超越の棋士 羽生善治との対話

著者の高川さんとは自分も以前に一度、ゆっくり話をさせていただいたことがあります。
刊行されてわりとすぐに献本いただいたのですが(どうもありがとうございました)、先月の終わりぐらいにようやく読み終わりました。
今年はさまざまな将棋系の出版がありましたが本書と「師弟」は双璧でしょうね。
読み応えがありすぎました。

始まってわりとすぐ「おそらく、10年後くらいの人たちが一番ソフトの恩恵を受けて、うまく使えるようになると思います。だから、いまの人たちは実験台なんです」と印象深いフレーズが出てきます。
こういう本質を突くような短い言葉が、羽生さんの対談本における特徴の一つだと思います。

「以前よりも難易度の高い局面を迎えることが増えている」というフレーズも印象に残りました。
これは年齢的なことを問われたときのやり取りなんですが、フラットな気持ちで、しかし向上心を持ち続けている羽生さんの長所をよく表していると感じます。

最近自分がなるほどと思っていつも心に留めているのはこれですね。
「自分が思いついたものは、他の誰かも思いついているものなんです。これは経験則として、ほぼ間違いない」
20年前の将棋界に実際にそうだったかはさておき、いまの時代の特徴をよくとらえていると思います。

また冒頭では、将棋界は規制のない世界だから(たとえばここではドローンを飛ばしてはいけない、みたいなことがない)際限なく進化のスピードが速くなっていて止められない、というようなことも述べています。
技術革新に対する信頼と、そういう外的な環境の変化を決して理由にはしないという意思を感じます。

著者が「将棋を指す意味」という根源的な問いを繰り返し、都度禅問答のようなやり取りが行われる部分は本書の見どころというか、テーマの一つになっています。
ただ、そこから印象に残るようなフレーズを引き出すことは、難しかったのでしょう。そりゃそうだろうなと思います。
でも、明日もしタイトル100期という偉業が達成されたら、この人はまた同じ質問をしに行くんだろうな、という期待感もあります。

棋士としていま一番心配しているのは「画一化」の懸念で、これについても羽生さんは実に本質をとらえたことを述べています。
すなわち、
「AIが6:4でこちらが良さそう、と示すと、人間は6:4に割れるのではなくて、9:1とか極端な分かれ方をする。この傾向が続くと多様性が失われる」
というものです。

これはあくまで将棋の話なんですが、どちらかというとそれ以外の物事を想像してしまいました。
このようなことは、けっこういろんな分野で起きているような気がします。

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竜王戦は第4局まで純然たる角換わりシリーズで、他の対局でも羽生竜王はこの半年ほど、明らかに角換わりの採用率が突出していました。
オールラウンドプレイヤーで知られる羽生さんがここまで一つの戦法を続けたことは、この10年ぐらいでは記憶にありません。

しかし番勝負がいよいよ佳境に入ったこないだの第5局では矢倉、そして今日からの第6局では横歩取りを持ってきました。
これは多様性の重視ではなく勝負を考えての選択と思いますが、この1局がきっかけで新たな流行が作られることは、あるかもしれません。

今日明日は大いに注目したいと思います。

退会

昨夜の竹俣紅さんのお知らせにはびっくりしました。
ひとことで言えば、いろんな生き方があるものですね。となりますが、さすがにいろいろと複雑な気持ちも湧いてきます。

個人的にテレビをよく見るようになった時期と、彼女が芸能界で活躍するようになった時期がたまたま重なっていて、おまけに彼女は僕が見る番組によく出演しているので活躍はよく目にしていて、頭の良い人だなあといつも思っていました。
二十歳そこそこで、重い決断をする気持ちは、正直なところ自分にはよく分かりません。

対局をしない立場になることを将棋界的には「引退」と表現し(自主的なものと年齢・成績によるものとがある)、「退会」とは区別しています。
加藤先生や桐谷先生はよくテレビで「元棋士」と呼ばれていることがありますが、将棋界的にはいまも「棋士」で、たとえばプロとして解説や指導対局をなさることもあります。
いっぽう、彼女の場合は名実ともに「元女流棋士」という肩書になります。
(使うかどうかは分かりませんが)
ちなみに「卒業」という言葉はありません。強いて挙げるなら奨励会を抜けるときには、使うことがあります。

将棋界の歴史では棋士の退会はほとんど例がない一方で、女流棋士の退会はけっこう例がたくさんあります。
それは女流棋士の現状に問題があるから、と一概には言えません。
ただ個人的には、女流棋士のことは女流棋士たち自身で決めるべきで、そうなっていない現状は変えていくべきという考えを以前からずっと持っていて、若い頃にはそうした発信も積極的に行っていたことを思い出しました。

もうすこしいろいろ書きたいことはあるのですがうまく書けそうにないので、ひとまずこのあたりで。

今週末はこちらのイベントに参加させていただくことになりました。
クリスマスフェスタ2018
申し込みが予定よりものすごく多かったそうで、指導対局をすこし増やすことになったみたいです。
なんだかハズレクジみたいで申し訳ないですが、プレゼント大盤振る舞いしますので(?)お許しを。

東京は急に寒くなってびっくりしました。
いよいよ冬本番ですね。皆さまご自愛ください。

将棋世界

昨日、あんなふうに書きましたのでその流れで今日は将棋世界の話題を。
早いものでもう新年号(1月号)なのですね。新春特別座談会がまぶしい。

今月とても目を引いたのが「強者の視点」(深浦九段)のこんな記事です。
ちょっと長く引用します。

 現代は将棋ソフトやインターネットなど情報を得る場が多く、特に将棋ソフトは強者です。答えが出せる局面も多く、それをあまり抵抗なく吸収しているのだと思います。例えば子どもが『青信号で渡りなさい』と親から教えられたら素直に従うように、ソフトが示す手を何の抵抗もなく、素直に取り入れている。

 自分を含め羽生世代は、定跡はまず疑ってかかることから始めました。一から考えるという作業です。ところがいまはソフトが答えを出す。正解に近いものがそこにある。真逆のことをやっています。

自分にとって、将棋の勉強とは「調べること」とか「覚えること」ではなくて、「考えること」でした。
その延長線上に「実戦」もあるわけです。
何が正解か分からない局面を前に、考える訓練をするのが勉強。
そして実戦というさらに何の助けも得られない場で、それこそ必死で考えるからこそ強くなる。
これが大前提でした。

 約30年前、将棋会館の控室ではA級順位戦を羽生、森内、佐藤康、先崎等の若手の面々が継ぎ盤を囲んで検討する風景が見られました。ところが終盤の難所で沈黙が訪れる。10名近くいるが、間違ったことを言うとすぐ反論される。軽く「これはどうですか」と言うと、「それはこうこうこうでダメなんだよ」と返される。そうなるとだんだん口を出せなくなる。そういう時代だった。

たしかにそういう光景はあまり見られなくなりました。
ただ、考えても考えても答えが出ないよりは、考えたことの良し悪しがある程度分かるほうが、同じ考えるにしても効率が良いということは言えます。
つまり自分で真剣に考えることと、フィードバックを得て反省することの、バランスが良いタイプが伸びるというのが現環境下で起きていることなのでしょう。

またいままでは将棋に特に必要なものは思考体力だと言われてきましたが、(相対的に)記憶力の重要性が年々増しているのが最近の流れだと思います。
そうした環境の変化にどう適応するか、というのは覚えることの苦手な自分にとってはものすごく大きな課題です。
もっとも自分の場合は、いまさら短所を大幅に改善することは難しいので、考えるべきは自分の強い部分がどう生きるようにするか、ということかなと思います。

関連しているのか偶然なのかは分かりませんが、「イメージと読みの将棋観」の「図巧・無双を全部解けばプロになれるかどうか」は興味深いテーマでした。
ただ正面から答えていない回答もあったような。yesかNoかは全員からはっきり聞き出してほしかったです。

自分は、それはもう間違いなくなれると思うんですが、増田六段がきっぱり真逆のことを答えていて興味深く思いました。
藤井七段も、比較的慎重な答えだったような気がします。

難解な長手数の詰将棋を解くのは、いまや効率の良い勉強法でないのは間違いのない事実でしょう。
突き詰めていくと、プロになろうと思ったらとてもそんな暇はない(毎日何時間も定跡を覚える訓練をしないとプロにはなれない)みたいな世の中になる可能性も、あるかもしれません?
あまり、考えたくない未来ですが、もしそうなったときにはプロ棋士の実力もいま以上に大幅にアップしている可能性が高いので、それはそれで仕方ないことかもしれません。

近刊の紹介とか

すこし前に、
こどもをぐんぐん伸ばす「将棋思考」

という本を紹介したのですが、実は献本いただきました。
どうもありがとうございました。

その時、近々また新刊が出ます、という話をうかがっていて楽しみにしていたのですが昨日、その本に関するエントリを見つけました。

角の利きは3万回確認! 将棋ファン発の格言(?)が書籍に掲載

角の利きはたしかによくよく確認したほうが良いです。
僕も初心者の方にはそうアドバイスしています。

このブログは以前にもご紹介したことがあったと思いますが、いつも独自の切り口で面白いです。

最近は明らかに将棋系の出版ブームですね。
特に読み物系とか入門系が多くて、アマチュアの将棋ファンの方が関わっているものも多い印象です。

自分も入門書の監修で声をかけていただいたのは以前にも何度か書いた通りです。
こういうのを見ると、世の中の目が将棋に向いているんだなというのを実感します。

ただ最近、本を書いていると(いま書いているのは技術書ですが)他の方の本を読む時間が十分取れないというのはちょっとした悩みです。
それでもなるべく合間に読むようにはしていて、良い本も本当に多いので、今後もなるべく紹介できたらなと思っているところです。

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昨日の朝日杯、佐藤会長の剛腕はすごかったですね。
会長職と、あの将棋の両立は驚嘆の一言に尽きます。
最近はいままでになかったような将棋がたくさん出てきていますが、その中でもやはり佐藤先生の将棋は別格という気がします。

ブログのアップデートをしたら、投稿画面がいままでとガラリと変わってしまい、ちょっと戸惑っています。
慣れるまですこし時間がかかりそうです。

ひとまず今日はこのあたりで。

ここ数日

昨日の中継では、来期の竜王戦開幕局が指されていました。
上村君は読売新聞での連載が好評のようで、以来竜王戦も好調のような。うらやましい限りです。
やはり人間、モチベーションは大切ですね。

竜王戦は特に1回戦が大きな勝負なので、年末年始は誰もが大きな勝負を抱えることになります。
例年だと4組以下は年内に1回戦を指すことが多いですが、自分自身は年明けになりそうです。

棋王戦本戦の敗者組は佐藤名人が勝ち、黒沢五段の快進撃はストップ。
この2期でこのカードは3局あり、すべて名人の先手番なのですね。
トーナメント戦は全局振り駒なので仕方ないですが、ちょっと不運な偏りという気がします。
挑決は佐藤名人ー広瀬八段で、王将リーグ等での対戦に続き最新形になりそうです。

今日は土曜日ですが朝日杯とマイナビの中継が行われています。

グーグルAI「囲碁・将棋・チェスを制覇」 米誌掲載
アルファゼロの棋譜が公開された、とのことで昨日ウェブ上ではずいぶん話題になってましたね。
評判を見る限りでは、やはり興味深い指し手が多いようです。

自分なりに精魂込めて30年やってきた将棋が、10時間程度の学習で越えられるとしたら、いったい何なのか。
とか、僕は全然思わないんですけど、それにしてもすごいものですね。

 

日付戻って一昨日は書道部、からの忘年会でした。
また一年、過ぎたのかという思いです。
今年嬉しいことは色紙に書く段位が上がったことです。
これで思う存分書き溜めることができます。

昨日はマイナビさんに打ち合わせに行ってきました。
執筆作業もようやくラストスパートです。
けっこうなペースで作業しているつもりなんですがなかなか終わらず、一冊書き上げるのは大変だなあと実感しています。
年内にはたぶん刊行時期とかもだいたい決まって、お知らせできるのではないかと思っていますのでお楽しみに。

来週は対局がつかなかったので、半ばぐらいまでは集中仕事モードに入る予定です。
その後は今年最後の順位戦と、王位戦の大きな勝負に向けて頑張ります。

では今日はこのへんで。