできるストレス発散に努めて、あとはすこしでも将棋という、誰にも迷惑をかけることのない平和な世界に潜りたいと思います。

女流王位戦の日程変更(TOKYO Web)
第1局が中止、とtwitterで誰かが書いているのを見て、なんて質の悪いエイプリルフールと思いきや、そういうことではありませんでした。
過去のタイトル戦でも不測の事態による日程変更や、2日制→1日制への変更等はあったと思います。ただ、感染症が理由というケースはおそらく初めてのことでしょう。
東京圏⇔関西圏の大きな移動を避ける方針は時宜にかなっていると思います。

これを見て思ったことが2つ。ひとつは藤井聡太君のこと。
彼はいま、名古屋と大阪もしくは東京を往復する日々です。
どうか何事もないように、あと電車内や街で見かけても声をかけたりとかは、くれぐれも控えてほしいと願います。
将棋界全体としても、不急(不要はありえないけど、日程的に余裕のあるケースは考えられるので)の東西交流の対局を一時延期する等の措置はどこかで必要な気がします。
ただ藤井君(と師匠の杉本さん)だけは東海道を反復横跳びする以外に対局を継続するすべがありません。

最近の藤井七段の対局風景を見ていると、以前ほど大勢の報道陣に囲まれる姿は目にしておらず、ある程度はおなじみの方々が中心と思われます。
ただ最近は芸能界やテレビ関係の方々にも感染が確認されています。
この先も快挙が期待されますし、そうなればまた盛り上がって将棋界にとってはありがたいことと思いますが、大きく報道していただきつつも取り囲まれるようなことのないよう、あとはマイクを除菌するなど、最大限の配慮をお願いしたいです。

なぜ、こんなことを思うかというと安倍さんや小池さんを見ていて日々そう感じるからです。
自分より何十も年長なのに大変な体力と精神力、つくづく感服しますが周りも本人も、少しでも安全に努めてもらいたいです。

もうひとつ、4月1日というのは異動や新入(学・社)などがある日です。
当然ながら多くの人が長距離を移動する可能性が高いです。
今、大切なことはそれぞれの人が交流する人の範囲を、社会的にも物理的にも、できるだけ小さくすることです。なので移動したばかりの人は、特に注意が必要です。
当面は誰もが限られた人の輪の中だけで生活を成り立たせることが重要です。

自分も明日は対局なので、家を出ることになります。
さすがに家を出るというだけで恐怖を感じることはないですが、将棋を指すために電車に乗って出かける、という行為には疑問も感じます。
ただ対局は棋士にとっては生きることの次に大切なことなので、もちろん一生懸命指します。
幸い、今日も平熱です。最近は毎日の検温を欠かさないようにしています。
自分の安心のためにも、周りの人を守るためにも、老若男女問わず、やってほしいと思います。

最近はとにかく医療・救急や薬局で頑張って下さっている方々に、ひっそりと心の中で感謝する日々です。
世の中の人々すべてが医療関係者の一次発信に耳を傾け、最大限の努力をしてこの危機を乗り越える、そんな令和2年度になることを心から願っています。

今年度総括

今日は3月31日、年度最終日。
平成最後の年度にして令和最初の年度も、今日でおしまいです。
今日のモバイル中継は重厚なラインナップで5局。長い一日になりそうです。

自分自身の今年度公式戦は、NHK予選を除いて13-13でちょうど指し分け。
そこにNHK予選の3連勝が加わり、3つの勝ち越しで終えることができました。
昨年末から調子が上向き、好成績とまではいかないものの、出だしが悪かったことを思えばなんとか帳尻を合わせることができたという感じでしょうか。

今年に入って開幕した棋王戦、王将戦、NHK杯はいずれも勝ち残れましたので、年度が変わっても引き続き頑張っていきたいと思います。
最近は対局できるだけで幸せというか、勝ち負けをそこまで気にせずに盤上に集中できているので、今後もそういう精神状態を持続できるようにと思っています。
これはいままでの棋士人生では感じられなかったことで、自分自身の深い部分で変化が起きているのだと、良い方向に解釈しています。

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コロナの影響で、年明け早々から社会は一変しました。
よもやこんなことが起こるとは、思いませんでした。

この先どうなるかはまだ分かりませんが、これまでとは違う世界が待っている、ということだけはたしかです。誰もが意識を変え、行動を変えていかないといけません。
いま、世間で大変だとニュースになっているのは飲食店や、音楽業界などです。しかし当然ながら将棋界にも、影響は避けられません。

たとえば道場や教室はいま臨時にお休みしている状態ですが、これを同じ状態で元通りに再開することは、もうできないでしょう。いつ終息するかも分からない状況で、そういう思考停止は、避けるべきです。
各種イベントもなかなか難しくなりそうです。しかし必ず何か策はあるはずなので、探っていかないといけません。

これまで、大勢の人が集まるのは、ほぼ無条件に良いことでした。
「〇万人動員」とか、いろんな業界でよくニュースになっていました。
近年の将棋界ではたとえば「一会場同時対局」のギネス記録がありました。とても価値のあるニュースで、将棋界の一員として誇らしい気持ちになったものです。
しかし、ついこないだまで素晴らしいことだったのが、そうでなくなるケースがあります。価値観の変化を受け入れて、これまでとは違う価値を提供していかないといけません。

我々の対局もどうなるか。将棋は和室や棋具まで含めての文化で、これ自体を変えるべきではないですが、一方で感染防止にも最善を尽くすべきです。
なるべく対局者同士の距離を取る、食事の空間を共有しないなどの基本を、できる限り徹底すべきでしょう。

あとは自分も含めて一人ひとりが、日々の生活でも十分気をつけて、安心して対局に向かえるようにすべきです。
そして万一のときは、休む勇気を持つことです。
棋士は多少熱があったり、具合が悪くても将棋は指せます。体に染みついているからです。案外集中できて良いところに手が行ったりもします。良い手は考えてひねり出すものではなく、指先が覚えているものです。
しかし、いまは具合が悪ければ、絶対に休まなければいけません。

書いたことはあくまで一例で、むしろ書いていない部分での変化のほうが大きいかもしれません。
現状の自分にも、社会にも、不安も不満もあれど、自分自身が変わり続けることでこれからも棋士として生き続けたい、という気持ちを新たにした令和初年度でした。

3/18 瀬川六段戦

王将戦の1回戦でした。

図は対局翌日にも触れた、「筋違いに打った角がトン死しそうになった」場面。

アンタいったいどこから来たの、という感じの角冠。玉頭薄い。
ここまでの流れとしては
▲5六角と打って7四と3四の歩をパクパク(ありがち)
→8四飛の横利きで狙われる(ここまでは想定内)
→△5五歩~△3三桂!で退路を断たれる(見落とし)
→たまたま端の位を取ってたので▲1六角と逃げる(ふぅ)
→当然△1四歩と逆襲される(あちゃー)
→命からがら自陣に逃げ帰る(やれやれ)

というわけで、序盤の大きな主張点であった玉側の位を手順に取り返され、向こうだけ角を手持ちにしたままで、良いところがありません。
もし▲1六歩~▲1五歩の2手を指していなかったなら、いまごろ後手の持ち歩がこちらの1七にある計算ですからね、まったくもってひどい話ですよ。

・・・と思ったのですが、うちのソフトはこの局面を互角と判断します。意味分からん。
思うに、コンピュータもだいぶ強くなってるはずとはいえ、まだまだ形勢判断が甘いところがあるようです。

実戦はここから100手以上戦いが続き、当然ながらその過程ではいろんなことがありましたが、極端に不利な局面はそれほど多くはなかったようです。意外なことでした。
終盤はフラフラになりながらも、残していたという流れで、これはまあ予想通り。
それでもこの手が疑問だった、と結論づけた手がソフトの第一感だったりして、この将棋は判断が一致しない場面が多かったです。
形勢判断、大局観の難しさを改めて感じました。

今年度最後の対局だったので、白星で締めくくれたことは良かったです。

2/29 中川アマ戦 好局振り返り

本日、モバイル中継の「好局振り返り」のコーナーで取り上げていただいています。ぜひ、ご覧ください。

たぶん対アマ戦がこのコーナーに掲載されるのは初めてではないかと思います。
プロアマ戦でプロが勝って自慢しているようではいけませんが、自薦ではありませんので、その点はご了承を。
将棋の内容としては、なかなか面白い将棋で、取り上げられているのも納得してもらえると思います。
あとアマチュアの方の対局は主催紙等に観戦記が掲載されることが多いところ、この将棋はそうでなかったというのもあるかもしれません。

最近のブログでは通常、後日の対局振り返りは図面を入れていますがそちらで代えたいと思います。
110手目以降の端の攻防が本局の見どころで、勝負所でもあり、そこでうまく指せて抜け出すことができたという内容の一局でした。

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最終手のインタビューについて、自分も棋士になって10年以上が経ち、と思っているうちに15年以上が経ち、何をモチベーションにして指していこうかなと考えたときに、最近はそうなっているという話です。
最近はソフトの影響でプロの将棋も様変わりして、もちろんレベルも向上して、いままでにない手がたくさん出てきていますが、半面アマチュアの方を置いてけぼりにしてしまっているところはあります。
もちろん誰もそんなつもりはなく、一生懸命最善を尽くしているだけなので仕方ないのですが、結果として。

いま、タイトル戦をはじめとするトップ棋士の将棋を観戦して、それを自分の棋力向上に役立てるというのは、かなり難しくなってきています。
では昔はどうだったのかというと、微妙なところかもしれませんが、少なくとも観戦や棋譜並べは、棋力向上のための有力な勉強法と考えられてはいました。

こうした時代の変化に伴って、解説とかもやり方がどんどん難しくなってきていると感じます。
僕自身は解説を務める機会はなくても、棋譜やあるいは番組を観ていて、これはどう解説したものか難しいだろうなと、自分事として考えることはよくあります。

棋士としてやはり将棋を観てもらいたい、棋譜に注目してもらいたいという思いと、こうした状況に一石を投じたいという気持ちがあり、それをモチベーションにして自分なりに努力しています。
結果として自分の将棋を参考にしたり、マネしてみようと思ってくれる人が一人でも増えれば、自分にとって励みにもなるし、嬉しいことです。

またそうした将棋を観戦記やモバイル中継で見てもらえるように、これからも頑張っていきたいと思います。