若手棋戦

昨日のモバイル中継は、加古川青流戦と、YAMADAチャレンジ杯が2局ずつでした。
前者は四段と三段、後者はプロ入り後一定年数の四段と五段が、参加資格のいわゆる若手棋戦です。
どちらも自分は指したことがなく、言っても仕方のないことですが残念な気持ちはあります。

僕はプロ入りが13年前、2004年のことで当時は早指しの棋戦がなくなったりして、いま思うと将棋界は右肩下がりの時代でした。
その数年後には時の新人王が「斜陽産業」と発言して物議をかもす、なんてこともありました。

その一方で羽生七冠を見てプロ入りを目指した世代が大挙して押し寄せ、競争は厳しくなるばかり。
このあたりがもしかしたら「底」だったかもしれません。
その後、米長会長や谷川会長の時代、いくつも新棋戦が誕生しています。
上記の2つはいずれもまだ創設から10年未満の歴史の新しい棋戦なので、今後も末永く続いてほしいと思いますし、若手棋士には限られたチャンスを生かして頑張ってほしいと思います。

全棋士参加棋戦の叡王戦も新設されましたし、ここ数年の将棋界は明らかに右肩上がりだと思います。
ただ以前とは違うこともあって、週刊将棋の休刊等で、対局に関する記事が出ないままの将棋の割合が、多くなっている印象もあります。
そこはモバイル中継の会員数が増えることで、新たな受け皿になればいいですね。

 

ということで久々に図面貼ります。
井出四段ー甲斐三段戦で、四間飛車vs急戦から、玉頭銀が登場。
公式戦で観られるのは久々なので、心躍りました。

この将棋は、▲郷田ー△羽生のタイトル戦で観た印象が強く、いま調べてみたらもう22年も前の王位戦でした。
そんなに経ってるのかと思わずにはいられません。
やっぱり修業時代に勉強したことはよく覚えているのですかね。

いまのコンピュータ時代から見て、こういう古い定跡形というのはどのような評価を受けるのか、というのは勝負を離れて一人の将棋マニアとして、興味深いところです。
井出四段の振り飛車は、こういう形のきれいな将棋から、なかなかお目にかかれないような力戦までいろいろあって、いつも観ていて面白いです。
次の藤井四段戦にどんな作戦をぶつけるのか、注目しています。

今日はA級順位戦と、王将戦が2局。

コメントについてと、支部の話など

ここ数日、盤面以外の話題が多いためか(?)普段より多くコメントをいただいています。
わざわざ手間をかけてコメントをいただける方には、大変ありがたく思っています。
いつもありがとうございます。

先日まとめて返信させていただきました。
以前書いた通りで、これからもなるべくお返事するつもりですが、内容によっては、あるいは忙しいときは、すみません。

またこの話題では、twitterのリプでもいただきました。
ただtwitterだとけっこう悪意あるリプも多く、困るときもあるので、できればコメントでいただけたほうが、僕としてはありがたいです。
ともあれこれからもよろしくお願い致します。

 

で、今日は↑の話題に関連して、支部や普及関係のことを少々。

「普及将」と言ってきてくれた方が一人。ありがたいことです。
将棋は教える楽しさ、喜びを感じやすいゲームだと思います。

おかげさまで将棋は日本全国どこでも(人数にはかなりバラつきがありますが)必ずその地域の中心となる支部や、指導者の方がいらっしゃいます。
なのでもし将棋を指したい、と(特に東京・大阪以外の方は)思ったら、近くの支部を探してみるのが有力な一手になります。

僕の場合は有名な広島将棋センターの出身で、小学校に上がる前ぐらいから通いはじめました。
本多先生という良い指導者に出会えたことは、本当に幸運で、環境に恵まれたことにはいまでもすごく感謝しています。
実は現在、「普及指導員」として活動していただいている方が多い地域といえば、愛知県が有名です。
すごいスター棋士が誕生したことと、無関係ではないと思います。

 

「旅将」と言ってきてくれた方もいました。
たぶん「遠征将」と同じような感じなのでしょうね。
ファンの方にとっては、タイトル戦などを観に、あるいはイベントなどに参加しに行くという感じだと思います。
こちらは逆に、お仕事で全国各地にお招きいただく機会がときどきあります。
こういうときは、日頃の指導者の方が世話役も兼ねていることがほとんどで、ありがたいことといつも感謝しています。

おかげさまで、いままでに行ったことのない都道府県は、おそらく10は残ってないはずです。
なるべく早いうちに全県制覇したいなあと、これはわりと現実的な目標です。

ちなみに来週はかなり久々の出張で、八戸にお邪魔する予定です。
青森県は非常に将棋が盛んな地域なので、僕も何回か行っていますが、八戸はたしか初めてなのでとても楽しみにしています。

天才を育てる教育法?

最近、テレビや新聞、雑誌やネット、どこを見ても藤井四段の話題を目にするわけですが。
とりわけ幼少期の教育法には、注目が集まっている印象です。
自分自身も興味のある話題、ということもあるかもしれません。
いくつかキーワードも出てきているような状況ですが、世間の意見や価値観はさておき、自分なりに思うところを少々。

将棋を誰から習って、どうやって強くなるかというのはもちろん一人ひとり違います。
また将棋を習わせたいと思う親御さんにも、いろんな方がいると思います。
ただそのいろんなパターンがある中で、親がそれなりに指せて、熱心に教え込んで最初はやってくれたものの、途中でやめてしまった。
という例がけっこう多いという体感を、ずっと前から持っています。
これを解消する方法はないものかと、このところよく考えています。

個人的な意見としては、賢い子どもにと考えたときに、親が将棋のルールを教えて一緒に遊ぶ、というのはかなり良い手だと思っています。
これはまず将棋そのものの良さがひとつ。
そしてルールを教えることを初手から他人任せにするより、まずは一緒にやってあげる、あるいは一緒に覚えるという行動は、子どもに良い影響を与えるような気がします。

いっぽうでその後も何かと教え続けるというのは、あまり筋が良くないような気がしています。
最近同世代で5~6歳の子どもを持つお父さん・お母さんと話す機会が立て続けにあって、そのときに「親を相手に対戦していると、つい甘えが出るのでは」と全く同じことを言われて、なるほどと思いました。
この点、将棋は年齢の近いライバルや、最近だとネット上にも相手に事欠かないという点で、他のボードゲームと比較しても優位性がありそうです。

逆に、親に教わると反発してしまうとか、他にもいろいろと理由はあるのですが、総論としては「一緒にルールを学んで(教えて)、そのあとは見守る」というような流れになれば一番いいなと思っています。
僕自身のことを振り返ってみても、将棋を(他のことも)やらされたことはありませんでした。
奨励会を受けるときも、中学や大学受験のときも、すべて自分で決めてきた気がします。
自分がやろうと思ったことを、やりたいようにやらせてもらって、その結果こうなりました。

これは自分の価値観や人生観にも関連しますが、自由が何よりも大切で、「自主性を尊重」とかよく言われるのはまったくその通りだと思っています。
良い学校に入る、とかも無理に行かせようとすると勉強しないのに、素知らぬ顔だと案外急に頑張りだしたりするものではないでしょうか。

また将棋は勝つためには自分の力で「なんとかしようと」する、という側面があって、最近気づいたのですがこれは英語の「manage」という概念に近いのではないでしょうか。
それは、変化の激しい現代社会を生きる我々に、とても大切なスキルではないかと、そんなことを考えています。

「将棋ファン」の話

将棋界は、プロとファンの距離が近い世界とよく言われます。
たしかに、人数はかなり少ないのに、知名度はそれなりにあって、すぐ(物理的な意味でも、金銭的な意味でも)会いに行けるプロの世界というのは、珍しいかもしれません。
野球選手にキャッチボールしてもらおうと思ったら、ハードルはかなり高いですからね。

プロ棋士が、こういう記事を書くのはおかしいのかも?とも思いつつ。
ファンから見てプロが近いということは、その逆もまた然り。とも思います。
最近の盛り上がりを中から眺めていて、将棋指しより将棋ファンになりたいと思うこともたまにあります。
そういうわけにはもちろんいかないので、すぐ自分で否定しますけどね。

 

ということで将棋ファンの話。
長い前フリでしたが昨日、雨続さんのラジオ解説を聞きました。
その記事がこちら
これで内容がよくまとまっていると思いますが、熱心な方は探して聞いてみましょう。(7/21までのようです)

「〇〇将」という言葉が聞かれるようになったのは、いつの頃からなんですかね。
〇の中身はいろいろ当てはめられそうで、こういうのを考えるのはけっこう好きです。
自分のことを考えてみると、まあ一応プロの将棋指しですから「指す将」なのは当たり前として、でもそれより上位にきそうなのが「読む将」と、あと「語る将」かなと思います。
「観る将」は自分の場合は棋譜中心だし、何より勉強のためだからこれはちょっと違うかもしれません。

昔から、何事も実践より理論が得意なタイプで、うんちくをたれるのが好きでした。
いまでも将棋の歴史だったりマメ知識だったり、あるいは盤上の話題でも戦法の変遷や由来やその背景などを、解説するのはけっこう得意だと思います。
将棋関係の本は毎年かなりの数、買っています。たぶん棋士の中でもかなり上位でしょう。
書くことも語ることと同じぐらい好きですが、どちらかと言うと得意なのは話すことのようです。
これは自分でもやや意外で、最近ようやく気がつきました。

いろんな属性(?)の方がいるということが、その世界を豊かにすると思います。
最近の言葉で言えば、ダイバーシティーです。
自分なりの、いろんな楽しみ方を見つけてほしいですね。
それが許される世界なのはもちろんのこと、どの入り口から入っても、いくらでも深く潜っていけるだけの奥行きがあるのが、将棋の世界の特長だと思います。
「沼」という表現はなかなか言いえて妙と思いました。

 

さて「将棋が好き」は同じですがプロとファンの一番の違いは、やはりプロはその世界に責任を持たないといけないという点かなと思っています。
イケメンでもなければそんなに強くもない僕ですが、自分にしかできない役割もきっとあるし、たとえば対局中の手つきだとか、立ち居振る舞いはきちんとしてなきゃなと改めて思いました。

ファンは、自由で、無責任で、それこそどんな楽しみ方をしても良いと思います。
(指すときは相手がいるので別ですが、一人で楽しむ分には、の意です)
そうすることでこそ将棋の世界がいっそう広がりを見せるし、その方の人生も豊かになると思うので。

ということで、今日は「ファン」というキーワードを軸に、すこし語ってみました。
それでは日曜日のひととき、NHK杯でお楽しみください。

本人がこう書いていて、これはかなり期待大ですよ。

それと日曜日ですが竜王戦決勝トーナメントも行われます。
今日も将棋充ですね。

将棋世界8月号と、振り飛車の話

増刷とのことで、すこし前に話題になってましたね。
昨日は「フジイノミクス」というタイトルでブログを書きましたがこれもその一環でしょう。
2か月連続の表紙起用が、大成功でしたね。来月はどうなりますか。
以前の将棋世界では、1年分集めてつなげると、扉の部分にトップ棋士の写真が現れる、という作りになっていたこともあったと記憶しています。
もしかしたら今後またあるかも?

僕はこないだの大阪遠征のときに読みました。
まず目を引いたのが菅井七段のインタビュー。
いろいろとかっこいいです。

今後もいろいろな戦法を指すつもりですけど、最近は飛車を振ることが多く、王位挑戦に関しては振り飛車のお蔭かなと思います。自分が強くて勝ったというよりは、振り飛車という戦法のよいところをうまく出せたような気がしています

自分がいろいろな形を指して思ったのは『この戦型をやっているから勝てない』という事実は存在しないということです

プロ棋士の中でも、振り飛車党は特に個性を感じさせる棋士が多く、菅井七段もその代表的な一人です。
今回のインタビューには、昔の棋譜からも勉強している様子がうかがえ、先日の王位戦第1局のときに、「大山先生的というか、昭和の香りのする力強い指し回しでした」と書いたのはやはり間違いではなかったのだなと思いました。

実は僕自身も最近は振り飛車を指すことが多くて、まだ良い結果は残せていないのですがそれは振り飛車のせいではないという実感がたしかにあります。
コンピュータは振り飛車の評価が低いとよく聞くのですが、今後また変わることもあるのではないでしょうか。
どんな将棋であれ、中終盤をしっかりと指すことが大切です。
良いお手本から学んで、もう一度棋力を向上させたいと思っています。

 

他の記事では、やはり目玉は藤井四段に関する大崎さんの新連載でしょう。
幼少期の教育法とかにも、注目が集まっているみたいですが個人的には特別な部分よりも、より普遍的な部分に注目することが大切かなと思います。

あと棋聖戦第1局の記事では、僕のブログ記事にも触れられています。
この将棋はその後、いまのところ公式戦には出現していませんがいずれまた登場することもあり、そのときにまた参考にされることと思います。

 

昨日のモバイル中継、羽生ー村山(竜王戦)と斎藤ー青嶋(王座戦)はいずれもすごい終盤戦でした。
最後の場面は僕もリアルタイムで観ていて、手に汗握りました。
まだの方はぜひ、ご覧ください。

後者の王座戦は青嶋五段の先手四間飛車で、相穴熊戦でした。
ここにも個性ある振り飛車の使い手が一人。
最近の将棋界は個性と実力を兼ね備えた若者が多く、本当に面白いです。

最後に再び将棋世界の記事から引用して今日の結びにします。
(「公式棋戦の動き」棋王戦より」)

大山、升田時代のA級順位戦の棋譜を並べると、同じクラスとはいえ、棋士間に力の差があることがよくわかる。皆が同じような力を持つ現代とは大きな違いだ。社会とインフラの発達で情報が平等に行き渡るようになり、勉強法も向上し、洗練された。その分、競争は激しく、なかなか一人勝ちが難しい状況である。関西若手棋士が続々とタイトル戦初挑戦を決めているが、逆に言えば挑戦権を続けて獲得するのが難しいということだ。