将棋世界9月号 ほか

今月の表紙は、3か月連続の藤井四段と、このたび引退された加藤九段。
現在の将棋界を代表するお二人の特集が大きく組まれています。
佐藤名人の名人戦&電王戦を終えてのインタビューももちろん厚みがあって興味深いものですが、このお二人はそれ以上の扱いで、象徴的な出来事に思えました。

棋譜が多く取り上げられていたのも目を引きました。
保存版になるという意識もあったのかもしれません。
また加藤先生の「感謝のことば」は我々ふつうの棋士にとっても一様に大切なもので、深く感銘を受け、もちろん日頃から意識しているつもりですが改めて公式棋戦がたくさん行われていることへの感謝の気持ちを抱きました。

藤井四段インタビュー、

望外はたびたび将棋界で使われる言葉ですし。僥倖も使われない言葉という印象はなかったですけど

と述べていて、実はこれ、僕もそれほど驚くようなことはないのではとひそかに同感だったのですが、別の部分で

高校は15歳から18歳の3年間になりますけど、18歳から25歳が流動性知能(注略)のピークのようで大事な時期なので、難しい選択になるかなと思います

と語っていて、「流動性知能」という言葉は僕もまったく知らなかったので、やっぱりとんでもない中学生だなと改めて思いました。

僕もググって調べてみたのですが、30代半ばになったいま、たしかに流動性知能の衰えはあるような気がします。
彼がどういう考えでこの言葉にたどりついて、近い将来(いわゆる進路について)どういう決断をするのかは分かりませんが、とても印象に残るフレーズでした。

その藤井四段、昨日は非公式戦で都成四段に完敗。
棋士になって初めてと思われる拙戦でした。

するとこんなちょっと煽るような、タイトルの記事も出てきたりとか。
天才神話に陰り?
(ちなみに、読むと分かりますが筆者の結論も僕と同じで、十分に考えられること、と結ばれています)

僕から見たらむしろ、彼も人の子なので、たまにはこういう将棋になってしまうことは当然で、それがたまたま非公式戦で出たのは、かえって「持ってる」ような気がしますけどね。
何にせよ、席上対局のイベントで、結果が注目されたり報道されたりというのがそもそも異例ですし、しかもまだまだこの状況は続くでしょう。
記事にもある通りファンの方にはどうか気兼ねなく、論じてもらえたらと思います。
それはとても喜ばしいことだと思いますので。

 

 

昨日は倉敷で「将棋文化振興自治体 全国将棋サミット2017」が行われました。
地元紙・山陽新聞の記事

台風の影響を心配していましたが、無事盛況のうちに終えたようで何よりでした。
何度か書いている通り、将棋に取り組んでくださる自治体を全国に増やしていくことが、これからの将棋界にとってとても大切なことと思います。

今日は日曜日ですが、モバイル中継も2局あります。
JT杯@福岡はやはり台風の影響が心配で、何事もないことを願っています。

雑誌の話など

このブログでも何度も書いている通り、最近は本当に将棋界の話題が豊富で、相変わらずいろいろと幅広く取り上げていただいています。
ここ最近はダイヤモンド(経済誌)、ナンバー(スポーツ誌)、GQ(ファッション誌)、と直接には将棋と関わりのない世界の雑誌で、大型の将棋特集が続きました。
全部は追えてないとは思いますが、気づいた範囲でできるだけ目を通すようにしています。

GQの佐藤名人と山本一成君の対談は、ウェブ上に動画もアップされていました。
この対談の中で、「2017年のponanzaはそのうち人間に負けるかもしれない」というような話が出てきて、たとえ話としてバックギャモンの世界の例が出てきます。
この話は僕自身もいろいろな人と(たぶん一成君とも)話したことがあって、おそらくそうなるであろう、という未来の一つです。

数年前の電王戦で菅井五段(当時)が電王戦に出たとき、「10年後は人間のほうが強いと思う」というPVが話題になったことがありました。
似たような意味合いもあったのではないか思います。
実際、当時の習甦に彼は敗れ、その後夜を徹したリベンジマッチでも敗れたわけですが、いまやれば勝つのではないかと、最近の彼の充実ぶりを見ていると思うことがあります。

電王戦のソフトはたぶんそのまま保存されているはずで、それは再現性の確保という意味合いもあったと僕は理解しています。
つまり、いずれ人間の進歩を分かりやすく検証する機会が、訪れるかもしれません。

 

昨日の注目の一戦は、菅井七段の完勝。
本局も、うまくさばくものだと感心するしかない、見事な指し回しでした。

藤井四段、中学生タイトルホルダーになるチャンスはあと1棋戦(棋王戦)のみ。
というのが報道の中心のようで、さすがにいくらなんでもそれは難しいのではと思うのですが、世間の期待ももちろん分かります。

プロは何より将棋の内容に注目していて、この将棋も完敗と言っても大きな悪手があったわけではないので、評価が下がるようなこともないでしょう。
次の順位戦も、その次も、引き続き注目ですね。

昨日も書きましたが明日、連盟近くの「レンタルスペースさくら」にて、指導対局をします。
千駄ヶ谷ふれあい将棋ひろば(指導対局、ビギナーズセミナー、奨励会にアタック!)
ぜひ、いらしてください。

業界誌である将棋世界の話題は、また明日にでも。

指導対局とか

まだあまり知られていないように思うのですが、夏休み期間中、将棋会館道場の混雑緩和等のために、近くのレンタルスペースを借りることになったようです。
千駄ヶ谷ふれあい将棋ひろば(指導対局、ビギナーズセミナー、奨励会にアタック!)
※18時頃追記:リンクアドレスが変わっていたので、差し替えました。
申し込みフォームが追加されています。

一昨日連盟に行った際に場所を見てきましたが、とても綺麗で、快適です。
いままでにない試みで、はっきり言って赤字だとは思うのですが、いまの将棋会館は昨今のブームに比してあまりに手狭ですし、オープンなスペースで外からも見えるのは良い宣伝にもなるのではないかと思いました。
こじゃれた場所で、ちょっといい道具で、指すというのはきっと気持ちの良いものだと思います。

こちらであさって、6日の日曜日に、若手の佐々木大地四段と2人で指導対局をすることになりました。
連盟の道場・教室等での指導対局は、たぶん5年ぶりぐらいだと思います。
ぜひ、お問い合わせの上、お越しいただければ幸いです。

 

連載記事のご紹介。

羽生善治三冠とサイバーエージェント藤田社長、二人の考える将棋のいいところとは?
お二人の対談記事、全4回とのこと。
HPの将棋コラムは僕も欠かさず読んでいますが、これはとりわけ楽しみですね。

カレーと将棋と、熱いトークの夕べ
最近は将棋界といろんな世界のコラボがありますが、あまりに斬新すぎて、企画を聞いたときには笑いました。
僕もカレーはかなり好きなので、こっそり潜り込もうかちょっと迷ったんですが(笑)冷静に自重。
記事が読めて嬉しいです。
ほぼ日形式ということで、数日前から1日1話ずつ更新されているみたいです。残り3回。

 

軽くプライベートの話。

昨日は勝間さんの経営で有名なゲームカフェ「win-win」に行ってました。種目はカタン。
ボードゲームカフェは最近都内に増え続けているようで、僕はかなりいろんなゲームをやるほうなので(強いのは将棋のほかはバックギャモンぐらいですが)、とても喜ばしく思っています。
将棋はとりわけ良いものですが、対人のボードゲームには共通する良さというものが、いろいろとあるように思います。
いまは全体としてかなりブームが来ている状態で、今後いっそう盛り上がってほしいと願っています。

 

今日は藤井四段が、タイトル挑戦中の菅井七段と対戦。
戦型は先手中飛車に進んでいます。

順位戦

昨日は何年ぶりかに、夕休明けから控室で順位戦の検討。
20代の頃は日々、連盟に通い詰めていたものですが最近はすっかりご無沙汰でした。
やっぱりリアルタイムで将棋を観るというのは勉強にもなりますし、何より楽しいので、今後はまたときどきはこうやって、足を運びたいと思っています。
名人戦棋譜速報

昨日のB2は比較的進行の早い将棋が多く、夕休前後にまず注目したのが中村修ー飯島戦。
最終手△3九銀が必至というのにしばらく気づかず、「投了」と聞いてすぐにすべてが判明。
投了以下▲3九同金に△同竜だと▲5六歩で難しいのですが、代えて△5九金▲4八玉△6八竜の3手詰があります。
直前の▲3七銀に代えて▲2六歩△3九銀▲同金△同竜▲5六歩という変化を検討していたので、という人間ならではの盲点でした。

鈴木ー戸辺戦の116手目のコメント、変化図を作ると↓のようになります。
(115手目▲5四角に代えて▲7三桂△同飛▲5四角△7二歩▲7四桂まで)

この変化はかなり奇跡的な順で、▲7三桂をこのタイミングで打たないといけない(△同銀には▲7二銀で詰むので、△同飛に限定できる)というのがミソ。
最終手の▲7四桂が「詰めろ逃れの詰めろ」で、どうやらこの局面は先手勝ち。
すごい変化があるものだと、控室で盛り上がっていました。

この順をふまえて、106手目の△9九飛成では△8八飛成もあり、以下▲9六玉△7六飛▲8六金△7二銀・・という変化も難解。(検討の感じでは後手が勝ちそう)
実戦の終盤というのは、毎回ではないけどちょくちょくこうやって作り物以上に難解で面白い変化を内包します。
本当に面白く、そして不思議なものです。

 

日付戻って一昨日のC2は、遠山ー増田戦が、相雁木のスピーディーな駒組み、その後のまったりした攻撃陣再編成、急に終盤へとなだれ込んでいく流れ、とどれも自分にはびっくりで、これが近未来の将棋なのかと衝撃を受けました。
遠山君本人のブログに書かれている変化も、なかなかお目にかかれないような面白い手順です。

ちなみに△3三角までの局面は、公式戦では初めてらしいですが前にも書いた通り、僕は子どもの頃に何度も指したはずです。
その後は角を2六(8四)に転換することが多かったと記憶しています。
まさか平成も30年近くなって流行の兆しを見せるとは、将棋とは本当に不思議なゲームだと思います。

ところで、↑のブログに「最近は前例を調べていないので」と書かれていて、ちょっと考えさせられました。
自分のように、他のプロの将棋を熱心に見ているのは、いまや少数派、あるいは守旧派なのかもしれません。

昨日もそうだったし、最近は控室に足を運ぶ棋士は少なくなっています。
他にもっと効率の良い勉強法や、やるべきことがあるのも事実なのでしょうけど、結局は楽しくないと続かないので、僕はこれからもいまのスタイルを大きく変えることは、ないような気がしています。
(と言いつつ先のことは分かりませんが)

楽しみながら強くなるのが理想で、プロになるとそうとばかりは言っていられない、と言いつつも根幹となる部分は同じです。プロである前に人間なので。
しばらくはいまの生活を続けて、結果が残せるように頑張りたいと思っています。

天才論~「ユリイカ」2017年7月号

しばらく前に話題になっていたんですが、最近ようやく読み終えたのでご紹介。
猛烈に面白かったです。

見た目は将棋世界のムックかなという感じですが、本当の中身は哲学書。
でもこの号の内容は、大半が将棋で、何とも不思議な雑誌です。

佐藤康光九段が

やはり天才の定義としてはふたつあって、ひとつは一瞬の煌めき。(中略)もうひとつは、(中略)同じことを長時間持続させる才能。技術ではなく、精神的な部分ですね。その両方が備わっていないと、天才とはいえないのではないかと思います。

と言えば、
次に羽生三冠が

ひとつは若いときの煌めきにあります。

しかし同時に40代・50代になっても活躍をされていたので、継続して活躍していたという意味でも天才といえると思います

と似た角度から語り、
しかしそうかと思うと今度は森内九段が

安定型というよりも爆発力のあるタイプの棋士で、そういう方のほうが天才的だと思います。

あるいはもうすこし別の視点から見れば、将棋界では、新戦法や新しい手を生み出すような独創的な将棋を指される方が天才といわれるのかなと思います。

とすこし視点を変えて語っていたり。
なかなか将棋雑誌でも組めないような、贅沢なラインナップ、濃厚な特集になっています。

個人的にとても興味を惹かれたのは先崎九段のこの一節。

才能というのは生ものなので腐りやすいんです。取り扱い危険物というか、かえってその腐ったにおいに自分自身が耐えられなくなって駄目になってしまう。それよりも将棋の世界は必ず勝ち負けがつくので、負けたときにどう乗り越えていくかとか、ひじょうに精神的ストレスを伴うところで対峙していかなければいけない。そういうとき将棋の才能というのは役に立たないですからね。プロのトップ10に入るような世界では、才能があっても勝ち負けに対する耐性がなければ駄目なんです。

天才は天才を知る、かどうかは僕には分かりませんが、棋士は棋士を知る、棋士にしか分からない棋士の世界、というものはたしかにあって、そういうものをこれだけまとまった分量、まとまった熱量で読めるというのは貴重な体験でした。

 

あと天才論といえば、最近読んだ山口瞳さん(この方はかつて将棋界の大変な支援者だったそうです)の「続・礼儀作法入門」にこんな一節がありました。

私は、天才と常人をわけるものは集中力にあると思う。もしくは持続力である。ある時期において、ひとつのこと(自分の好きなもの、自分に関心のあるもの)に全身全霊でもって集中できるのが天才である。(中略)だから、私は、天才が偉いとは思わない。それは人間のひとつの型であるにすぎない。私は自分が常人であることを悲しまない。

これはいろんな意味で共感するところ大で、僕は棋士の中ではたぶん飛びぬけて集中力がないほうなんですが、まあそれはそれで一局の将棋、一局の人生だなあとよく思っています。