危機感

今日は順位戦の対局ですが、予約投稿します。

昨日に続いてまたテレビの話。
先日のNHKスペシャルを観て、以前から持っていた危機感を思い出しました。
AI(人工知能、コンピュータソフト)のことです。

僕はこんなことを書いているぐらいなので、AIが強くなるとか、AIに人間が負けるとか、そういうことにはあんまり危機感はありません。
ただ、AIによる「評価値」とかそのグラフとかが、あたかも「正しいもの」であるかのように取り上げられることには、強い違和感と、危機感があります。
それは、「一見正しそうで、かつ実際に近似的だけど、本質的には正しくないもの」だと僕は考えているからです。
そうきちんと理解した上での見方ならば、一面では有意義とも思うのですが、そうと知らずに、ただ真に受けてしまうのはどうかな、と思うのです。

「(現在の)ソフトと近い手が指せる」ことと、「良い手が指せる」ことは、(現在の)人間にはあたかも似て見えるかもしれませんが、本質的な意味で、決してそうではない。ということを、この機会に、知っておいてほしいと思いました。
(※ついでに言うと、「良い手が指せる」ことと「将棋が強い」ことも、似て非なることだと思いますが、それはまた別の話)

なぜ評価値が「本質的には正しくない」のか。
すごくざっくりひとことで言うと、将棋のあらゆる局面の評価値は、+1、-1、0の3通りしか存在し得ないからです。
(数字は9999でも1億でも何でもよい。要するに勝ちか、負けか、引き分け)
+300か、500か、1000かというのはあまりに本質からかけ離れていて、そもそも本来は数字の大小で表されるべきものではないのです。

しかしそうは言っても、とかそれはおかしいのでは、という疑問・反論・深堀りetc.もいろいろ予想できるので、このテーマについてもっと詳しく書きたいと前々から思っているのですが、どうにもうまく思考を形にできないでいます。

ただ、たまたまつい最近番組を観て、しかも今日の相手がちょうど千田君だったので、少しだけでもと思って、家を出てくる前に書いてきました。
ちなみに千田君はいろんなことを理解した上で、うまくソフトを使いこなしていると思います。
先駆者として、本当にたいしたものだと感心しています。

あと補足ですが、番組自体はとても良い内容でした。
番組への批判と誤解されてはいけないので、一言添えておきます。

 

何はともあれ、今日も一生懸命頑張ります。

12件のコメント

  1. 機械に人間が負けるというという図式は意味が無いと思います。
    ウサイン・ボルトがバイクに負けても何とも思いませんし
    人間対機械というのは本来成立しない設定です。
    プロ棋士がソフトに負けたから人間が劣っているわけではないので・・
    疲れないし間違えないから機械であって囲碁や将棋だけが「人間を越えた!」
    と声高に叫ぶのは違和感を覚えます。
    疲れるし間違えるという人間同士の戦いにこそドラマがあるので片上先生のご意見には全面同意です。

    1. >こうめいさん
      コメントありがとうございます。
      僕の書いた趣旨とはやや離れるのですが、お書きいただいたことは、基本的には同じ意見です。

  2. 言いたいことはとてもよくわかります。
    また、これを言語化する難しさもよくわかります。
    さらにまた、仮にブログなどを使って言語化できたとしても、それをテレビ出演の機会に短い時間で誤解少なく伝えることは、正直無理だとも思います(笑)。

    しかし、応援したいと思います。

  3. このような提言は、プロ棋士の方がされると絶対に揶揄する人が出てくるだろうとは思いますが、やはりどなたかがしないといけないコメントであると思います。
    先の電王戦で、ブログかYahoo!コメントか忘れましたが、

    ソフトに指し手を入力しながら観戦していたが、Ponanzaと佐藤叡王の評価値の差が歴然としていた。大人と子供くらいの差があった。プロ棋士のレベルの低さに絶望した。

    という趣旨のコメントがあって、強い違和感を覚えました。
    「大人と子供くらいの差」と、自分自身の大局観で言うのならまだ頷けますが、自分ではまったく理解の及んでいないコンピューターの数値を盾にとってそこまで言うかと。
    正直言って、「そういうあなたも人間じゃないの?」「まさか自分がコンピューターの側に立ってると勘違いしてる?」と思いました。
    しかしながら、今日のプロ棋士はこのような心無い声とも戦わないといけない立場に置かれているのは事実だろうなと思っています。
    自分はまだ、うまく文章でまとめ切れないのですが、この辺りについて一定の妥当な見解が共有されることを願います。

    1. >1九の香車 さん
      プロはある意味、将棋に関しては何を言われようと受け止めないといけないし、その覚悟もある(べき)ものだとも思います。
      だからそういう言葉を投げられることは、別に自由だと思うのですが、ただ、それは正しい理解ではないですよと。
      ようするに「評価値」は、「現在の、そのソフトの」数値であって、将来的には必ず変わるものだということが言いたいのですが、なかなか表現が難しいです。

  4. 念のための補足ですが、片上先生はゲーム理論や棋士の勝負術、最善手の意味などを正しく理解された上でのお考えをお持ちだと拝察しています。これは、人間同士の対局の意味だとか、そういう感情論とは別の科学的な理解だと思っています。

    コンピュータ評価値が+1,0,-1の3通りになったときに初めて、コンピュータの評価が純粋かつ数学的な勝敗という意味では絶対視されてもよいのかもしれませんが、その未来はまだまだ先のことでしょう。

    その未来が来ないうちは、「評価値を1000下げる手」が本当に悪手と言えるのかどうか。現局面の評価値が-500の不利状況だとして、1億通りの分岐先のうち、相手のミスが出にくい当然の一手を続けて-500の水準を維持する手順でもコンピュータは最善手と評価しますが、多くの有力な手順の先が評価値を+500前後にまで向上させるいっぽうで、唯一正しく応対された場合の手順が-1500という勝負手(コンピュータは-1500の手順しか想定しない)のほうが、秒読みの対局では「正しい」という見方もできます。藤井澤田戦の必至とされた局面からの手順はまさにこれなのでしょう。

    まして、コンピュータにとっての-1500という局面でさえ、「-1」とまでは断定できていない以上、「負ける分岐がたくさん出現しそう」という可能性に過ぎず、10年後のスーパーポナンザには「+1」と宣言されてしまうかもしれないのです。

    1. >匿名 さん
      そうですね。かなり正しく理解していただいている気がします。
      もちろん、この内容をテレビで伝えるということは、不可能ですし、そのつもりもありません(笑)

  5. AIの指し手が全て「正しいもの」とするのには確かに違和感があります。
    「一見正しそうで、かつ実際に近似的だけど、本質的には正しくないもの」
    なのも、主旨としてはその通りだと思います。

    しかし、
    「AIによる「評価値」とかそのグラフとかが、あたかも「正しいもの」であるかのように取り上げられること」
    は果たして悪いことなのでしょうか。
    そもそも将棋ファンは、AIの評価値による形勢判断の仕方が普及する前は、プロ棋士の形勢判断を参考にしてきたわけです。
    もちろんそれは必ずしも「正しいもの」ではありません。間違っている事もあります。
    歴史上に残る妙手は、控室の形勢判断を対局者の読みが上回った事から放たれた指し手ですし。
    C2四段の棋士よりA級八段の棋士の方が形勢判断がより確からしいですが、
    AIが強くなった今はA級八段の形勢判断よりAIの評価値の方がより確からしいと思うファンが増えたという話なのではないでしょうか。
    将棋の観戦記の歴史は特に戦前において、関根名人や木村名人の解説のように、トッププロが棋譜に解説をつける形で発展してきました。
    今改めて観戦記を読むと、関根名人の講評が間違っている事もあります。
    ですが、その時点ではその講評がもっとも確からしかったはずですし、将棋ファンはそれを正しいものとして受け入れてきました。
    その役割が今、プロ棋士ではなくAIの評価値に置き換わったと見るファンが(特に観る将と言われる層に)増えてきたという話なのです。

    「将棋のあらゆる局面の評価値は、+1、-1、0の3通りしか存在し得ないから」「本質的には正しくない」
    という発言は疑問です。
    「穴熊だから実戦的に勝ちやすい」「イメージ勝率は○%」という言葉を数字に差し替えているだけの話ではないでしょうか。
    将棋の解説では、中盤の難所でも「この局面は勝ち(もしくは負け・引き分け)」でしか語ってはいけないのでしょうか。
    それとも、コンピュータ囲碁のように「評価値」ではなく「勝率」を用いればいいのでしょうか。
    人間は解説で「優勢」「勝勢」「勝ち」を使っていいけれども、コンピュータは「勝ち」しか表してはいけないというのは暴論だと思います。

    コンピュータの評価値や指し手を基に間違い探しをしているような人には違和感がありますが、
    一般的な将棋ファンがコンピュータの評価値をより正しいものと捉えて将棋の観戦をするのは、間違っていないと思います。

    1. >エイピイ さん
      >マックイーン さん

      「形勢判断」という言葉は一つのキーワードだと思うので、まとめてお返事します。
      実は、「優勢」「勝勢」などの言葉は「主観である、あいまいである」がゆえに正しい。(少なくとも間違いではない)
      逆に「客観的な数値である」がゆえに「本質的には正しくない」ということが、ここで起こっています。

      もちろん実際には数字のほうがより正確で、より有用です。だから
      >一般的な将棋ファンがコンピュータの評価値をより正しいものと捉えて将棋の観戦をするのは、間違っていないと思います。
      というのはもちろん僕もその通りだと思いますし、評価値の有用性を否定するつもりはありません。

      しかし、その数値は「現在の、そのソフトの」主観であって、正しいものでは「絶対に」ないのです。
      >「参考値」である
      というのは、シンプルな表現で、まさにその通りだと思います。
      その数値は、将来的にはより正しい情報に置き換わるはずのものなのです。
      そのことを「本質的には正しくない」と僕は表現しました。

      1. 改めて書かれるという事なのでそれを待ちたいと思っていますが、いくつか書いておきます。

        >一般的な将棋ファンがコンピュータの評価値をより正しいものと捉えて将棋の観戦をするのは、間違っていないと思います。
        というのはもちろん僕もその通りだと思いますし、評価値の有用性を否定するつもりはありません。

        という事でしたら、何に対して強い違和感と、危機感があるのでしょうか。
        ここが明確でないので、理屈を話しているだけで具体性のない話になっています。

        それと、数字は客観的で言葉は主観的というのは疑問です。
        AIの評価値は、言葉を話せないAIが主観的に出した形勢判断の数値であるからです。
        一見客観的に見えますし、それを誤解されたら困るという事も分かりますが、主観的なのか客観的なのかは、言葉や数字で区別するものではありません。
        将棋はそもそも「この指し手で良い」と考える主観的な評価のぶつかり合いであるので、マックイーンさんの仰る通り、「正しい」「正しくない」という議論自体に意味がないです。
        終盤の詰む詰まないを除いて、現時点で将棋に客観的な評価は存在しえないのですから。
        AIの評価を客観的な評価だと思われてしまう事危惧されてるかもしれませんが、そう考える人は現時点ではごく少数にすぎないのではないでしょうか(いるという事であれば、具体例を上げていただかないと話が進まないと思います。)。

        1. ・数字の大小に意味があるかのように見える
          ・その数字がその局面の「答え」であるかのように見える
          このあたりがいちばん、そうではない、と分かってほしい部分かなと思います。

  6.  +1,0.-1理論を出したことで、先生の言わんとしていることがうまく伝わらなかったように思えます。
     私も評価値が「本質的に正しくない」というのは賛成です。
     一方で、エイピイさんが仰るように、形勢判断として「正しい」ことは否定できないと思います。

     スポーツと違い、将棋は点数がありません。その形勢を数値化したものが評価値であるわけです。

     野球でもサッカーでも、絶望的な状況下からの逆転は稀にあります。その逆転劇の前に、評価値-10000となっていたらそれは仕方のないことなのではないでしょうか。

     確かに、こっちが有利、いい試合、こっちが不利の3つしかないのは事実ですが、ファンは「どれくらい有利(不利)なの?」と知りたいわけです。スポーツではそれが点数で分かりますし、控えの選手などを見ると想像つきます(でも奇跡は起こりますが)
     「どれくらい」の部分が評価値なのだと思います。

     だから、評価値はAIという解説者が言葉ではなく数字で示した形勢判断に過ぎない、というべきだと思います。
     「正しい」「正しくない」という議論自体に意味がないと考えます。
     「参考値」である、あるいはAI解説者の形勢判断であるにすぎないと思います。

     ですから、評価値を大きく逆転したケースなどを色々提示されれば、評価値はあくまでも現時点での形勢判断である、と立証できると考えます。
     評価値を信じる方にご不満であれば、それを普及啓発されるべきかと思います。

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