4枚落ちの話(2)

昨日の続きです。

今日のテーマはこちらの図。

上手△4三金に代えて△3三金、△7二金に代えて△6二金

 

ぜひ、昨日の図と見比べてみていただきたいのですが、私見ではこの布陣がもっとも手ごわいのではないかと思います。
ここから同じように攻めるとどうなるでしょうか。

▲1四歩△同歩▲1二歩△7四歩▲1四銀△1三歩▲2三銀成

よそ見運転注意

 

これは△2三同金と取られて大失敗です。
だいたいの子が直前で急に気づいて▲2五銀と引き返すことになりますが、うっかり突っ込んでしまう子も意外に多い印象です。

この構えに対しては、▲2三銀成の定跡は通用しません。
そもそも2三の地点はたくさん利いていて守りやすいのに、そこに突っ込んでいくというのは将棋のセオリーに反している気がします。

ではどうするか、ですが最初の図に戻って、たとえば▲1七香△7四歩▲1八飛と雀刺しの形を作る手は有力だと思います。

これで1三の地点は下手「飛銀香」vs上手「銀桂」で「3対2」

 

次は▲1四歩△同歩▲同銀△1三歩▲同銀成△同桂▲同香成△同銀▲同飛成、と突破することができます。
符号で書くとやや長いですが、この手順がイメージできるようになることで、先に進めるようになるのでここは頑張りどころです。

もしこの局面で上手が△2四歩と来ても、構わず▲1四歩と突きます。これ重要。

平手でよく出てくる攻め筋

 

(1)△同歩は▲同銀でさっきと同じ。
(2)△2五歩▲1三歩成も、一瞬は先に銀を取られますが、しばらく進むとだいたい同じになります。考えてみましょう。

将棋の攻めの基本はあくまでも「数の攻め」です。
数が勝っていれば突破できるし、そうでなければ攻めがうまくいきません。
棒銀+雀刺しはかなり強力な攻めと言えます。

では最後に図面をもう一つ。

基本形のひとつ

 

ここから▲1四歩△同歩▲1二歩△7四歩▲1四銀△1三歩、と進めた局面を、昨日の冒頭で載せました。
つまりこの局面は有名な定跡の入り口ということになります。

上の図で紹介した▲1七香~▲1八飛の雀刺しは、この図でもかなり有力だと思うのですが、自分の経験上そう指されることはめったにありません。
それだけ▲2三銀成と捨てる定跡が有名なのでしょう。
もちろん定跡よりも▲1七香のほうが優れているということではなく、どちらでも(あるいは他の攻め方でも)正しく指せば下手が勝てると思います。
ただ定跡を覚える際にも、数の攻め、の原則もしっかり押さえておいたほうが、上達がスムーズなのではないかとは思っています。

なお上手は紹介した他にも4三金と3二玉が逆だったり、7二金の位置など多少のバリエーションはありますが、基本的な攻めの考え方に変わりはありません。

何かご質問がありましたらコメントや質問箱等でいただければお返事したいと思います。

4枚落ちの話(1)

昨日に続いて、先月の米沢での話。

4枚落ちの定跡といえば、なんといっても有名なのはこの図だと思います。

▲1四歩△同歩にいったん▲1二歩と垂らしてから▲1四銀と出る。

 

ここで定跡が教える次の一手がご存じ「▲2三銀成」、銀のタダ捨て。
以下△同銀に▲1一歩成、次は▲2一とで桂が取り返せる形。
もし△3三桂とかわしても▲1三香成。上手が歩切れなので1・2筋の突破が受からない。
これは、たしかに攻めが成功しています。

さてこの定跡、上手の陣形にはいくつかバリエーションがあるのですが、この日は主にこんな図を採用してみました。

△7四歩に代えて△3五歩。他はまったく同じ

 

さてこれがどんな違いを生むでしょうか。

図から▲2三銀成△同銀▲1一歩成に、△3四金▲2一と△2四銀

上手にとっては▲1三香成を防ぐことが重要。

 

ちょっと形が違うだけで、見慣れない受けが登場します。

さてここで下手にはいくつか良い手があります。
そのうちの一つは、たとえば▲4六桂と金取りに打つ手。
(1)△3三金と逃げてくれば、▲2五歩で銀が取れます。
(2)△2五金と逃げてくれば、▲2六歩で金が取れます。
守りの金銀を狙うのが、攻めるときの心得です。

ですがこの日の数局、なぜか全員が▲1三香成?!でした。
これは△同銀でタダです。

このまま飛車が成れないようでは攻めが失敗

 

この局面を迎えた子が、たしか3人いました。
「定跡では▲2一との次は▲1三香成だから」ついそう指してしまった子も、いたかもしれません。
そういう子は、思い込みに注意するクセをつけるのが良いでしょう。

ただ、実際はこの局面で妙手があり、▲1三香成自体は悪い手ではありません。
ここから飛車を成るにはどうしたら良いでしょうか。

銀、香に続いてと金まで捨ててしまうのが絶妙手!

 

正解は▲3一とです。これが妙手。
もし(1)△同玉なら▲2三飛成で、なんと金・銀・銀取りになります。
よって(2)△3三玉と逃げるぐらいでしょうが、▲2一飛成で成功です。

実際にこの手を発見した子もいました。
▲1三香成の時点で気づいていたのか、△同銀と取られてから気がついたのかは分かりません。
以下は順当に下手が勝ち切ったと記憶しています。

ただ、このように駒を捨ててカッコよく攻めるのが、果たして正しい指し方なのかどうか。
ちょっと長くなったので今日はここまで、明日に続きます。

棋譜取り

先月の米沢での話。

この日は6枚落ちと4枚落ちが中心だったのですが、みんな判をついたように、同じ定跡を使って来たのが印象的でした。
これはおそらく先生が一つの定跡をみっちり教え込んでいる、という点に加えて、たぶん一人ひとりが予習・復習をしっかりしているのだろうと思います。
指導対局の後ろで、順番を待っている子や、ご家族などが棋譜を入力してくれているのを見て、そう感じました。

棋譜の取り方はスマホ・タブレット等が大半でした。(紙はいまでは少数派)
いまの棋譜再生アプリ(ソフト)は駒をタッチすると動かせる場所が表示されるので、対局者が動かした通りに動かしていけば、たとえばお母さんはルールがあやふやでも、子どもの棋譜を取ってあげることが可能で便利です。
もし自力で棋譜を取っている人と付き添い(応援、友達etc.)の方がいる、というシチュエーションがあれば、ぜひ試してみていただきたいと思います。
そうするうちにお母さんもルールを覚えた、となれば理想です。

で、その日の最後のほうで、指している途中でなんと電池切れ、という事案がありました。せっかく頑張って指して、記録も取っていたのにかわいそうに。
ただたまたま指導対局が終わりの時間で、挨拶まで数分あったので、とりあえず僕が自分のスマホで棋譜を再現しました。
多少の間違いはあるかもしれませんが、プロならそこまで難しい作業ではありません。

そして棋譜を起こしてしまえば、メールやLINEでわりとすぐに共有できます。無事、その子のもとに棋譜を届けることができました。
実際にこの機能を使ったのは初めてだったのですが、便利なものだと思いました。
自分自身は「ぴよ将棋」がわりと使い勝手が良いと思うのと、初心者の方に良い練習相手にもなってくるということで、オススメしています。
もちろん他のアプリでも良いと思います。

指導対局を受ける際に、棋譜を取っておられる方は今も昔も多いですが、紙に符号を書くのはどうしても間違いが多いですし、考えるのに集中できない可能性があるので、アプリを使うのは便利で良いと思います。
あと、棋譜を取ったあとは、改めて見て反省しておくことが大事です。定跡を覚えても実戦で正しく指せるとは限らないわけで、反復こそが上達につながります。
並べ返すのは画面上で十分と思います。棋譜を残したことに満足せず、記憶が鮮明なうちに復習すること、次の機会がある直前に予習しておくこと、でかなり違ってくるはずです。

実は僕自身も、今後の指導に役立つかなという意味もあって、終わったあとに自力で棋譜を残しておくことがよくあります。
たとえば研修会指導の棋譜などはかなり残していますし、普通の指導対局でも後でつけているケースはあります。
ただ覚えていられるのは1日に5局くらいが限界なので、ごくごく一部分です。

下手の方やその観戦者の方が棋譜を残していれば、それをもとにいろんなアドバイスもできる気がするので、そういう使い方も良いなとか、最近よく考えているところです。
たとえば棋譜添削、という指導法にどの程度の需要があるか分からないのですが、1局ではなかなか難しいですが数が集まればその人の長所や短所がある程度出てくるはずなので、役に立ちそうな気がします。

今日・明日は王将戦第4局、舞台は箱根。

注目の一戦、など

昨日の王位リーグ羽生ー藤井戦は、またしても藤井七段の完勝。
これで3連勝ですか。すごいですね。
ただかつて永瀬現二冠がまだ新人の頃、やはり羽生九段に3連勝して、その後羽生棋聖に挑戦するもそのときは惜しくもタイトル獲得ならず、といったこともありました。
今後も対戦があるたびに注目を集めていくと思いますが、それがどういう舞台になるかも注目ですね。

これまで竜王・名人の二大タイトルにのみ使用されていた「前〇〇」の肩書を、今後は使わないことに決めたとのこと。
もともと形骸化していた、というのが理由で、まあ妥当でしょうね。

この肩書があるとないとでは、たとえば現在の広瀬八段のようなケースではかなり序列に違いが出るわけですが、そういうところにはこだわらない世の中になってきた、ということもあるかもしれません。
むしろ(現在は非公式の)レーティングとか、そういった肩書や序列のようなものとは別の指標が、重視されていくようになるのかなと思います。

新型ウイルス流行の影響で、人が多く集まるいろんなイベントの中止・延期・縮小などが増えてきました。
過度な自粛は経済的な影響が大きいので避けたいところと思いますが、人混みが一番危険、となるとやむを得ないでしょうか。
将棋界への影響も避けられないところで、早く流行が過ぎ去ってほしいと願うばかりです。

棋王戦第2局、とちぎ将棋まつり

改めまして、今年もご来場ありがとうございました。
盛況のうちに無事終えることができて、ホッとしました。

新型コロナウイルスの影響も心配で、実際例年よりはやや少なかったと思いますがそれでも800人ほどの来場者数だったとのこと。
せめぎ合いに将棋ファン感嘆 宇都宮で棋王戦、将棋まつりに800人(下野新聞)
夕方になるにつれてどんどん会場が暑くなっていくのはいつも通りでした。

個人的には栃木将棋界の紹介で、支部の方々にいろいろとお話いただけたこと、そして感謝状をお渡しすることができて良かったです。
これからも宇都宮を中心に、県内各地に足を運ぶつもりです。
また実行委員の方々、スタッフの皆様も大変お疲れ様でした。

対局のほうは終始挑戦者が押し気味に進め、しかしまだ先は長いかと思っていたところで突然の終局。
そのときちょうどワンポイントリリーフで解説しているところだったので、大いに狼狽えました。戦場に棒立ちとはこのことです。
そもそも91手目▲7三馬が読めてないのはひどかったですが、大盤で詰む・詰まないの変化を検討するのはけっこう骨が折れるんですよね。いやはや。

94手目△4一玉に代えて△6一同玉なら、本田五段は▲7二銀から並べ詰みと錯覚していた(実際は△5一玉と戻って詰まない)ようなので、実戦で何が起こっていたか。
勢いが勝ち運を呼び込んだ、ということもあるのかもしれません。
直前の▲6一金では▲6二同桂成で負けと思っていた、という感想もありましたがこの変化もそんなに簡単ではないですし、いろいろと不思議な終わり方でした。

その後の感想戦は控室のモニターで見ていましたが、渡辺棋王にしては珍しく同じ局面をしきりに検討していて、ああいうのは今までになかった気がします。
ともあれこの内容と結果で、第3・4局の戦型選択はいっそう注目度が高まりました。
次は3月1日、舞台は新潟です。

今日は王位リーグの羽生ー藤井戦が注目の一戦。