フジイノミクス?

一昨日出演させていただいた「ワイドスクランブル」(テレ朝)で振られた話の中に、興味深いことがいろいろとありました。
表題の単語は、他のところでも目にしたことがあるので、ちょっとした流行ですかね。

どう呼ぶはさておき、「経済効果」に注目するのは大事なことだと思います。
関連グッズが完売、新刊も予約殺到、等ももちろんありがたいことですが、個人的に一番大きいと思うのは、やはり「将棋を習う子ども、習わせたい親」が増えているということ。
10年、20年先の未来につながる話なので。これは何物にも代えがたい財産です。

いっぽう番組でも発言した通り、将棋教室はどこも満員御礼という話も耳にしています。
いつもの生徒さんを見つつ、新規入会の子にルール等から教えるというのは先生のほうもなかなか大変なので、うまくルールを家庭で覚えてもらえる仕組みが作れないものか、というのも以前から考えているところです。

とりあえず良い入門書と安価な将棋セット(盤駒)を購入する家庭が増える、という流れになれば極めて普及効果が高いと思うので、言うは易し、ですがぜひ業界全体としてそういう方向性の施策をと願っています。
自分自身も、これからもそう発信していきたいと思います。
ちなみに将棋の駒は、片付けるときにきちんと数えて箱に入れることが大切です。
そうすればいつまでも使えます。

↑こんな提言もいただきました。
これまた経済効果だけではなく、普及の観点からもとても重要で、僕自身も以前から考えていることでもあります。

番組では例として朝日杯の準決勝・決勝の話をしました。
無料だとJT杯や、社会科見学で朝の数分間だけ対局室を見学してもらうなど、他にも例はいくつかあります。
先日まで行われていた棋聖戦などでは、タイトル戦の見学ツアーの取り組みもあります。

ただ「業界全体の仕組みとして」そのようにはなっていません。
このあたりのことは、相撲界の仕組み等にもっと学ぶべきと以前から思っています。
また一緒に出演しておられたコメンテーターの方からは、パブリックビューイングの提案もいただきました。
この機会にできることから、と新常務会にはいろいろと期待しています。

この1か月ほどでたぶん10回ぐらい地上波に出させていただき、ずいぶんといろいろな話をしました。
(本当は、たまには普通の将棋番組の解説もしたいんですが)
テレビのスタッフの方々は将棋を知らない方も多いと思うのですが、毎回いろいろな切り口で、とても工夫して番組を作っていただいていて、本当にありがたいことと感謝しています。

自分自身も、話すのにもだいぶ慣れてきました。
まだまだ話していない、将棋界の良い点や、今回の話のような前向きな目標も、たくさんあるので、これからも機会があればと思っています。

今日はVS(1対1の練習将棋)からの、ちょっとした打ち合わせが1件。

7/11 千田六段戦

一昨日の将棋について。

この局面に至るまで、自分の感覚では、お互い特に不自然な手はなし。

この▲5五歩は、放置すると▲7五歩(~▲6六歩)の銀挟みが狙い。
それを防ぐには本譜の△5四歩のほかには、△7四銀と引き上げるしかない。

(1)本譜の△5四歩は悪手で、▲6六銀とぶつけられて早くも不利。
以下△同銀▲同角の局面は、▲2四歩(△同歩▲2三銀)、▲5四歩、▲4一銀、と3つの狙いがあってまったく収拾がつきません。うっかりしていました。
代えて▲6六歩△7四銀▲5四歩△4三金のような感じで、一局の将棋と思っていました。
この順だと、▲6六歩で角道が止まっているので、しばらくは駒組みが続きそうです。

(2)よって代案はこの局面で△7四銀ということになりますが、その局面はやや作戦負けと思います。
正しくそう指していれば、先は長いので、日の高いうちに負けるということはなかったと思いますが。

千田君の序盤は人間には見慣れない指し方も多いですが、本局に関しては非常に自然で、かつ当然ながら行き届いているなと思いました。

 

ところで、弟弟子との順位戦はこれで3局目なのですが、その3回とも2回戦、7月上旬、場所は大阪でした。
偶然の一致なのか、起きやすいのかよく分からないのですが、この日は兄弟弟子同士のカードが5つもあったので、まったくの偶然というわけでもなさそうです。
兄弟子の増田さんや安用寺さんとは別のタイミングでも対戦があるので、C1の人数が増えてきた、最近の傾向と感じているのですが、どうなんでしょう。

あと過去に対戦した糸谷君、大石君はいずれもその期に昇級しています。
千田君も相変わらずよく勝っているので、チャンスは大いにありそうです。

順位戦の連敗スタートは棋士生活14年目にして、たぶん初めてのはず。
またこんなに早い時間に負けてしまったのは、数年前に魁秀先生に飛車を逮捕されて以来だったと思います。
厳しい立ち上がりになってしまいましたが、将棋に向き合う時間はきちんと取れているので、来月以降はもっと頑張って巻き返しをはかります。

昨日のA級順位戦はすごい将棋だったと、ネット上でかなり評判になっているのを目にしました。
まだ観ていないのでこれからチェックします。
今日もC2の残り半分14局があります。
名人戦棋譜速報でお楽しみください。

 

それと、ここ数日たくさんのコメントをいただき、ありがとうございます。
返信や、続きもいずれまた時間を作って、書きたいと思っています。

昨日のワイドスクランブルの話もまた明日改めて。

帰京

最近は内容的には恥ずかしくない将棋が指せていたと思うのですが、昨日は目を覆うような惨敗でした。
「評価値は本質的ではない」とか「対局は深夜までかかることもあります」とか、何だか盛大なフラグを立ててしまったみたいで、恥ずかしいです。
書いたことに後悔はないんですが、タイミングの悪さは否めませんね。。。

ただこうやれば難しかった、という手すらなかったので、早く終わったのは反省すべきとしても、完敗は仕方なかったかもしれません。
将棋の反省はまた明日書きます。

夕方早々とホテルに帰ってきて、当然もう1泊取ってあるのをキャンセルして東京に帰ろうかなと思っていたら、急な連絡があり。
今日これから「ワイドスクランブル」(テレ朝)に出演することになりました。
11時過ぎからで、藤井四段の「経済効果」について特集するそうです。

何だかテレビに出るために早く帰ってきたみたいで恥ずかしいんですが、もちろんそういうわけではありません。
これも何かの縁と思うのと、棋士が良い形でメディアに出るのは望ましいことなので、お引き受けしました。
ということで良かったら、ご覧ください。

その後、お昼過ぎからはカロリーナ関連の取材を受けます。
(もともとはそこに帰京の足で行く予定でした・・汗)
こちらは「銀河将棋チャンネル」内での特集になります。
配信時期が決まったらまた改めて触れたいと思います。

 

昨日は棋聖戦第4局があり、羽生棋聖が勝って10連覇。
相変わらずの強さです。
最近はすこし対局が少なかった気がしますが、またひとつ淡々と実績を伸ばして、本当にすごいの一言です。

関西の若手が次々と挑戦していて、彼らも本当に強いのになかなかタイトルに手が届かないのは、つまりそれだけそびえたつ壁が高く厚いということなんでしょう。
次の王位戦、菅井七段の戦いぶりは注目です。

藤井四段の対局のほうは、終盤の△4一玉~△5一玉での「見切り」が解説の棋士たちを驚かせたとか。
その前に△7二飛とした手が危険な一着だったようですが、それも結果論かもしれませんし、結果から見ればやはりすごい終盤だったと言うべきなのでしょうね。

実は東京に帰る前にいったん連盟に戻って、すこしだけ遠目に感想戦を眺めてきました。
ナマで様子を観るのは初めてだったのですが、相変わらずかなりの数の報道陣の中、普通に終盤の難しい変化を検討している姿に改めて驚きました。
連勝が止まればいろいろ一段落かと思っていましたが、どうもとうぶんはブームが続きそうな感じです。

危機感

今日は順位戦の対局ですが、予約投稿します。

昨日に続いてまたテレビの話。
先日のNHKスペシャルを観て、以前から持っていた危機感を思い出しました。
AI(人工知能、コンピュータソフト)のことです。

僕はこんなことを書いているぐらいなので、AIが強くなるとか、AIに人間が負けるとか、そういうことにはあんまり危機感はありません。
ただ、AIによる「評価値」とかそのグラフとかが、あたかも「正しいもの」であるかのように取り上げられることには、強い違和感と、危機感があります。
それは、「一見正しそうで、かつ実際に近似的だけど、本質的には正しくないもの」だと僕は考えているからです。
そうきちんと理解した上での見方ならば、一面では有意義とも思うのですが、そうと知らずに、ただ真に受けてしまうのはどうかな、と思うのです。

「(現在の)ソフトと近い手が指せる」ことと、「良い手が指せる」ことは、(現在の)人間にはあたかも似て見えるかもしれませんが、本質的な意味で、決してそうではない。ということを、この機会に、知っておいてほしいと思いました。
(※ついでに言うと、「良い手が指せる」ことと「将棋が強い」ことも、似て非なることだと思いますが、それはまた別の話)

なぜ評価値が「本質的には正しくない」のか。
すごくざっくりひとことで言うと、将棋のあらゆる局面の評価値は、+1、-1、0の3通りしか存在し得ないからです。
(数字は9999でも1億でも何でもよい。要するに勝ちか、負けか、引き分け)
+300か、500か、1000かというのはあまりに本質からかけ離れていて、そもそも本来は数字の大小で表されるべきものではないのです。

しかしそうは言っても、とかそれはおかしいのでは、という疑問・反論・深堀りetc.もいろいろ予想できるので、このテーマについてもっと詳しく書きたいと前々から思っているのですが、どうにもうまく思考を形にできないでいます。

ただ、たまたまつい最近番組を観て、しかも今日の相手がちょうど千田君だったので、少しだけでもと思って、家を出てくる前に書いてきました。
ちなみに千田君はいろんなことを理解した上で、うまくソフトを使いこなしていると思います。
先駆者として、本当にたいしたものだと感心しています。

あと補足ですが、番組自体はとても良い内容でした。
番組への批判と誤解されてはいけないので、一言添えておきます。

 

何はともあれ、今日も一生懸命頑張ります。

棋士に関するQ&A

最近はよくテレビの話をブログに書いている気がします。
先日の「1周回って知らない話」(日テレ)の将棋特集は、増田四段vs藤井四段戦が、「新記録のかかった一番」になると決まる前から、取材していたのですね。
てっきりそうと決まってから、特集が組まれたのかと思っていました。
世間一般から見た将棋界のイメージなどが垣間見えて面白かったです。

その中で取り上げられたいくつかの「疑問」は、けっこう定番のものが多く、今後も取り上げられそうだなと思ったので、この機会にまとめておこうと思い立ちました。
上段が一般的な、あるいは実際に番組でも出た答え、それに加えて後段に自分なりの答えを入れてみました。
番組を観る方、作る方、その他、それぞれに何かのご参考になればと思います。

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Q.プロ棋士は何人ぐらいいるの?
A.四段以上の現役棋士は、現在約160人です。ちなみに「女流棋士」は制度が異なり、こちらは約60人います。

補足:ときどき「元プロ棋士」という表現を見かけますがこれは厳密には誤りで、「引退(退役)棋士」もあくまでも「プロ棋士」です。ただ上記のように現役の人数を答えることが多いので、そう書かれてしまうのもやむを得ないかもしれません。

Q.どうやったらプロ棋士になれる?
A.まず「奨励会」というプロ棋士の養成機関に入り、そこを卒業したら晴れて四段、プロ棋士となります。
半年に1度行われる「三段リーグ」の上位2人だけが卒業できるという仕組みになっています。
つまりプロ棋士は年間に4人しかなれません。

補足:と聞くと皆さん驚かれます。
制度はちょっと複雑な面もあります(上記にいくつかの例外があります)が、一言でいうと将棋が強い子どもたちが全国から集まってきて、その中で淘汰されていくという実力本位の仕組みです。

Q.棋士の収入源は?
A.(1)対局料(2)賞金(3)その他の収入

補足:と番組では紹介されていましたが賞金がもらえるのは基本的には各棋戦(大会)の優勝と準優勝だけなので、大半の棋士にとっては対局料とその他に分かれます。
引退棋士は公式戦を指さないので対局料収入はありませんが、棋士としては活動するので執筆や指導等で収入のある人もいます。
また「対局料」なので勝っても負けてもその1局でいただける金額は同じであることがほとんどですが、大半はトーナメント戦なので負けると次の対局がなくなる、ということで成績と対局料収入は直結しています。

Q.対局がない日は何をしている?
A.(1)一人で勉強or仲間で研究会(集まって練習対局)(2)指導、執筆、解説等の仕事(3)その他

補足:正直言って他の棋士が普段何をしているかは永遠の謎です。
番組では「意外と忙しいのだ」というコメントが入っていました。
主観的にはたしかに暇を持て余したことはないですが、忙しいと言われると、申し訳ない気持ちになることもあります。
AbemaTVでは「〇〇〇段の一日」を紹介するのが恒例になっているようで、人によって全然違うので面白いと思います。
自分の場合だと、最近は家にいることがとても多く、あと旅行に出かける機会も一般の方々と比べると多い気がします。

Q.対局はどれぐらいある?
A.平均で月に3局程度です。藤井四段のように勝ち続けるととても多くなります。

補足.つまり月に27日ぐらい自由な時間があるということで、自己管理の大切な仕事と言えます。

Q.対局はどのぐらいの時間がかかる?
A.早指しだと1局1時間ぐらいで終わる場合もありますが、多くの対局は朝から始まって早くて夕方、遅いと深夜までかかります。

補足:これはよくびっくりされる点の一つです。自分の場合、いままででもっとも遅い終局は千日手指し直しで3時半でした。(対局開始から17時間半後)

Q.対局中はずっと正座していないといけないんですか?
A.そういう決まりはありません。

補足:実際に深夜まで正座を通す方もいます(!)が、さすがに少数派です。
ただテレビ対局とかでは、大半の棋士が正座で通しているように思います。
つまり1時間程度は誰でもできるということで、座ることに慣れている人たちなのは間違いないでしょうね。

(追加)
Q.対局のときは着物を着るのですか?
A.服装に決まりはなく、男性の場合ほとんどの人はスーツです。
タイトル戦に出場するときは、和服を着るのが伝統です。
それ以外にも自分にとって特別な対局だったり、「本気」の象徴に和服を着る人もいます。
自分の場合、NHK杯や銀河戦の本戦に出場したときに、和服を着たことが何回かあります。

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他にもありそうなので、また折を見てアップデートします。
また、何かご質問があれば、可能な範囲ではお答えしようと思います。

今日は午後から大阪遠征です。