名人戦など

予期せぬ生放送出演の2日間が終わりました。
昨日は短い時間の中で大盤も使わせていただき、盤面を見てもらえたことは、とてもありがたく思いました。
将棋を楽しむのにいろいろな切り口があるのは当然として、やはり盤面のことも知ってもらえたらと、棋士としては思いますので。

北朝鮮のミサイル発射で、現場は緊迫した様子でした。
まったくもって、世の中で一番大切なことは平和と安全です。
将棋をもっとグローバルにして、世界平和に貢献するぐらいの気概を持たねばと思います。

それにしても、キャスターや出演者の方々は当意即妙ですね。当然とはいえ。
舞台裏にいるとそれがよく分かります。
自分もプロ棋士という肩書を持っている以上、将棋に関してはプロ意識を持つと同時に、異業種のプロの方々にはいつも、敬意を持っています。
プロの仕事ぶりを見るのは気持ちの良いものです。
こちらは素人なので緊張もしましたが、話すことは好きですし、またお声がけいただくことがあれば、しっかり務めたいと思います。

この2日間触れられなかった、名人戦の話題を。
防衛を決めた第6局は、トッププロの技術の高さがよく分かる内容だったと思いました。
ただそれは、我々同業者にとって、という意味です。
このすごさを、どう多くのファンに伝えていくか。それは将棋界の大きな課題ですね。

印象に残ったのがこの場面。

この局面、僕は佐藤名人のほうがさほど良いとは思っていなかったのですがそれは間違い。
ここからの数手で一気に形勢がハッキリしました。
(この後稲葉八段に悪手があったようには思えなかったので、実はもともと差がついていたということになる)

その端緒となったのが、この局面で△5三桂と銀取りに打った手。
角筋を止めて意外な一手ですが、ここからは流れるような手順で佐藤名人が優勢になりました。

自陣に繰り返し桂馬を打って、その桂馬がすべて跳ねるというのは、まるで詰将棋のようで、実戦ではかなり珍しいことです。
ちなみに数えてみたところ、佐藤名人の指し手56手のうち、桂を跳ねる手が3回、桂を打つ手が4回、桂で相手の駒を取る手が6回ありました。
全体の約4分の1の手が桂馬だったということになります。
中原名人もびっくりの桂使いでした。

名人戦全体を通しては、力戦というか、定跡や流行からすこし離れた形が多く、逆説的ですがそれこそがいまの流行かなと思いました。
研究の深化と定跡の整備、情報の共有によって本来的には将棋の序盤は狭苦しく、息苦しくなってくるはずなのですが、実際にいま起きていることはそれとは全く逆で、拡散化の流れが著しいという現状です。
そして、実はそれは何年か前から、予想していた未来でもありました。

今後どうなっていくかは分かりませんが、読みの深さや正確さがより重視される一方で、読みを深めるための材料を収集・分類するという意味においての情報整理能力と、もう一つは空間認識能力が大切になると考えています。
この二人や、あるいは藤井四段のような若く優秀な頭脳に対抗する方法を、自分も考えなくてはと思います。

名人戦決着の翌日から、今期の順位戦が始まりました。
この2か月は比較的対局が少ない時期だったので、これからは紹介したい将棋が多すぎて困る日々がやってきそうです。
昨日はさっそく熱戦ぞろい、200手超えが2局あったりで、観ていてああ今期も始まったんだなあと実感しました。
自分のクラス(C1)は来週火曜日です。
久々の対局になりますが、しっかり調整して臨みたいと思います。

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