お祝い

昨日は谷合新四段と将棋を指して、その後ちょっとしたお祝いの席を設けてきました。
他に大学の先輩と後輩が1人ずつで計4人。世代が離れても棋力に差があっても同じ目線で話ができるのは、将棋の良いところです。

話は自然と三段リーグの話になるわけですが、ずっとあと一歩だった、という話題のときに「11勝以上が11回あった」と聞かされたのには驚きました。
これはたぶん最多記録だろうし、おそらく過去の三段リーグで最多勝ではないでかと思います。(誰か知ってたら教えてください)

もちろんこれは残念ながら、学歴以上に役に立たない記録、勝ち星です。
ただ棋士になれば、この先いくらでも将棋を指す機会も勝つチャンスもあるわけで、これから頑張って活躍してもらいたいです。

ここ数年はさすがに上がるだろう、と思っているうちにタイムリミットがやってきたような状況で、それだけにこれからも変わらず彼と将棋を指せることは本当に良かったです。
かつて自分が四段になったときも、これからも将棋を指せるんだな、将棋を指して生きていけるんだな、ということを何よりも嬉しく思ったものです。
その気持ちは今後も現役棋士である限り、大切にしたいと思います。

おめでとう。

順位差

昨日のB1順位戦最終日は、一番早い終局が23時という長い一日でした。
当然ながら熱戦ぞろいで、山あり谷ありの将棋ばかりだったと思います。
残留の懸かった屋敷ー山崎戦、次点の懸かった千田ー行方戦は終盤での逆転だったように見えました。

下位は3-9が3人並んで順位差で山崎八段が残留という結末。兄弟子幸運でした。
谷川先生との1枚差は、実に3期前の成績によるものなのですね。
(前期・前々期の成績が同じ)
あくまで結果論とはいえ、珍しいことと思いますし、言うまでもなくどの1局もおろそかにできないことを教えられる結果でした。

これで今期の順位戦はすべて終了。
全体的に見ると、やはり若い世代が強く、一世代上の40代半ば~自分たちの世代の苦戦が目立ちました。
次の開幕まで、もっと将棋体力をつけて臨まなくてはと思います。
あと来期はオリンピック(そもそも開催されるのかどうか)とも関連して日程をどうするか、いま検討中と思いますが難しい判断になりそうです。

今日明日は王将戦第6局、舞台は佐賀。
戦型は角換わり腰掛け銀に進んでいますが早くも先手が1筋を詰めているのは目を引きます。

また他にも今日は竜王戦と王位リーグで計5局、タイトルホルダーが2人いて師弟そろい踏みだったり兄弟弟子対決だったり、豪華で見どころの多い一日です。

エリート

昨日のB2順位戦最終日は、キャンセル待ちだった近藤六段が勝ち、競争相手の横山七段が敗れたため逆転でB1昇級、七段昇段。
順位戦参加から4期、23歳でのB1到達は過去に数えるほどしかないスピード記録です。
藤井七段に先んじて昇級を重ねているという点も大きく、周囲も一目置くエリート出世になりました。

この世代だと他にもいち早くプロ入りした増田六段や、颯爽とタイトル戦に登場した本田五段など注目すべき若手が多いですが、そういう中で誰よりも早くここまで来た実績はやはり大きいと思います。
同世代の中で抜けた存在になるということがこの世界ではまず大事で、それに続く者がどれだけいるかで世代の厚みが変わってきます。

自分の世代にとっては厳しく残念な一日でした。
奨励会入会年度で見ると同期の出世頭は松尾八段で、横山七段がこの年でそれに続けば本当にすごいことと思いましたが。
ただエリート人生とは無縁でも、苦労を重ねつつも四段になれた数は多く、しぶとい世代でもあります。
これからも頑張りましょう。

今日はB1最終日、今期の順位戦はこれでフィナーレを迎えます。

3・11

相変わらずコロナ関連のニュースに目を奪われる日々が続いていますが、今日はあの震災の日です。もう9年になるのですね。
ウイルスとの戦いがいつどういう形で終息できるかまだ分からない状況ですが、自分自身は長期化も覚悟していて、もちろんウイルスから身を守ることは大事ですが今、より大切なことは、他のことでダメージを受けないことかなと考えています。

当面の間は体力を落とさないようにするとか、気が滅入ったりしないようにして日々を過ごすことが特に大事になりそうです。
防災もその一つで、買いだめするなら紙類とかを不必要に求めるのでなく、いざというときの備えに必要なものを買っておくようにしたいものと思います。

あと、しばらくの間はできるだけ外食したいと思っています。
人混みを避けつつ、騒ぐこともなく静かに食事してお酒を楽しむことも可能だと思うので。
あとはもちろん将棋で世の中を明るくすることができたら最高ですね。

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最近の好局紹介など。

先週あたりからすこし振り飛車の景気が良い印象を受けています。
昨日の中継は4局中3局が先手四間飛車で、2勝1敗。
あとの1局は相振り飛車で、室谷さんあわや逆転勝ちで惜しい将棋でした。
心機一転、これから頑張ってもらいたいです。

一昨日は西山さんの快勝の他、鈴木ー本田戦(王位リーグ)がまたも見事な居飛穴退治。
金曜日は竜王戦3組で杉本八段が勝ち上がり、逆山からの藤井七段との師弟対決が一歩近づきました。
一週前になりますが水曜日は純粋振り飛車党の戸辺七段、佐々木六段がそれぞれトップ棋士の森内九段、三浦九段を破りました。(王座戦)
振り飛車ファンの方々にぜひ並べてほしい将棋ばかりです。

あと金曜日は羽生ー佐藤戦(竜王戦)が久々に「羽生マジック」と呼びたくなるような終盤でした。この将棋も必見です。

今日はB2順位戦の最終一斉対局など。

三段リーグ

先日の三段リーグ最終日は、女性初の四段昇段ならず、ということで大きく報道されました。

2人の新四段のうち谷合君は東大の後輩で、普段から練習将棋を指す間柄です。
彼はこれまで次点を含む好成績を何度も上げており、藤井聡太現七段に三段リーグで土をつけた5人のうちの1人でもありました。
惜しいところで昇段を逃すことが続いていたので、ようやく、ようやく上がってくれて本当に嬉しく思います。

服部君は今回の西山さんと同じで14-4での次点経験者(それが1期目)で、その後も毎回勝ち越し、他に公式戦でも活躍するなど、評価の高い一人でした。
個人的には2年前に富山にお招きいただいた際に、地元の方々が気にかけておられたのをよく覚えています。
将棋は強くなる過程において、地域差が小さくないはずと思うのですが、昔から今に至るまで不思議なほど地方出身の棋士、それもトップ棋士がたくさんいます。
これからは郷土の応援を背に、頑張ってほしいと思います。

西山さんは本当に惜しかったです。
ただ一人の女性であることはそれ自体もおそらくハンデであるのみならず(この点は想像つきませんが)、昇段の目が出てきたときに他の三段に比べて注目されるということは、三段リーグを勝ち抜く上で基本的にはマイナスです。
例外は「若い」という理由だけで、それ以外の理由で注目されて良いことは少ないです。

ただしひとたびプロになれば、注目されることはプラスに働きます。その瞬間から、今度は注目されることに感謝すべき立場に変わります。
彼女の場合すでにプロ(タイトルホルダー)としての立場を持ちつつ、三段としての立場で戦うというのは本当に大変なことで、その心情は余人には(里見さん以外には)分からないという気がします。
タイトル戦という華やかな舞台で責任を果たす一方で、それでも四段になりたいという強い気持ちを持ち続けるというのは本当にすごいことだと思います。

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かつて十数年前、自分が最終日に負けて昇段を逃したときに、「みんな帰ったよ」とお世話になっている記者の方に言われたことがありました。
自分の人生において、潮が引いていくような経験をしたのはあのときだけです。
(ただし同じことがすぐにもう一度ありました)
「初の〇〇」はバリューがあります。ただ、時間が経てば何でもなくなることも多いです。
今回のことは、自分のことと比べるとはるかにインパクトの大きなニュースですが、それでもやがて三段リーグに常に何人か女性がいるような時代が来れば、見方も自然と変わってくるでしょう。

三段と四段の間の線引きが一番厳しい世界ゆえ、今回のケースであれば潮が引いていくのが正しい姿と思うので、昇段を逃した本人のコメントが出ていたことには本当に驚きました。
それでなくても大きく報道されているところ、酷なことをと思いましたが、責任ある立場を考えると、それもやむを得ないのかもしれません。

西山さん自身にも、女性とか男性とかそういうことでなく、純粋に将棋を見てほしいとか、強くなりたいという気持ちがどこかにはあると思います。
僕も彼女の将棋はいつも勉強しています。羨ましいぐらい華のある将棋です。
昨日の将棋もお見事でした。
これからも注目を集めることは間違いないので、それをプラスに変えて、頑張ってほしいと願っています。