昨日も触れたプロ試験(正式には「棋士編入試験」)についてですが、いままでにも何度か書いている通り、かつて瀬川さんのプロ入りを受けて、正式に制度化することになった際に自分も委員を務めていました。
その後、今泉さんと今回の折田さん、2人の挑戦者・合格者が出たことになり、どうやら今後も数年に一人は挑戦する人が現れそうな感じです。
受験資格を得た(が受験しなかった)方も、他にこれまで2人いました。
誰も挑戦できないような試験にしてしまっては新たに制度化する意味はないので、このような経過をたどったことは、将棋界にとっても良いことだったと思います。
言うまでもなくプロ試験の合格はかなり高いハードルであり、これは「三段リーグより楽な試験だと思われてはいけない」という要請によるものですが、結果としては(まだ2分の2とはいえ)受験者はいずれも合格しており、決して高すぎるハードルでもないということも示された、と言えると思います。
制度ができた当時は、これでも三段リーグに比べたら甘すぎる、という声も内部では耳にしたこともありました。
ただ実際に過去2度の試験を見ている限りでは(あくまで自分には)そうとは思えず、合格したお二人は本当にお見事だったと思います。
折田四段はこれからフリークラス脱出が当面の目標になると思います。
これほどの実績を挙げておきながらフリークラスからのスタートというのは厳しい、という見方もあると思いますが、一方でフリークラスを抜けられない棋士を新たな制度で増やしてしまうのも将棋界にとっては考えもので、これは難しいところです。
折田四段はこれまでのyoutuberとしての役割の他に、普通の棋士としての活動があり、加えて普通の棋士ではできない役割も担う中で上を目指して戦っていくことになると思うので、人生の時間配分に気を遣いながら頑張ってほしいと思います。
今回のプロ試験では制度化当時には想定していなかったことが2つあって、一つは試験官がタイトル戦挑戦中だったこと。
本田五段の活躍は過去に例のないものであり、想定外はやむを得ないところかと思います。
また、折田さんがクラウドファンディングで受験料を募ったことも、当然ながらかつては想像もできないことでした。
結果としてこれは多くのファンの声援を集める結果にもつながり、本当に良かったと思います。
ある意味、棋士になる前から、新しい時代のプロ棋士像を示してくれたのではないでしょうか。
そして現在、次の受験資格獲得に一番近い位置にいるのは里見さんですが、(本人の意向はさておき、一般論として)女流棋士の挑戦は、想定の範囲内ではありました。
ただ他の受験者と時期が重なる可能性については、想定していなかったように記憶しています。
制度化当時はかなり議論を尽くしたことには間違いないですが、それでも想定外のことはいろいろと起きているなというのが現在の実感です。
ただそうではあっても、将棋界が当時と比較してより開かれた世界になり、その結果として良い方向に注目を集めていると思うので、まずまず良い制度になっていると言えるのではないかと思います。