女流棋士

昨日はこんなニュースがありました。
加藤桃子奨励会初段が4月より女流三段に

自分でそうと決める、ということには大変な決断を要しただろうと想像します。
努力しているのに結果が出ないもどかしさだとか、他にもさまざまな葛藤があったことでしょう。

まったく個人的な話なんですが以前(僕のほうがだいぶ先輩であるにも関わらず)、彼女に勇気づけてもらう出来事があって、以来、ひっそりと応援していました。
今後は里見さんのライバルになって、女流棋界のさらなるレベルアップに貢献できるよう、頑張ってもらいたいです。

昇段規定を調べたところ、通常の女流棋士であればタイトル7期で女流五段なので、今回のリスタート位置はあくまで例外措置ということのようですね。
現行の規定では、「女流棋士」になる前にタイトルをたくさん取ることは想定外なので、たぶん常務会での議論を経てこのように決まったのだと思われます。
棋戦数も以前より増えているはずで、現行規定がいまも妥当なのかどうかという問題もあるし、他にも正会員資格のこととか、難しい判断だったと想像しています。

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ここからちょっと話はそれるんですが、たまたま昨日読み終えたある本に、こんな一節がありました。
(※この部分は主題ではないので、この本については今度改めて紹介します)

将棋の世界におけるアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)のひとつとして、女流棋士という制度があるんですけど、それが本当にアファーマティブになっているかというのは議論が分かれるところですね。男性ではプロになれないレベルの実力でも、女流棋士として認定されてしまう。早いうちから女性への普及に役に立ってもらえるという利点があり、将棋の普及には、現状、非常に有益な制度だと思うんです。でも、どうしても女流棋士に若いうちから普及の仕事を多く振るので、同程度の実力を持つ男性よりも負担が大きくなり、そのぶん将棋にかける時間はおそらく減ってしまうわけです。男女が同じような実力を身につけるという目的では、アファーマティブ・アクションとして正しいのかはわからない。

この文章において、女流棋士という制度は「普及には」非常に有益、と述べられており、つまり女性「棋士」の誕生という目的のためには逆効果になってしまっている、という含意があります。 (あくまで僕の解釈ですが)
一方で、そもそも「女流棋士」という制度があるからこそ、多くの将棋が好きな女性たちに活躍の場が与えられており、そのおかげでその立場を目指す少女がたくさん増えるという側面もあります。

またここに述べられている「負担」を回避するためには、女流棋士として認定されるよりも、奨励会に(のみ)所属して将棋の修行に打ち込んだほうが(強くなるためには)良い。ただしタイトルを取ると(責任ある立場になり)そうとばかりは言っていられない。という現状があります。
里見さんや加藤さんのような立場の大変さ、難しさ、厳しさは、棋士である自分から見ても、なかなか分からないところがあります。

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以上はあくまで自分の現状認識で、だからどうすべきだ、という答えはないのですが、長い目で見て、
女流タイトルを争うレベル≧棋士になれるレベル
となれば自然と解決する問題だし、また、それ以外に解決は難しいかもしれません。

ただ、そういう認識を持ったうえで、今後のこの世界をどうしていくかは女流棋士自身が決めていくべきだし、そういう方向に進んでほしい。というのは一貫して思っていることです。

ちょっと話が拡散して長くなってしまいましたが、ひとまずこのへんで。

2件のコメント

  1. 片上先生こんにちは。加藤さんが女流三段スタートと言うのは正直腑に落ちない点もあったのですが、含蓄深いご解説、有難うございます。

    私は加藤結李愛・女流2級が小学生の頃から見知っているのですが、小学校低学年から、宮城県の将棋関係者が全員知っている「天才少女」でした。加藤結李愛さんは高校1年生で女流2級になり、現在は最年少女流棋士ですが、正直、彼女は奨励会では通用しないでしょう。「あの結李愛ちゃんでも通用しない(だろう)奨励会とはどれほど恐ろしい所か」と実感しております。

    その意味で、里見さん・西山さん・加藤さん・伊藤さんといった突き抜けたレベルの女性はともかく、「将棋が大好きで、小さい頃から将棋に打ち込んできた女性が、将棋を職業にできる女流棋士制度」は、少なくとも現在においては「正しいアファーマティブ・アクション」ではないかなあ・・・と思います。清水市代先生が数年前に仰ったと記憶しますが、この10年ほどでの女流棋士の経済的地位・社会的地位の向上は目覚ましい訳ですし。

    長文失礼いたしました。今後も、片上先生のシャープな文章を楽しみにしております。

    1. コメントありがとうございます。

      加藤結李愛さんは、数年前に一度24で行われている対抗戦で、解説を務めたことがありました。
      地元の皆さんの応援はさぞ大きいことでしょう。今後の活躍を期待しています。

      ところでこのところ新女流は、加藤さんが続きますね。珍しい偶然です。

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