銀冠穴熊と自陣飛車

昨日は公式戦が2局だけと、少ない日。
一昨日や今日、明日はたくさんあるので、偶然と思われます。
将棋界の場合、月曜日は対局が少なくなることが多く、週末と合わせて、中継局に苦慮するケースがままあります。
これは土日にどうしてもイベントや教室等が多く、月曜日の対局を好まない棋士が多いからのようです。

また、順位戦の一斉対局がないこの季節は、全体の対局数も少なくなる傾向にあります。
しかしそうかと思いきや、今日の中継は実に豪華ですね。
本当は分散したほうが何かと良いのですが、なかなか難しいのが実情です。

閑話休題。(これなら合ってますかね?)
昨日の中継局、山本三段ー阿部六段戦より。
棋譜コメントのちょっとした補足をします。

この局面は2三の地点が急所です。
そこに目をつけて▲4三成銀がうまそうな手。△同金なら▲2三桂の一手詰めだし、△2三金なら▲3二金と攻めれば優勢でしょう。
しかし▲4三成銀にはおそらく△2三飛!が用意の切り返し。
以下▲3二成銀△同飛を進むと

うむ、完成。
見たことない形だけど猛烈に堅い。

この場面を見ていて、先日のNHK杯の解説で佐藤康光九段が「最近の将棋は自陣飛車を見ることが増えた気がする」というようなことを言っておられたのを、思い出しました。

というわけで、実戦はそれを察知して▲4五金が手厚い攻め。
この▲4五〇⇒▲3四〇と居飛車陣の歩を削る手は、対抗形では特に急所になりやすいので、覚えておかれると良いと思います。

さてこの将棋の序盤、以前は見なかった指し方で、コンピュータが好むのだとか。
ただ、実は銀冠穴熊は、ずーっと昔、僕も得意にしていて、最近たまに見るので懐かしく感じています。
奨励会の級の頃か、もしかしたら奨励会に入る前だったかもしれません。
角筋を止めないのがセールスポイントなのはその頃と変わってないようなので、子供の頃の自分も先見の明があったのかもしれない?

当時は▲7八銀と引いて、▲6五歩と角をぶつける対策が多かったように記憶しています。
(※四間飛車の場合。この将棋は三間飛車なのでちょっと意味合いが違います)

居飛車の銀が6二なのは、▲4五桂が両取りにならないように気をつけているためです。
たぶん、現代の4四角・5三銀のほうが、得な意味合いがあるのでしょう。

最近ある若手棋士のtwitterで、この戦型の本を書いているらしいつぶやきを見たので、楽しみにしています。
藤井システムが登場したときには生まれてもいなかったような世代の若い棋士が、角道を止める昔ながらの振り飛車への新たな対策を考えているというのは、実に興味深いことだと思います。

もう1局の遠山ー青嶋戦は、編集長の快勝でした。

最近、「遠山さんの序盤に注目している」という棋士は多い
(将棋世界最新号)

らしいので、僕も勉強してみることにします。

それではまた

 

名局とは

昨日の羽生ー糸谷戦、渡辺ー佐々木戦の2局は、いずれもさすがトップ棋士と思える、ミスらしいミスのない好局だったように思いました。
前者は角換わり、後者は矢倉で、いずれも定跡形ではなく、しかしこれまでの経験は生かせそうな形。
歩の手筋が特に多かった印象で、まさに「盤に並べたい名局」といった趣でした。

そう、かつては名局は盤に並べ返して堪能するものでした。
いまはすこし、変わってきているかもしれません。
ただ、「良い手は指先が記憶している」のは、今も昔も、変わらないと僕は思っています。
自分は棋譜並べはもっとも好きな勉強法、というよりもはや習慣のレベルです。
対局を仕事としながらも、本質的には「観る将棋ファン」なのでしょう。
この楽しさを、多くの人と共有したいといつも思っています。

 

数日前、弟弟子の糸谷君の連続ツイートが目を引いたので、一部引用します。
(元データは@kansaishogi

あくまで私見ですが、こういった見地からは「名局」は生物です。鮮度が落ちても干物として食べられますが、やはり美味しいのは刺身ではないかと思います。

補足しますと、干物は干物でまた刺身とは違った味わいがあり、むしろ干物にしたことにより味わい深くなる魚もあると思っております。ただ、刺身は今しか食べられない可能性もあるということです。

哲学者の文章なので簡単に解釈するというわけにはいかないですが、やはりリアルタイムに勝るものはなし、といったところでしょうか。
加えて、多くの鑑賞者の目に触れることが、名局をいっそう名局たらしめるという側面も、あるように思います。
ぜひ多くの皆様に将棋観戦を楽しんでいただきたいですね。

 

ところで、将棋連盟ライブ中継のサービスが始まるとき、毎日やっていることが、必ず大きな価値になる。
という話がありました。
おかげさまでいまは、ほぼ毎日リアルタイムで、複数局が中継されています。
当時の理念は確実に実現できていると感じます。

自分も、できる限り毎日、こうやって将棋の話を書いていくつもりなので、読んでいただけたら嬉しいです。
縁あって一度訪れた方には、その後はとりあえず一日1回、チェックしていただければ。
ちなみにいま、基礎ユーザー数(という表現で良いのかどうか?)は、だいたい1000人ぐらいではないかと思われます。
この数字がプロとして多いのか少ないのかは、よくわかりません。
続けることで、この数字が増えていってくれたら、それもまた一つの将棋普及の形だと思うので、とりあえず倍を目標に頑張ってみます。

 

コンピュータが強くなったいま、我々棋士の役割が、おのずと変化していくのは、当然のことです。
指し手の解説に関しても、正しい手を示すためだけならば、棋士はもはや適任でないのかもしれません。

ただ、たとえば冒頭のような簡単な感想を述べることも、コンピュータには難しいと思います。
また、たとえ最善手を導くことはできても、ある指し手を見たときに、どう感じたか、とかおそらくこういう読み筋で指したのだろう、とかは、コンピュータにとっては表現できない部分です。
そういう人間ならではの役割を大事にしながら、やっていきたいと思っています。

マイナビ

将棋界では、桜の季節に開幕するのが名人戦。
そして女流棋界では、その後に続くように、マイナビの5番勝負が開幕するのが恒例です。
第1局は陣屋で行われ、加藤女王の先勝。
最後はちょっと意外なぐらい差がついてしまいました。

戦型は(たぶん)本命だったであろうゴキゲン中飛車vs超速で、前例のある進行でした。

この将棋は、上の図の形勢判断が重要です。
自分の感覚では、後手の角金の形が悪く、ちょっと振り飛車が無理している印象です。
ただデータ上は、振り飛車がよく勝っているので、ちょっと意外でした。

「前例」に関して、将棋世界の最新号に、面白い発言が載っていたので紹介します。

前例の勝敗は関係ありません。あまり強くない人が指していると参考になりませんから。
はっきり言って、誰が指しているのかも覚えていません。
先手が指しやすいということだけわかっていれば大丈夫です。(千田六段)

大事なのは、直近の何局かの形勢を正しくとらえることです。(渡辺棋王)

(棋王戦第3局の記事より。そういえばその将棋もゴキゲン中飛車vs超速でした)

この図の初出はもう7年も前なのですね。
もうそんなに経つのかと、調べてみて驚きました。
この形は今後もまた登場すると思うので、覚えておかれると良いかもしれません。
そういうときに、あまり古い前例にとらわれずに、指し手を考えることが大事ということだと思います。
たしかに、7年前といまとでは感覚や、共有されている基礎知識が違うので、新たな視点で考えないと認識を誤ってしまいそうです。

 

実戦はここからしばらく進んでこの局面に。

ここで▲2四成銀と前進したのが好手だったようです。
以下は「棒銀」ならぬ「棒成銀」の攻めがうまく決まりました。

この局面では▲2二歩△同金▲2四歩とか、あるいはいきなり▲3四成銀とか、何か技を使う手から考えたくなる感じなので、素朴な▲2四成銀は意外な一手で、印象に残りました。
終局後のコメントにも「成銀を2回出られる手を軽視してしまって」とあるので、たぶんこの場面のことだろうと思います。

 

今日の中継はほかに3局、うち竜王戦の2局が角換わりで、王位戦が矢倉。
どの将棋も難しそうで、ここからが佳境という感じです。

中でも羽生ー糸谷戦は、指し手に占める歩の割合が目に見えて高く、複雑な将棋になっています。
一手一手濃厚なので、またあとでじっくり考えてみたいです。

選挙

昨日・今日は日本将棋連盟の理事選立候補日。
大きな実績のある、森内九段と清水女流六段の出馬が、話題を呼んでいるようです。

自分も過去2回出たわけですが(さすがに今回は出ません)、立候補に関してこのように報じられたということは、なかったように記憶しています。
いっぽう先日の臨時総会で、佐藤九段(現会長)が出馬されたときには大きく報道されました。
やはりスター棋士の動向は特に注目されるということと、この数年間で将棋界に注目が集まっているということも、大きいのだと思います。

個人的には、落選した人が分かってしまうというマイナス面も気になるので、複雑な気持ちもあります。
ただ今後はこのような流れになるのだろうと思いますし、将棋界のことを報道していただけるのはありがたいことでもあります。
いままでは単なるムラの選挙だったのが、これからはファンから見てもふさわしい結果が求められるのかもしれません。
そんな中ではなおさら大変とは思いますが、自分より若い棋士も、思い切って出馬してくれたらと願っています。

あと今回、ファンから見たときに、森内先生が理事選に出るためにフリークラスに転出されたかのようにどうしても見えてしまうのは気になっていたので、報道で否定されたのは、良かったと思いました。
毎日新聞

さて、元々は触れるつもりはなかったのですが、せっかくなのでもうすこしだけ。
いまの理事選任の流れは、上記の記事にもある通りこの「予備選挙」で当選した人を、後日の総会で正式に承認するという形になっています。
この方式のおかげで、その年で退任する現職が、次の人にスムーズに引き継ぎを行えるというメリットもあります。
かつては総会の当日にいきなりメンバーが変わっていたそうなので、大変だっただろうなと思います。

基本的には仕事というものは、その人だけの仕事にしてしまうことなく、他の人もできるようにするのが一番大切なことだと思うので、(ある意味将棋と真逆です)今後はまたいまの制度を生かして、良い流れができてくれたらと思っています。
今回はあまりに特殊な状況で、メンバーも一新されることになるので、細かい引き継ぎよりも大きな視点で、やっていただけたらと願っています。

最後に、連盟の経営で一番大事なのは、選ばれた人たちを棋士が信頼して任せることです。
そのための選挙ですので。

 

閑話休題。
カスタマイズというのか、実は細かくページをいじっていて、昨日から右側に、ツイートが表示されるようになりました。
自力では何もできないので、本を読んだり、知人に教わりながらやっています。
できる人には簡単で、たいしたことではないんだろうなあと想像しつつも、できなかったことができるようになる、知らなかったことが分かるというのはなかなか楽しいです。
これやってみてはどうでしょうか?ということがあれば、コメントで教えてください。

今朝は将棋のことを書けなかったので、たぶん夜にもう一度更新します。
将棋連盟ライブ中継はマイナビの第1局@陣屋があり、渡辺竜王や羽生三冠の対局もあるなど、豪華な一日です。

交流

昨夜も藤井四段は強かった。
戦前の多くの方の予想もそうだった通り、自分も、まさか勝ち越すとは思いませんでした。
むしろ1つ、2つ勝てればというぐらいのメンバーですので。
いったいどこまで勝ち続けるでしょうか。

ただ昨日の序盤は、見ていてかなり不慣れな印象も受けました。
矢倉・森下システムは彼が生まれる前から定跡が整備されてきた戦型なので、このあたりには、先輩棋士に一日の長があるのかもしれません。
あとはもしかしたら、四間飛車・藤井システムなんかもその可能性も?
対照的に、角換わりなんかは近年すごい勢いで新型が登場しているので、彼の土俵なのかもしれないと思います。

終盤に入ってから、△3八飛~△2六角という手順が、あまりに茫洋としていて印象に残りました。
普通はちょっとそこには手が行かないだろうな、という手順だと思いましたが、どうでしょうか。
河口先生ならきっと、こういうところを絶賛しただろうと想像します。
来週は佐藤会長、再来週は羽生三冠が登場。注目ですね。

 

さて、今日もブログを再開した理由についてすこし。
自分なりの楽しさや、勉強もありますが、他にもファンサービス、あるいはファンとの交流、コミュニケーション、といった意味合いもあるつもりです。
家でもできる、ごく簡単なことで、楽しんでもらえることができたらなあという思いです。
なので、日々の将棋観戦の足しになっていれば幸いです。

あと自分の場合、新人のときからずっと、何かしら原稿を書かせていただいていました。
理事選に出る前に辞めて以来、すっかりご無沙汰なので、そういう意味でもカンを取り戻そうとしているところです。
棋士としてのいろいろな仕事も、次の総会が終わったら、徐々に再開できたらと思っています。

今日はすこし短めですがこれぐらいで。