続・藤井四段

昨日の話題の続き。
その後も、テレビのニュース番組やワイドショーなど、反響が大きいようですね。
自分も、いくつか観ました。
彼の天才ぶりに注目が集まるのは当然として、その後、将棋界のことや将棋そのものに、注目してもらえるようになると良いですね。

羽生七冠誕生のときは、広島に住んでいる中学生だったということもあり、当時の反響はそこまで記憶にありません。(さぞ、すごかったはずです)
ただ、その頃まで奨励会入会者が少ない年が続いていたのが、その後急に増えてきたという記憶ははっきりとあります。
平成10年入会者が特に優秀で、佐藤現名人に広瀬八段・糸谷八段とすでに3人のタイトル獲得者を輩出しているというのはいまでは有名な話。
七冠誕生から4年後の平成12年、ちょうど2000年に東京に出てきた自分は、そのときから急に、強い後輩たちを意識して三段リーグを戦うことになりました。

時代が違うので、どうなるかは分かりませんが、もしかしたらまた、プロを目指す子どもが一段と増えてくるかもしれません。
そのためにも、競争の先にあるものを、しっかりと守り育てていくのが、自分たちいまいる棋士の務めと思います。

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こないだの藤井ー羽生戦の解説に関して、渡辺竜王がブログを更新していて、興味深く読みました。
個人的には桂馬の価値うんぬん以上に、「プラス500点」への捉え方に興味を持ちました。
自分自身は、将棋を点数でとらえるのは本質的ではないと思うものの、数字で示されてしまうとどうしても価値観の修正を迫られるので、あのように明快に自分の見解を述べられるのは、さすがと思います。

「評価値」というものについて、自分の思うところを少しだけ。
将棋は完全情報ゲームなので、本来であれば局面評価は1、0、-1の3通りしかないはずです。
(結論は勝ちか引き分けか負けのいずれかしかない)
にも関わらず局面ごとに評価値が上下するというのは、それだけ将棋が(いまの)コンピュータにとって難解で、ゆえに正確な形勢判断ができていないということだと、自分は考えています。
それなのに数値の大小に目を奪われるのは、何かが間違っているのではないかと思うのです。

電王戦を初めてナマで観た、船江ーツツカナ戦の日以来、ずっと変わらずそう考えています。
ただコンピュータの大局観が向上してきたいま、それなりに有用であることも事実なので、いかに折り合いをつけるか、だと思っています。

局面に点数をつけて、その評価を自分に取り入れるというアプローチは、趣味のバックギャモンでは10年以上前から(自分も含めて)多くのプレイヤーが行っているので、それ自体に違和感はまったくありません。
ただ将棋の場合は、ゲームの性質上明らかに本質的ではないと思うだけです。
本質的でないことは明らかだけれど、正しい可能性も高いという状況が、今後もずっと続くので、なかなか厄介な状況ではあります。

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この話、まだまだいろいろ書けるのですが、けっこう長くなったのでいったんこのあたりで。

昨日の中継は、2局とも夕休の時点では先手が良いと判断して、そうつぶやいたのですが、後で考えると、塚田ー野月戦は、後手が良かった気がします。
高橋ー阿久津戦は、▲8一桂成と飛車を取った手が意外で、先に▲5八玉と早逃げするのかと思っていたのですが、どうだったでしょうか。
この将棋は、その後一手指したほうが良く見える熱戦で、面白い終盤戦でした。

人間は、(特に自分の実力では)コンピュータ以上に間違いが多く、かつ、考えが揺らぎやすいのも確かです。
でも自分は、棋士は評価値よりも、盤面と向き合うべきだと思うので、今後もなるべくそうします。
上記のような、中継を観戦しての感想や解説は、誰の手も借りずに書いているので、結果として間違いもあるかもしれませんが、それも含めて、楽しんでいただけたらと思っています。

今日は棋聖戦挑決、戦型は横歩取り。

 

ニュースバリュー

昨夜のAbemaTV・炎の七番勝負は、既報の通り藤井四段の勝ち。
本局も、本当に強い勝ち方でした。
対戦相手の羽生三冠、放映に登場した佐藤名人、モバイル中継で解説した渡辺竜王、トップ棋士せいぞろいで、皆さん感心しきりだったようですね。
それも当然と思える将棋の内容でした。

あまり安易に「天才」という言葉を使うのはどうかと思いますが、さすがにここまで規格外だと仕方ないですね。
一部報道では「神の子」という表現を使っている記事もありました。
実は仲間内で、そう呼ばれていた後輩棋士が他にもいるので、ちょっとした違和感を覚えつつも、なるほどという感じです。
終盤の場面は、後手から△8七歩と打てず(二歩)、先手からは▲8七歩と合駒があってまさに「一歩千金」という状況で、まるで将棋の神に祝福されているかのような、美しい収束と感じました。

次の日曜夜に再放送があるようですので、改めてご覧になりたい方はぜひどうぞ。
【4/25 追記】期間限定で、オンデマンド配信の無料放送もあるようです。

終局後は、各社一斉にかなり報道していただいたようです。
この対局はあくまで非公式戦なので、ある意味では内輪の出来事でもあると思うのですが、もはやそういう感じではなかったですね。
もちろん、新四段が羽生先生に勝つというのはとんでもないことです。
ただし、別にタイトルが動いたとか、そういう話ではありません。
にも関わらず、将棋界だけではなく、社会に対して大きなニュースバリューがあると判断されたことが、本当に素晴らしいことだと思います。

この数年間で、将棋に関するニュース・報道は目に見えて増え続けてきました。
以前であれば将棋界内部の話題にとどまっていたようなことが、一般のニュースになったり、あるいは将棋の大きなニュースが、あれもこれもすぐにトップニュースになったりという変化を、日々実感していました。
そう仕掛けた面もあり、気が付いたらそうなっていたという面もあり。
後者のほうがはるかに大きいですが、努力がそれ以上の結果となって跳ね返ってくるのは、理事職を務める上でも大きな活力になっていました。

いまなお、その流れは続いていると思います。
僕が将棋界の未来は明るい、と繰り返し書いてきた一番の理由はここにあります。
「将棋」それ自体、そのものが大きなバリュー、価値のあるものに、なってきました。
もちろん、元々がそうだったのです。
でも、それが目に見えて具現化されてきた。素晴らしいことです。

ところで、藤井四段、14歳。
いま、奨励会員として棋士を目指している子の多く、おそらくは半数ぐらいかそれ以上は、彼より年上ということになります。
あまりに途方もなくてくじけそうにもなると思うけれど、将棋が好きで続けていきたいのであれば、どうかあきらめないで頑張ってほしいと願います。

自分の場合は三段リーグを抜けるのに10期かかって、22歳で四段になりました。
ひとつ一つの例を挙げるまでもなく、棋士人生もそれぞれです。
世間は誰かと誰かを比べたがるものだけれど、大事なことは、目の前の将棋を頑張ることです。
そこには何のニュースバリューもないかもしれない。でも、何よりも大切なことです。
僕もその気持ちだけは、これからも忘れないようにしたいと思っています。

炎の七番勝負

本日、いよいよフィナーレを迎えます。
最後は羽生三冠が登場。
ここまで藤井四段の5勝1敗。すごい、すごすぎるの一言です。

最終局を前に、羽生三冠のインタビューがありましたのでご紹介しておきます。
「このまま定跡になる」とは大変な評価で、改めて驚かされます。
19時から、お見逃しなく。

今日は久々にバックギャモンの大会に出るので、予約投稿です。
短いですが、今日はこれだけで。

戦型分類のはなし

名人戦は、またしても早い決着でした。
手数も72手で第1局とまったく一緒だったようですね。
粘り強さが身上の二人でも、差がつくと粘れない、粘らせないのが9時間という持ち時間、名人戦という舞台なのかなと思いました。

ここまでの2局は勝った側が緩みなく寄せているからこその早い終局なので、レベルの高い将棋であることには変わりありません。
第3局は一斉大盤解説会も行われますので、時間いっぱいまで使う熱戦になることを期待します。

昨日の続きで、戦型分類の話題。
昨夜、たまたま初対面の将棋ファンの方に、教えてもらった使い方です。

「本日の対局」の下のほうに、「棋譜検索」という欄があります。
日付や棋士名で、検索できるのは以前から知っていたのですが、ここに、自動判定で分類された戦型別にも、検索できる機能が追加されていたようです。

こんな感じです。
試しに「横歩取り△3三角型」を選んでみます。

この半年ほどの中継局のうち、約8分の1がこの戦型。
相変わらず、流行しているようですね。

これだとちょっと多すぎるので、さらに絞り込んでみます。
たとえば名人戦挑戦者の稲葉八段を選ぶと

A級順位戦の勝局がズラリ。
名人挑戦の原動力になったことがよくわかりますね。

と、こんな感じで特定の将棋だけをまとめて観ることができます。
その方は三間飛車党で、三間飛車の将棋だけをじっくり並べて勉強しているのだとか。

そういう使い方もあったかと、参考になりました。
僕はもちろんすべての将棋を観ているわけですが、それだとかなりの数になって、時間も労力もかかるので、自分の特に見たい将棋をうまく絞り込むのも、長く楽しみコツかもしれませんね。

今日は固定ページにリンクしておきます。
棋譜中継を見るには

この土日は天童の人間将棋。
出張の方も多いことと思います。どうぞ楽しんでいらしてください。

僕は日帰りで栃木に出かけてきます。

名人戦

名人戦は2日目に入りました。
本局は超スローペース。
相居飛車の力戦としか表現しようのない、あまり前例のない戦いになったので、無理もないところでしょう。
お互いに、苦しくも楽しい長考合戦だと思います。

ところで、本局は「その他の戦型」ではなく「相掛かり」に分類されるみたいです。
しばらく前から、「本日の対局」の欄に、自動で戦型が表示されるようになったのですね。
(※仕組みはよく知りません)

10時すぎの画面です。
ユーザーからの要望があって、対応したと聞いた記憶があります。
こうやって日々、いろいろと改良に努めているのですね。

ところで、名人戦の将棋の出だしは、「矢倉模様」と言って良いでしょう。
ところが後手が飛車先交換を許す趣向に出て、受けた先手が横歩を取ったので、そういう意味では「横歩取り」かもしれないなと思いました。
でも、出てきた答えは「相掛かり」なんですよね。
5手目▲7七銀までの将棋から、相掛かりになった将棋というのは、過去には皆無なのではないでしょうか。
まったくもって、最近の将棋はわけが分からず、面白いですね。

現局面は、後手十分だと思いますが、そうだとすると横歩を取ったのがイマイチだったということになるのでしょうか。
感覚的には、それは不思議なので、つまり自分の感覚を、修正していかないといけません。
身体に染みついたものを変えていくのは、容易なことではないですが、最近は毎日こうやって観戦して、いろいろな将棋をそれこそ浴びるように摂取しているような状態なので、案外気がつかないうちに変わっていくかもしれません。
もともとこだわりは少ないほうだと自分では思っているので、うまくバランスを取りながら、やっていきたいと思っています。

昨日のマイナビ第2局は加藤女王の快勝でした。
最近の彼女の将棋を観ていると、急に調子が上がってきたように見えます。
いい波にうまく乗るのも、タイトルを多く獲得する秘訣なのでしょうね。
次局は挑戦者の巻き返しにも期待したいと思います。