羽生善治×AI

今日は本の紹介です。
出ると聞いたときから、かなり期待していたのですが期待以上の一冊でした。
「よくこれだけ書いたなあ」の一言ですね。
個の力が重んじられる、というかほとんどそれがすべての将棋界において、「右腕」的なポジションというのは聞いたことがなく、それだけに前例のない内容になっていました。

10年前に羽生さんが長岡君とVSを始めたらしい、という噂(というか事実)はその当時、すぐに将棋村を駆け巡り、あっという間に有名な話になりました。
それだけ、羽生さんの動向は注目されているという証と言えるでしょう。
僕もそうだし、多くの棋士が少なからず驚いていました。
周りがそうなのだから、長岡君本人がその「1本の電話」にどれほどの衝撃を受けたかは想像に難くありません。
ただ今にして思えば、何事もないようにそんな衝撃的な電話をかける羽生さんの姿は、なんとなく想像がつくような気もします。

本書はタイトルからしても「一人の棋士が近くで見てきた羽生さん」が主題なのだとは思いますが、読んだ感想としては、主役は著者自身のようにも思えました。
AIは、まったくの脇役でしょう。
そもそもトップ以外の棋士が、自伝的に自分のことを語る機会というのは皆無に近いはずです。(例外は瀬川さんと今泉さん)
特に前半は著者自身のことが自分の言葉で語られていて、それは僕にとっても非常に興味深いものだったし、多くの将棋ファンにとってもそうではないかと。
先の電話を受けたときのことや、その理由について推測している部分は、本書のいちばんのハイライトと思います。

逆に羽生さんに関する記述は、同じ棋士から見ると「やっぱりそうなのだな」と思わされる部分が多くなっています。
ただ、それが間近で見た棋士から語られているという点は、やはり説得力を持つし、貴重な証言と言えるでしょう。
羽生ファンの方からすれば、無冠になった今もまったく変わらず、情熱を持って将棋に取り組んでいるんだな、と改めて安心できる一冊でもあると思います。

私自身、研究会を始める前までは、羽生さんが他の棋士とは違う独自の研究方法を実践しているのではないかと考えたこともあった。しかし、いまは「特殊な研究方法を採用しているわけではない」とほぼ断言できる。羽生さんは将棋の神様で、すべての情報に通じており、何もかもお見通しであるというのは幻想で、むしろ羽生さんでも将棋に関してはいまだに分からないことだらけである―それが私の率直な印象である。

私はそのときの感想戦を通じて、羽生さんが将棋というものをいまなお「簡単には理解し得ないもの」と考えていることを改めて痛感した。より正確に言うなら、「将棋とは難しいものである」と考えなければならないと、常に自分を戒めているということである。

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