5/16 石井五段戦

3か月ほど前の将棋になります。
直前の竜王戦では難しい将棋を負けてしまっていたのですが、この将棋はうまく指すことができて満足の一局でした。

本局は先手番で中飛車を採用。
最近はプロ棋界全体で2手目は△8四歩が多くなっている印象で、このところ▲7六歩△8四歩▲5六歩という出だしをよく指している気がします。

その後、後手番超速からの銀対抗、というよくある戦型に。
30手目の局面は、先日の王位戦第3局と同じでした。
今後も指される形かもしれません。
5筋交換後に駒組みが進むので、独特の緊張感があります。

この将棋は、序盤をうまく指すことができました。
居飛車から仕掛けられた局面では、相手の陣形がまだ整っていないので、形勢をリードするチャンスが来ています。

熟考36分、ここで▲5二歩と垂らしました。
相手を動かして技をかける、振り飛車らしい発想でなかなかの手だったように思います。

中央の銀は、△6六銀▲同歩△同角と来てもそこで▲7七角とぶつけてさばけば良いという感覚です。
他には自然な▲7五歩や、▲9六歩・▲9八香なども有力で迷いましたが、もし▲5二歩が残ればほぼ確実にと金になるので価値の高い一手です。
▲5五同銀△同角と進めるのは一手もったいないし、6七の歩は消えて良い駒、という感覚は参考になるのではと思います。

実戦は以下、△5二同金▲7五歩△8八歩▲7四歩△8九歩成▲7六飛△6四桂▲7七飛△8六飛にいったん▲7五飛!が好手で優勢になりました。
先に駒損しても飛車をさばき、玉形の差を生かして攻め合いで勝つ。
というのは古来よりある振り飛車vs急戦の将棋の極意です。

さばけるか、押さえ込まれるかというのは常に紙一重なものですが、この将棋はうまくさばくことができました。

 

七段初勝利

昨日の対局は、先手番で中飛車を採用、序盤から馬を作られる将棋に。
ちょっと作りは良くなかったのかもしれません。
ただ振り飛車を多く指すようになってから、こういう指し方もあるのかな、と思えることが増えてきて、視野が広がってきた気もします。

形勢としてはやや苦しめの時間帯が長かったですが、一方でずっと難しいとも感じていました。
特に最終盤は本当に難解で、強敵相手にそこを競り勝てたのは大いに自信になりました。
モバイル中継もあったので、まだの方にはぜひご覧いただきたいと思います。

棋王戦本戦は3度目の挑戦で初勝利、また、七段昇段後ちょうど一カ月が経ち、ようやく初勝利を挙げることができました。
ここ2戦とは別人のような内容でした。
安定感がないのは課題ですが、良い将棋が指せて、勝てたことは素直に嬉しいです。

また、本戦なので観戦記がついており、地元紙の中国新聞にもおそらく掲載してもらえるものと思います。
それが何より嬉しいことです。
これをモチベーションにして、次も頑張ります。

 

今日は夕方から帰省予定、明日は毎年恒例の村山聖杯怪童戦です。
昇段が間に合い、直前に大きな白星で、今年は良い夏になりました。

しばらく東京を離れるので、明日から数日間は公式戦の振り返りを予約投稿で入れておきます。

では今日はこのあたりで。

王将戦、竜王戦

昨日は王将戦で羽生ー佐藤のゴールデンカードがあり、意表の相振り!で面白い将棋でした。

いまから15年ぐらい前、僕が三段でよく記録を取っていた頃、トップ棋士同士のカードで相振りになることはけっこうありました。
おそらく過去の将棋の歴史の中で、相振りが最もよく指された時期だったのではないかと思います。
今年はじめの王将戦では豊島挑戦者の連採もありましたし、非定跡形特有の見どころがあると思うので、また多く見られるようにならないかなと個人的には思っています。

昨日の将棋は、序盤は佐藤会長らしい感じで先手ペースかなと思って見ていましたが、いつものことながら羽生竜王は強かったですね。

ところで王将戦二次予選の表を見ると、1ブロックの逆山は深浦ー広瀬戦で、勝ったほうがリーグ入りを懸けて羽生竜王と対戦。これって竜王戦と同じ構図ですね。

また2ブロックは中村太ー斎藤戦の勝者がリーグ入り。
これは王座戦五番勝負と同じカードです。
王将戦はタイトルホルダーのシードが厚い棋戦とはいえ、偶然というのは時に重なるものなのですね。

 

竜王戦関連で、こんな記事が出ていました。
竜王戦 福知山市、初の取組み

クラウドファンディング、という言葉が聞かれるようになってしばらく経ちますが、将棋界ではあまり例がないでしょうか。
現地に行かれる予定の方も、そうでない方も、ひとつよろしくお願いします。
なお、第4局とのことなので開催は確定しています。

ところで、福知山城って明智光秀がゆかりなんですか。知りませんでした。
西日本出身ながら北部はまだ行ったことのない土地が多く、いずれ訪れてみたい場所のひとつです。

ちなみに週明けは、(予告通り?)倉敷・岡山に立ち寄ろうと思っています。
その話はまた後日、対局や仕事が終わってから。

棋士のコスパ

日曜日のエントリにも関連して。
ちょうど奨励会試験の季節でもあるので、紹介しておこうと思いました。

「棋士を目指す」のがどういうことなのか、どういう苦労があるのか、自分が奨励会に入った25年ほど前に比べて、世の中にある程度情報が行き渡っているというのは大きな違いだと思う。
ただ、当然ながら本当のことは、経験してみないと分からないし、一人ひとり違った経験を持っている。
そういう意味では、意義深い一冊と思う。

ただ、僕自身は

奨励会に入る前にこれらの「棋士という職業のコストパフォーマンス」を知っておくべきだった(p23)

とは全然思わない。
むしろ知らないで済むならそのほうが本当は良いのではないか、と思ったのが、このエントリを書くちょっとしたきっかけになった。

そもそもプロの世界というものは、よほどその世界が好きで、あるいはその世界にどうしても入りたくて、志すものであって、いろいろな道をつぶさに比較検討した末の合理的な判断で入るものではない気がするので。

またおよそ自分の知っている範囲では、「プロ」と呼ばれる・認識されている職業を目指すコスパは、ほとんどの場合、良いとは言えない。
(例外は医者ぐらいだろうか)
身も蓋もないことを言えば、もっともコスパの良い競争は結局のところ大学受験であり、その後金銭的な成功を得たいと思うならば、プロ経営者か、いまならプロトレーダーを目指すのが正解だろう。
さらに言うと、綿密に下調べしてその世界に飛び込んだとして、10年後に社会がどうなっているか、分かるわけもないので。
「消える職業云々」と取りざたされている昨今、自分の考えでは、10~20年後ぐらいには「職業」という概念自体がかなり変容していると思う。

自分自身は棋士になれてしばらくしてからようやく、棋士を目指さなかったらどうだったかと考えるようになった気がする。
選んだ道にたまたま迷いがなかったのは、幸せなことだった。
あまり知識が多すぎると、かえってブレーキを踏むきっかけになってしまう。
今の子どもたちは情報が多すぎて、モノを知りすぎている。
たとえば「あの子は強い」と戦う前から知っていたりする。それで尻込みしてしてしまうのは、ちょっともったいない。

基本的には将棋の強い子どもというのは、井の中の蛙であるべきだと思っている。
もちろん、それで天狗になっていてはいけない。さらに強い相手を探して、出会って、そうしたらその上に行くにはどうしたら良いかと考えること。その繰り返しで人は成長する。

僕の場合、プロ棋士になったら、将棋を指して、メシが食えるらしい。というのは、子どもながらに、なかなか強烈な動機だった。
逆に言えば、その程度の認識だった。
たぶん、大半の棋士がそうなのではないだろうか。
当たり前だが、「メシが食える」というのが、どういうことなのか子どもに分かるはずもない。
それで良いのではないだろうか。

もちろん、奨励会というところは、本当に大変である。
入ったら、みんな、死ぬ気で頑張ってもらいたい。
大切なことも書いてあったので、以下に引用しておく。

何よりも大切なのは習慣だ。
毎日盤に向かい、一定時間以上、息をするように将棋の勉強をする。

奨励会に入れば、全て自分で考え、自分で決めて勉強をしていかなければならなくなる。その時に大切になってくるのは、習慣であり、自分で考えて勉強を続ける力だ。

ところでちょっと本書の内容からはそれるが、
・習慣を意識せずとも自然にできるのが才能、習慣を意図的に作り出すのが努力。
・少ない習慣で成果を出せるのが才能、大量の習慣に縛り付けることでなんとか成果を出すのが努力。
・そしてその違いを意識しない鈍感力もまた、ひとつの才能。
なのではないかと、最近思っている。

将棋がブームになるということは、競争がさらに激化するということでもあるので、これからの奨励会員はますます大変だと思う。
ただ将棋の世界というのはとにかく、努力が報われやすい世界でもあるので、どうか悔いのないように頑張ってほしいと願います。