必至問題

昨日は棋聖戦の準決勝、斎藤ー郷田戦が白熱の終盤戦で面白かったです。
秒読みで二転三転したように見えました。
感想戦のコメントを読んで唸ったのがこの場面。

いま7八の金で6八の銀を取った場面。
リアルタイムで観戦していたのですが、たしかに△9七香成は気が付かなかった。

これだけでピンと来る人は、たぶんかなりの高段者。
解説用に、すこし図面を追加します。

△6八同金に代えて、△9七香成▲7九銀△7七角成と進めたのが下の図。

(1)▲7七同桂なら、8九の地点が空くので△8八成香▲同銀△8九金までの詰み。
(2)▲7七同金なら、8八の地点が空くので△8八銀と打って、数の攻めで詰み。
(3)8八の地点に利きを足すには▲8七飛と打って受けるしかないが、それには△8九金が好手。以下▲同玉△8八成香で、▲同銀は△7八銀、▲同飛は△9七桂で詰み。

必至問題を考えるときは、だいたいこんな順番で検証して、答えを確かめます。
必然的に、詰将棋より変化が多くのなるので、難しいのがわかると思います。

だいたいプロはこういうのを考えるのが大好きです。
たぶん例外はなく、本能的なもので、逆にそうでなければ、プロにはなっていないと言えます。
作品も好きですが、それが実戦ならなおさらで、それは実戦のほうが、なぜか「作ったような」局面になるのと、この将棋のように思いがけない手筋に出会うことがあるからだと思います。
「事実は小説より奇なり」と、古の人はうまいことを言ったものです。

この△9七香成という手は、そもそも9八に桂がいることがレアケースだし(この局面よりすこし前、▲9八桂と打って大変なのにも驚きました)、9六香+9七金(銀)という形を狙いたくなるので、気づきにくいのだと思います。

あとそもそも、必至問題であれば、△7七角成▲同銀△9七銀とやるのが、第一感の筋なんですよね。

僕もこっちの筋は観戦していて考えました。
先手玉はこれで必至。棋力を上げたい方は、本当に必至かどうか、考えてみてください。

通常なら後手玉は詰まない形、しかしこの図では▲5五角と王手されて、合駒がありません。
これが、実戦の難しいところです。

そういえば、先日NHKテキストを読んでいたら「最近、コンピュータソフトを活用してプロの将棋を採点するファンがいる」という一文が出てきて、なるほどそういうものなのかと思いました。
本局の終盤はたぶん「採点」という意味では評価値は揺れたでしょうし、特にこのように詰みや必至を逃すと、数字の上では特に大きく動くのは想像がつきます。
ただ、人間の指し手には必ず評価値以外の理由があるし、秒読みの中で間違えずに指し手を紡いでいることがむしろすごいのだということは、分かっていただけたらと思います。

先日も書いたばかりという気がしますが、今期の棋聖戦決勝トーナメントは、特に大熱戦ぞろいの印象です。
観戦記は産経新聞でどうぞ。

今日は講座風に書いてみました。

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